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第7話 森の主は、おじさんと呼びたい 〜青い瞳とエレメントの視覚〜

 ペチ……ペチ……


 ペチ……ペチ……




(――なにか、聞こえる……)




 ペチ、ペチ……




(……!?)




 不穏な音で、反射的に目を開けたアキム。月明かりだけの部屋の中、ぼんやり目の前に見えたのは小さな人形のような影。それはアキムのほっぺたをペチペチと手のひらで叩いていた。



 ペチ……



「ようやく起きたの」




 距離が近すぎて目の焦点が合わない。人形のような大きさの物体。アキムは髪が伸びる呪いの人形を思い出し、飛び起きる。



「うわああ!ちかよるな!」


「……案ずるでない、旅人よ……」



「おお!お化けぇ!」


「……落ち着け、旅人よ……」



「ひいいいい!」


「もう、うるさい!! だまれ!!」



 アキムはポカンと額を殴られた。



(え!?)



 薄暗い部屋の中、必死に目を細めてピントを合わせると、目の前にいたのはアキムの顔の大きさほどしかない小さな妖精だった。



「妖精……?」


「うん。わたしは妖精なの」



「え?なんで!」


「なんでじゃない!妖精なの!」



「え?え?なんで?なんで?」


「まったく、物分かりが悪い……これだからおじさんは……」



 ハァ、とため息をつく妖精。



「……おい、誰がおじさんだ」


「あんた人間でしょ?40年くらい生きてたら、おじさんじゃない」



「まて、俺はまだおじさんじゃない。おじさんに片足は突っ込んでるかもしれないが、まだこの通り筋骨隆々、元気な好青年だ」


「何言ってるのよ、人間の中じゃ立派なおじさんよ。泥沼にズブズブ両足突っ込んだお・じ・さ・ん!」



「まて……なんで沼でのこと知ってるんだ?」


「見てたの」



「いたのか?……あそこに」


「いたというより、あの森が私なの」



「ちょっと待って……また異世界の洗礼か、妖精が存在する世界……」


「私はドライアド。あなたたちが西の大森林と呼んでいる、あの森そのもの」



「ドライアド?妖精?」


「あの森、つまり私を炎から救ってくれたでしょ。お礼を言いに来たの」



「あの森そのものが……君?」


「ドライアドとしては森から離れられないから、お出かけするときは妖精として存在を切り離すの」



「ちょっと理解が追い付かないけど……この世界では常識なのか」


「常識ではないわ。めったに妖精として行動することはないし私は人とはなれ合わない」



「ところで……何と呼んだらいいの、ドライアド?」


「なんでもいいわよ。特に名前なんてないの」



「じゃあドラちゃん……はなんかあれだな……ええと、ドーラ」


「ドーラ?……なら、それでいいの」



「ドーラは何歳なんだ?たぶんおばあちゃんだろ」


「年齢なんてあってないようなものよ。私は何度も生まれ変わる森そのものなの」



「そういえば、俺の年齢はなぜわかった?」


「生き物の生命を見ることができるから……かな」



「またよくわからないことを……」


「わからないならそれでいいけど、あんた……この世界の人間じゃないでしょ」



「え?……そうみえる?」


「あんたの生命そのものを見ると、この世界の他の人間とは全く違うわ。それに私を炎から救ったあの技術もこの世界では見たことがないの」



「……見ていたのか」


「別にあんたの事をどうこうしようとは思ってないの。ただ救ってくれたことにお礼を言いたかっただけなの」



「特別なことをしたわけじゃないし、たまたまいろんなものを持ち合わせていただけ。他のみんなとやったことは変わらないよ」


「そうかもね。でも結果として……ね」



「で、そろそろ頭の上から降りてくれないか」



 ドーラはアキムの頭の上に腰かけて話していた。



「いいじゃない、森からわざわざ飛んできたんだから少しは休ませて」


「いいけど……そろそろ寝させて」



 アキムは大きなあくびをした。この世界に来てからというもの、色々なことがあり過ぎてゆっくり休めていない。



「やっぱりおじさんは駄目ね、しかも異世界から来た者には常識がないの」


「たしかにこの世界の常識はまだわかってないけど、おじさんはよせ」



「普通の人なら妖精なんか見たら驚いて、 感嘆、驚嘆、感服、賛辞、激賞なの」


「おおげさな……こんなおチビちゃんに」



「嘘だと思ったら、見てみなさいよそこ」


「え、どこ?」



 ドーラが指さした先、部屋の扉の方に目をやる。いつの間にか扉は開いていて、そこにはグランがひれ伏していた。



「グ、グラン!なんでそこに!?」


「ドライアド様……よくぞいらっしゃいました」


「うむ、くるしゅうないの」



「グランこんな夜中になんで?」


「アキム、お前の部屋から声が聞こえてきたのでな。また事件か何かと思ったら、まさかのドライアド様じゃ」


「ふふ。これでわたしの偉さが分かったの」



「ドライアド様、本日は何用で?」


「このアキムに森の炎を食い止めたお礼をしに来たの。グランあなたもありがとうね」


「さすがじゃアキム、もうドライアド様の御眼鏡に適うとは」



「お礼って、やっぱり魔法とか使えるようになる?」


「残念だけどアキムに魔法の素養はない。おじさんだから無理なの」



「おい……おじさんは関係ないだろ、異世界から来たからなんだろ?」


「まぁあなたがそう思うならそれでいいけど、魔法は使えないの」


「ぐぬ……」



「そのかわりアキムをこの世界の人と同じように暮らせるようにしてあげるの」


「たぶん普通に暮らせそうだけど……なにか違うのか」



「あなた、目の色が黒い。たぶんエレメントが見えてないの」


「エレメント?」



 ドーラは頭の上からアキムの顔を覗き込み、小さな両手でアキムの両眼を覆った。



「目を閉じて」



 そういうとドーラの両手がポワっとひかり、アキムの目蓋を温めた。



「うわ……なになに?」


「これでよし」


「ドライアド様いったいアキムに何を?」



「みんなと同じ目を与えたわ。これでエレメントが見えるようになった」


「アキムお前、エレメントが見えてなかったのか」


「だから……エレメントってなんなの」



「じゃあお礼はこれで終わり。森を守ってくれてありがとうアキム。その青い眼、素敵よ!」



 ドーラは浮かび上がり、部屋の中を一回りしたあと、開いた窓の隙間から出ていった。



「勝手に入ってきて、勝手に出ていって……エレメントってなんだよ! あと勝手に部屋の窓開けて入ってきたなら、ちゃんと閉めていけよ!」


「アキム、ここにきて早々ドライアド様に好かれるとは、良かったのう。なかなかない事じゃ」



 グランはドーラが出ていくのを見守ったあと、眠そうに目をこすりながら扉を閉めて部屋を出ていった。




(――だから……エレメントってなんだよ!)




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