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第13話 王宮の天才騎士が工房を買い叩こうとしたので、全力で返り討ち(プロデュース)することにした

 

 ――コノアの町



 結晶王国クリスタニアの中心に位置するルミナリス城。その城下町。アリエナとギムレットの住む町でもある。西の大森林、グラン工房ともほど近い場所。今日、グランとアキムはコノアの町の武器屋へ納品へ来ていた。


 グランの武器はいわゆるブランドものとして扱われている。安くはないが固定客がいて確実に売れる商品。メンテナンスも充実しているので長い付き合いの顧客が自然と多くなる。その結果、武器屋にとっては良いお客を呼ぶ商品として評判がいい。



「グラン、今日はもう納品が終わったけど、この後どうするんだ?まだ時間が早いけど?」


「今日はちょっと用事があってな。古い馴染みに会いに来たんじゃ」



 そういうとグランはアキムを連れて街の中心へ足を向けた。街の入口近くでは露店が多かった印象だが中心部へ近づくほどそれは減り、大きな建物が多くなる。商人や貴族の家だろうか。建物も豪華で大きいがそれに伴った庭の大きさもアキムの目を引いた。



「お金持ちって感じの家ばっかりだ……すごい」


「城に近い場所はそれだけで威厳を持てるからのう」



「ステータスってやつかぁ」


「目的地はすぐそこじゃ」


「すぐそこって……門番が立ってるけど」



 門の左右に立つ門番は華やかな甲冑を着ていた。コノアの町を囲む城壁も立派なものだったが、ルミナリス城を取り囲む城壁もそれと同じくらい大きく、豪華な装飾が施されていた。



「王宮騎士団ですか、ここの門番は」


「そうじゃな。いわゆるエリートじゃ」



「グラン殿。ご苦労様です。本日は何用ですか」


「友人に会いに来た、兵舎へ通してもらいたい。新人も一緒にな」



「ハハ、いつものやつですな! ですが、今年こそは我々レオン隊長の勝利ですぞ!」


「そうかもしれんのう。じゃがわしは鍛治師、わしの客の武器は最後まで面倒を見る」


「ではどうぞ、お通りください」



 門番二人が重い閂を横に滑らせると、地響きのような音と共に重厚な扉が開く。グランは慣れた足取りでスタスタと中へ進んだ。アキムはおそるおそるそれに着いて行く。



(初めての城内、さすがグラン工房のグランは顔パスかぁ)



「グラン、兵舎ってことは城の兵士に武器を卸してるとか?」


「何人か客はおるが、兵士の武器全部は無理じゃな」



「グランの武器は高いもんねえ」


「ちがうちがう、王国の為なら採算度外視で作るが、わしの武器は大量生産できん」



「あの工程を見てればわかるよ。たぶん普通の武器の倍くらいは時間がかかってるよね」


「そうじゃな。それに加え最近は戦争が少ない。そのせいで今の武器は装飾が豪華なものが好まれる風潮がある」



「それでギムレットの彫金も人気が出てるのか」


「冒険者が扱う武器のほうが武器としては役に立っておる。平和な時代じゃ」



 しばらく歩くと、二人は広い庭の兵舎に着いた。城壁の中は道以外、奇麗に芝生が植えられているが、兵舎の庭の芝生だけは剥がれ、殆ど土が見えている。剣術訓練の跡だろう。兵舎の中から何人かの兵士が出てきた。その若い兵士たちに交じって白髪の老人が一人。



「ジン!」



 グランが大きな声を上げ手を振ると兵士が全員立ち止まる。そして声をかけられた白髪の老人がこちらへ歩いてきた。



「よお!グラン、元気かい」


「お前さんよりは元気だろうよ。わしゃドワーフじゃからのう」



 グランと仲良くしている老人にアキムが会釈する。髪の毛はほぼ白髪だが、老いてる印象はない。背筋の伸びた立ち姿がそうさせるのであろう。



「この方は?」


「おお、アキムに紹介しよう。ギムレットが言っておったじゃろ、こいつが『白銀』じゃ」



「あの『古き剣聖 白銀』ですか!」


「アキム……本人を前にして『古き』はちと失礼じゃぞ」



「あ、すいません!つい聞いてた名前をそのまま口に……」


「間違ってないよ、古いのは本当だ。今年でもう67歳。寄る年波には勝てないってやつさ」



「ジン、こいつがアキムじゃ。最近雇った新人で工房に見習いとして置いとる」


「キミがアキム君か、話は聞いているよ。私はジン・ベイネイ。グランとは古い付き合いでね。武器と防具は勿論、星鉄会の木剣もグランに頼んでいる」



「木剣? 星鉄会って、武器は木剣なんですか」


「そうじゃ、殺し合いではない。剣術大会じゃからのう」



「てっきり星鉄会っていうから鉄がぶつかり合うものだと……」


「星鉄会は古くてね。戦争があった時代はすべて本物の武器と防具を使っていたが、それでは怪我で使える兵士が減ってしまうという事で今の形になったんだよ」



 そういうとジンは木製の鞘から木剣を抜いた。過酷な訓練でその身は傷ついてはいるが、歴戦の強者ともいうべき引き締まった印象がある。



「木剣といっても真剣勝負。自分だけの良い武器を持ちたい。だから毎年グランに頼んで新調してもらってるんだ」


「これもだいぶ使い込んでおるのう」



 グランは自分が作った木剣を見て頷いている。武器は使われてから、その武器の善し悪しが現れるといつもアキムに言い聞かせている。



「星鉄会に出るのは今年で最後だと思っている。王宮騎士団のレオンは強い。勝っても負けても今回が潮時さ」


「評判はレオンに大きく傾いておるのう。なにより去年の引き分けでその勢いが凄い。じゃがわしに言わせればレオンは若いだけじゃ。ジンが同じ歳の頃ならひとひねりじゃ」


「私も気持ちだけは負けてないんだが、さすがにこの歳になると足腰がきつい……」



(――年齢が原因?足腰か……)



 ジンは笑顔の中に少しだけ悲しそうな目を見せた。二人の会話を静かに聞いていたアキムはその表情を見逃さなかった。



「剣聖に勝つかもしれないほど……強いんですねそのレオンという人は」


「若いだけじゃ、それに顔がいいだけで人気が出ておる。わしは好かん」


「グラン、それじゃ私がかっこよくないみたいじゃないか。これでもモテるんだが」



 アキムの顔色が変わる。



「それは聞き捨てなりませんね、イケメンですか」


「アキム、どうしたんじゃ」



「レオンですよ……王宮騎士団の隊長は若きエース。モテるんでしょ」


「アキム君、モテるのは私もだ。そこは誤解しないでくれ。市場や露店に行くといつも野菜を多めにもらったりしてるぞ」



「いや、ジンさんはモテるけど年寄り。レオンはモテる若造。俺は許せないんですよ、俺より若くて俺よりモテる奴が」


「お前さん、何を言っておるんじゃ……」


「年寄りってアキム君……」



 二人は何かに燃え始めたアキムに不安を感じている。



「グラン、これからジンさんの木剣を作るんだよね」


「どうした、毎年の事じゃ」



「絶対に勝てる木剣を作りましょう。俺は俺より若くてモテる奴が許せ……いや、純粋にジンさんに勝ってほしい!」


「アキム君……なにか目的があれな気がするが」



「グラン、ジンさん。年齢を理由に何かをあきらめるにはまだ早い。絶対勝ちましょう!」



 アキムが熱弁していると、衛兵たちがジンを呼んでいた。訓練の時間らしい。



「ジン隊長! そろそろ始めます!」


「おう! わかった、いまいく!」



「ジン、邪魔して悪かったのう。都合のいいときに工房に来てくれ、今年の木剣を仕上げよう」


「この歳ではもう隠居みたいなもんだ。仕事は殆ど他の者に任せてるからな。明日工房へ行くよ」



「そうかそうか、いくつか良さそうなのを見繕っておく。では明日な」


「ジンさん、絶対勝ちましょう!明日待ってます」



 グランとアキムは兵舎を後にした。後ろで兵士たちが訓練する声や音が聞こえている。すると道を隔てた反対側の兵舎から一人の青年が出てきた。その金髪碧眼の騎士は長身で端整な顔立ち。こちらへ駆け寄る身のこなしに風になびく髪、そのすべてが完璧だった。



「グラン殿! グラン殿ではないですか!」


「レオン、今年も返事は同じじゃ。断る」



 アキムはそのレオンという名前と、グランがレオンと知り合いであったという事に驚いた。



「この人がレオン……」



 アキムは近づいてきたレオンをつま先から頭のてっぺんまで、なめまわすように見た。非の打ち所がない。そのイメージだけが頭に浮ぶ。



「グラン殿、私は諦めません! 必ずあなたをわたしの専属に!」


「え?専属?」


「こやつはわしを専属の武器職人として抱えようと企んでおるのじゃ」



「企むだなんてそんな、ただグラン殿の武器を独り占めしたいだけですよ。そうすればもう俺に敵はいない! このアトラシア大陸一の剣士になれる! そしてヴァリエール家には、グラン殿をグラン工房まるごと迎えるに足る十分なお金があります」


「わかったじゃろアキム。わしがこの若造を好かん理由が」


「なんとなくわかったというか、ストレートにわかったというか……貴族ですか」



「グラン殿、このおじさんは誰ですか?」


「アキムという。わしの工房に入った見習いじゃ」



「見習い……要らないな。ギムレット殿だけでいい。あなたは雇いません」


「グラン、やっぱり俺も好かん!」



 イケメンは鼻につく。アキムの勘は図らずも当たっていた。



「グラン殿、賭けをしましょう。『星鉄会 隊長戦』私が白銀に勝ったその暁にはグラン工房を我がヴァリエール家の専属鍛冶としてお迎えします!」


「……ジンが勝ったらどうするんじゃ」



「無いとは思いますが、もしそうなったときには何でも一つグラン殿の要望を聞きましょう」


「くだらん。条件のつり合いがとれておらんわ、だいたいお前は……」




 アキムが突然大声を上げる。




「よしわかった! その条件飲んだ!」



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