第12話 輪ゴムの衝撃、異世界ツインテール爆誕 〜ドワーフたちの青春、再び〜
「おおおおお! 出来た! ゴムだ!!」
「ふっふー。ほらね」
「さすがアリエナじゃ……やはり、天才というかなんというか」
「そうだ!……ちょっと待ってね」
「どうしたのアキム?」
アキムは錬成したゴムに氣を送り込み、形を円筒形に変えた。
「あら、アキムも錬成したものの形は変えられるようになったのね」
「ある程度はね。でもアリエナみたいに複雑な形のものはまだイメージできないんだ。このくらいが精いっぱい」
アキムはポケットからカッターを取り出す。カチカチっと刃を伸ばし、ゴムを輪切りにし始めた。
「あ、アキム!そのカッターっていうの、いつくれるのよ!前から欲しいって言ってたのに全然くれないじゃない」
「これは危ないの。子供が持ってていいものじゃないの」
「子供ってねぇ……この世界じゃ17歳で立派な成人なの。だから今の職にも就いてるって言ったじゃない」
「でも危ないものは、危ないの」
アキムは騒ぐアリエナを横目に、輪切りにしたゴムの真ん中を丁寧にくりぬいた。そして二つの『輪ゴム』が出来上がる。ギムレットがくり抜いた円いゴムを手に取る。
「これは何に使うんじゃ?」
「それはそれで使い道はあると思うから、あとで考えてみよう。テーブルの脚にもいいかな?」
ギムレットは円いゴムを伸ばして不思議そうに見ている。
「アリエナにはこれをプレゼントしよう」
「何これ……」
「輪ゴム」
「輪のゴム、だから輪ゴム?」
「アキム……あなた、モテない人生だったでしょ」
「ん?……なんでわかった」
「クリスタニアの年頃の女の子が欲しいのはカッターなの!こんな小さな輪っかのゴムじゃないの!」
「アキム……わいでもわかるぞ、そこはカッターじゃ。輪のゴムではない……」
答えを間違えたアキムに悲しそうな目を向ける二人。ギムレットはアキムの腰をポンポンと叩いて同情した。
「なにか、勘違いしてませんかねあなた達」
アキムは自信たっぷりに言い放った。
「今まで自重していた私の世界の常識……それをいよいよ! ここに持ち込む瞬間が来ました!」
「なんじゃ……急に」
「今からでも間に合うわアキム。カッターにしなさい。真新しいTajimoのカッターとホルダーがハイエースに積んであったでしょ。赤いやつ。あれでいい」
「アリエナ、わいは紫のやつもいいとおもうぞ」
「ちょっと! お前ら勝手にハイエースの中覗いてるだろ!」
「いいじゃない、減るもんじゃないし」
「それは俺の世界では男が言うセリフなんだよ」
「して……アキムよ、お前の世界の常識とはなんじゃ。なにをしようとしておる?」
「ちょっといいかな。アリエナは髪が長いけどいつもリボンで後ろに結ってるだけだよね」
「そうね。長くなるとみんな後ろで束ねて、あたしみたいに結うか、三つ編みかのどちらかね」
「じゃあちょっと髪を触ってもいいかな」
「え……な、なによ……」
「いいじゃないか、減るもんじゃないし」
「減るわよ! あたしの精神がすり減るわ、しらないおじさんに髪を触られるなんて!」
「知ってるおじさんだろ!……いや、おじさんじゃない!」
「まぁまぁ、落ち着け二人とも……わいのまえでイチャイチャしないでくれ」
「してません」
「してません」
「とりあえずごめん、ちょっと我慢してて。お願いだから」
アキムはアリエナの顔を覗き込んで、手を合わせてお願いした。
「もう。変なことしないでよ」
「じゃあ、まずはリボンを取って……と。次にアリエナ、いつも持ち歩いてる櫛かしてくれるかな。ちょっと髪を梳かして整えたい」
「あんたがほどいちゃうから整えなきゃいけないんじゃない、もう。ほら」
アリエナは仕方なさそうにポーチからコンパクトな櫛を取り出してアキムに手渡した。アキムはその櫛で丁寧にアリエナの髪を梳いてヘアスタイルをリセットする。
「髪の毛長いのに綺麗ですね。ちゃんとお手入れされてますね、枝毛も少ないし」
「なによ、何が言いたいのよ」
「俺の元居た世界では男の人は女の人の髪を触る職業ではこんな感じなんだ」
「う……アキムだから変なの? それともみんな変なの?」
アリエナが顔をしかめて苦そうに舌を出す。どうやらこういうのは受け付けないようだ。
「ごめんごめん……ここでやっと輪ゴムの出番。紐やリボンではできない髪型だとおもうんだ」
アキムはアリエナの後頭部、高めの位置にまとめた後ろ髪を持ち上げ、輪ゴムで一本に結った。そしてそこにある銀の鏡をアリエナに差し出す。アキムが輪ゴムで髪を結うのを横で見ていたギムレットは、口を開けたまま固まっていた。
「な、なにこれ……」
「お気に召しましたでしょうかお嬢様。紐やリボンでは滑ってしまって絶対に維持できない高さ、輪ゴムの弾力とグリップ力があってこその髪型でございます」
アキムがかしこまって礼をする。アリエナは銀の鏡に映る自分の角度を何度も変え、後ろの髪の高さ、そこからしなやかに一本にまとまった、垂れ下がる髪をみる。
「ポニーテール。それがこの髪型の名称でございます」
「ポ……ポニーテール……」
「仔馬の尻尾という意味でございます」
「しっぽ、確かに尻尾みたい!この形!」
口を開けてみていたギムレットがやっと思い出したように呼吸を再開した。
「な……なんという破壊力じゃ、ポニーテール! 長い事忘れていた青春、あの甘酸っぱい感情を思い出したぞ……」
「喜ぶのはまだ早いぜ? 二人とも」
「え?」
「なん、じゃ、と……」
「これで終わりじゃないんですよ輪ゴム……私はここに2つの輪ゴムを用意しました」
アキムは残りのもう一つの輪ゴムを人差し指でクルクルし始めた。
「お、おぬしいったいこれ以上何を!」
「アキムやってちょうだい……覚悟はできてる! あたしは宮廷魔術師・副師長アリエナ・アシュリー。新しいものを恐れない!」
アリエナの眼差しが真剣さを帯びる。アキムは小さく頷き、ポニーテールをほどいた。そして櫛でヘアスタイルをリセットすると、ポニーテールはその面影すら残さず消えさった。ギムレットが息をのむ。
「アキムの世界……おそろしい文明の威力じゃ、輪ゴムだけで人の心をもてあそぶとは」
アキムがアリエナの髪の毛を頭の中心から右と左にキッチリと分ける。
「アリエナ様。銀の鏡は一度おいてください。完成してからのお楽しみです」
「はっ……あたしとしたことが」
アリエナはテーブルに鏡を置いて目を閉じた。アキムは櫛で集めた髪を耳より少し後ろの高い位置にまとめる。そして手首にかけた輪ゴムで一気に縛った。それを反対側にも丁寧に。片方を作り終えた時点で既にギムレットは白目をむいていた。
「出来ました。お嬢様。こちらも輪ゴムでしか維持できない高度な髪型でございます」
髪を左右に束ねたアリエナが目を開ける。アキムが差し出した銀の鏡を覗き込むと、そこには見たことのない魅力あふれる自分が映っていた。
「ツインテール。それがこの髪型の名称でございます」
「ツイン、テール……」
「二つの尻尾という意味でございます」
「な、なによこれ。さすがに子供っぽくない? ……でも、あれ……悪くない、かも」
白目をむいていたギムレットがやっと思い出したように呼吸を再開した。
「な……なんという破壊力じゃ! ツインテール!! わいが長い事忘れて……」
ギムレットがそこまで言ったとき、グラン工房の扉が開いた。
ギイイ……
「いま帰ったぞーギムレット、おおアキムもいたか……アリエナ……!?」
グランも白目をむいた。
――輪ゴムの脅威、異世界ツインテール爆誕の瞬間であった。




