青炎の魔術師と呼ばれた理由
『いいな〜!俺もお父さんやお母さんみたいに魔法が使えるようになるかな〜!』
『なるわよ』
『お前ならきっとお父さんたちよりも強い魔法使いになれるさ』
『へへっ、そうならいいな!』
過去の、遠い……過去の記憶。鼻から上の顔もしっかりと覚えていない両親の顔。
俺の頭の中にはいつも優しく微笑む母と、肯定してくれる父の面影が見えていた。
魔術師、剣士、能力者、呪術師、この世界は自分の中にあるもの……いわゆる第六感というものが実現可能な世界だ。そしてその中で名を馳せれば馳せるだけこの世界では優位に扱われる。VIPってやつだな。
初級
中級
上級
王級
天級
魔級・神級
どの分野にもランク付けという形で分類される。VIP扱いになるのは当然1番上の級な訳だが……剣士や能力者、呪術師は魔級か神級はいるのだが、ここ数百年……魔術師だけは存在しなかった。
◇
数百年前……神級の魔術師がいた時代。
『う…うわぁああ!やめろぉお!!』
『てめぇはこの世界のために死ぬんだ』
黒いローブを着た見知らぬものが民を襲いひとつの街が崩壊しかけていた。
だがしかし……その街は崩壊しなかった。国家戦力でもない、名も知られていない……普通の一般人。
人数ではなく、たった一人の男がその街を救った。
民を襲っていた黒いローブの腕をガシッと掴む一人の男。
『あぁ?誰だテメェ』
『お前らのようなやつに名乗る名前はねえな』
『ならいい。お前もこの世界の浄化の餌食になれ!』
ローブを着た敵は掴まれていない逆の手で剣を握り、そのまま振りかざした。
『ッ!?』
『一体……何が……』
ローブを着た男も、民も驚いていた。振りかざされた男は避けようとせず…立ったままその攻撃を受けていたからだ。
振りかざした剣は男の体を確実に斬った。だが……溢れ出したのは血でも、人肉でも、骨でもなく、【青炎】だった。
『あ〜そっか……能力で青い炎は創れても魔法で常時青い炎を出せるやつってこの世界にはいなかったっけ』
『何を言ってやがる』
『まぁお前が気にすることじゃねえよ。んで、親玉はどこだ?』
『ック……舐めるな!』
ローブを着た男がそう言うと仲間がぞろぞろと出てきて男を囲うようにする。
その中には剣士の他にも呪術師、剣士、能力者、魔術師がいた。
(この数はさすがにめんどいな〜……隠すほどの力はまだ出してないしチャチャッと片付けるか)
ローブを着たヤツらが構えを撮った瞬間、男はすかさず右手を前に出して青い炎を全体に放出させた。
青い炎て視界を遮られるもの、青い炎を直接受けるもの、様々いたが敵は青い炎を防ぐことも反抗することも許されなかった。しかし男は一瞬にして市民を担いでその場を脱却した。
『怪我は無いか?』
『はい。大丈夫です。ありがとうございます』
『ならいい。ここらは火の海になるだろう。早く逃げて隣の街にいけ』
『あの……あなたは?』
『俺はまだやるべきことがある。』
『そう……ですか。あの…名前とかって……』
民がそう質問すると男はにこりと優しい……でもどこか寂しそうな表情で答えた。
『俺に……名前なんてものは無い』
『っ!?』
当然驚いた表情をする民だが男はそのまま続けようとはせず、表情を戻しその場を後にした。
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後々判明した表記ではこう書かれていた。
一人の男は街を救った。
死者を1名も出さず、民を救い、崇められる存在となった。
だがしかし、その魔術師はその戦いで死亡した。
今まで出なかった神級の魔術師……名も無き男が到達し、ひとつの伝説を残した。
二つ名なのか名前もないから一つ名なのか……付けられた異名は【青炎の魔術師】
そしてその名は今も尚……語り告げられている。
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◇
5歳……適正審査……×、不合格。
この人物は適正ゼロです。
「……え?」
レイ・ノーヴァ。彼の耳に入った言葉は自分でも良きしない言葉だった。
適正ゼロ、不合格……そのまんまの意味だ。俺には能力者になる資格も、魔術師になる資格もない。稀にいる普通の人間というやつだ。
「嘘……」
「この子が……」
母は口を抑え嗚咽し、父は絶望した顔をしていた。
5歳になったら必ず適正審査というものを受けなければならない。そこで分かるのは自分がどの分野に分類されるのか、魔力はどの程度なのか。そしてその全てに適性があるのか。
分野に分類されなくても魔力だけがあったり、今は分からないだけで適正があると判断される場合もある。
だが、俺はなかった。
最初から魔力も、適性も、何も持ってせず生まれてしまった【忌み子】のような存在だ。
そこから両親は口を利いてくれなくなった。
思い出すのは約一週間前に微笑んで話してくれた両親の顔と優しい声。
見て見ぬふりをした。その事実を受け入れたくなかった。
みんなと同じ人間のはずなのに……どこか違う存在。それほど俺の中で絶望していた。
それはそうだろう。幼い時なんてもろにそうだ。他人とどこか違うだけで劣等感を覚える。それが生きていく上で一番重要な魔力や能力の話になるのなら尚のこと。
俺は……部屋の隅っこで泣いているだけだった。
ただひとり虚しく……体操座りをして出てくるご飯を食べての繰り返し。
それが続いていくうちに口を利かなかった父が次第に罵声を浴びせるようになった。
『お前なんてうちの子じゃない!』
『この役たたずめ!!!』
『この家から出ていけ!!!』
何故そんなことを言うのか……当時の俺は理解なんて出来なかった。
でも、生きていく上で重要な部分が欠落しているのなら当然かと次第に思うようになった。
この世界は適正審査を受けた分野でいい結果や成績、強さを残しそいつの人生が決まり、そして家族の地位にも影響が出る。
能力というのはひとつしか極めることができないもの。例えば炎系統の能力がでたのなら炎関連のものは鍛錬できてなんとかなるが水や風、物体を新しく作ることができない。それが能力者だ。
魔術師というのは魔法……基本的に何でもできるがなんでもできるが故に何かを極めるというものが難しい。
上級能力者の父、中級魔術師の母の元に生まれたのが俺……普通はいい所をもって生まれてくるはずだったらしいのだが、俺はそうではなかったらしい。
だから出ていった。
要らないのならいいかと……家を出た。
街に出たところで行く宛てもない、何かをしたいとも思わない。ただぶらぶらと歩いていた。
歩き疲れたなぁと感じた頃には多分2時間ほどたっていたと思う。当時5歳の子供は適当に街を歩けば家はどこにあるかなんてわかる訳もなく、帰れない。それほどの距離を歩いた。
だが、どうでもいい。両親に必要とされていないのなら……家に帰ったところでどうにもならない。
あんなに優しかった父と母……特に父の態度が豹変したのに驚いていた。
「そんなに適性が大事かよ」
そう呟いて地面に転がっていた石を蹴り飛ばした。その直後───
「おい……あれ見ろよ」
その街に住む人間が驚きながら指を指していた。
「何……あれ……」
「嘘、でしょ?」
次第に全員がその異変に目を向き、驚いていた。
全員が驚いている方向へと俺も視線を向けるとそこには……街中で噴火のようなものが起きており、火柱がたっていた。
快晴で青かった空が赤黒くなっており、街中の人間はパニックに陥っていた。
そしてそれは俺もだった。
「お母……さん。お父さん。」
あれだけ嫌な思いをした。帰らなくてもいいとすら思った。
でもやはり、両親が心配で心配で仕方がなかった。
この時の父は仕事で出ていったのは分かっていた。だが母は家で家事をしているはずだ。
どこに家があるのかは分からない。でも、走った。
来た道をとにかく走った。
この胸の鼓動はなんだ。この冷や汗はなんだ。
その謎はすぐに分かった。あの火柱だ。
あの方向は紛うことなき自分の家の方向だったからだ。
無事でいてくれ、無事でいて欲しい。そう願いながら家の方向に向かって走った──────
ボウッという音が聞こえ足を止める。
「っ!?」
噴火していた火がこちらに飛び、家に火がついて倒れてきた音だった。前が塞がれてその先には進めない。
この街が火の海に包まれようとしていたのだ。
「何をしてるボウズ!早くこっちに来い!」
「……っ!」
おじさんの声に振り返ったすぐ、噴火していた火がこちらに再度飛び、おじさんと俺の間に落ちた。
「クソ!!!」
その声だけが聞こえ、俺もかなりパニクっていた。
詰みだ。もう何も出来ない。家の瓦礫と誰かが飛ばしたものが挟み込むように飛んできて、火に囲まれている状態になってしまった。
「一体誰がこんなことを!」
「この街はもう終わりだぁ!」
声だけが俺の耳の中に入ってきた。耳だけが情報をくれた。それらを加味して、詰みだと。俺の人生もこの街も終わりだと……思ってしまった。
だが、不思議と死にたくないという気持ちはなかった。
当然だろう……家を出るまで両親は俺を虐待のようなことをしていたのだから。今になって少しだけ心配という気持ちが芽生えているが、俺が死ねば両親もきっと喜ぶと……俺は自然とそう思った。
「ここで俺が居なくなれば、お母さんもお父さんもまた笑って暮らせるかな」
そう独り言ちながら赤黒い空を見上げ、俺は目を瞑った。
その瞬間だった──────
【望め……迷い子よ】
頭の中に、声が響く。低いとも、高いとも言えない加工したような変な声が頭に響いた。
俺は頭を両手で押えながら……
「誰だ……なん……だ、これ」
喋るのもやっとだ。おそらく、煙を吸った影響もあるだろう。だがそれ以上に頭が痛くて仕方がなかった。これ以上息を変に吸ったらいけないと思い、絞った声で言った。
【お前が望めば力をやる】
「そん……なの……しんよう……できる……わけ」
【お前は適性がある。この力を扱えるという適性がある】
「……適性……」
不合格、不適合、×と言われた俺。だがこいつは適性があると言ってくれた。なんの力を扱えるのかは知らない。でも、このまま無能力で、無適性でいたいだなんて思わない。なんでもいい。例えそれが恐ろしい力だったとしても俺の力に変えて……俺のものにしてやる。
どうしてかそう思った。どんな力を貰えるとか興味なかった。なにか貰えさえすればそれで良かったのだろう。
だから俺は────────────
【迷い子よ……望めば───】
「力が欲しい!俺に、俺に力を……くれ!!」
両親も、適性審査を見て嘲笑っていたヤツら全員、見返してやる!俺がこの力で、神級になってやる!
例えそれがどんなに過酷でも、どんなに苦しくても、どんだけ笑われても、俺は必ず神級になって見返してやる!
(どんなやつでもいい、魔術師でも、剣士でも、なんでもいい!)
【迷い子よ。お主にこの力をやる。そしてこの力を持って……この……ば……し……で……く……】
プツッ────────────
電波が悪くなったような切れ方だったが、正直そこはあまり気にしていなかった。
仰向けに倒れ、空が視界に入る。驚くほどの快晴で先程までの赤黒い空や飛んできた瓦礫は綺麗さっぱり嘘のようになくなっていた。視線を横にすると街を歩いている人間が不思議そうにこちらを見ている。
(……?さっきのはいったい……)
そう心の中で呟きながら起き上がり、自分の手を握って広げる。
「力って……一体なんだったんだ?」
それに、確実にこの街で【何か起きていた】だが今は起きていたどころか何も無かったかのようになっている。
「ねえ、今一瞬青い炎見えなかった?」
「見えなかったけど……」
「嘘!?気のせいだったのかな?」
ボソボソと周りにいる街人がそういうことを話しているのが聞こえ軽く考えながら立ち上がる。
(青い炎……俺が見ていたのは赤い炎だったし街は凄いことになってた……)
一体あれはなんだったのか……そして俺は本当に力を手にしたのか……そんなことを考えながら歩を進める。
彼は振り返ること無かったが……彼、レイ・ノーヴァのいた場所だけ、火で炙ったような、火跡があった。
◇
辿った道を戻り、家へと入る。
「おかえり、レイ」
「……ただいま」
「どこ行ってたの?」
「散歩……してたよ」
「……そう。」
今までの母とは少し雰囲気が違う……いや、今までの優しい母に戻ったと言えばいいのか?そういう面影があった。
「お母さん?」
じっと俺を見つめ、優しい笑みを浮かべる母。それがすごい違和感だったのか、怪訝な表情になりながら肩をすくめる。
「あなた、本当にレイ?」
「そうだけど……どうして?」
「だってあなたに、魔力が宿っているもの。それもとても大きな……」
やはり、あれは嘘ではなかったんだ。あの出来事は……本当に起きたことだったんだ。
「それは……えっと……」
「まぁいいわ。いい時間だしご飯にしましょうか」
母はそれ以上何も聞くことなく、いつも通りの優しい笑みでそう言った。
それがとても違和感がして……気になったから聞いた。
「ねぇ、お母さん……頭の中に声が聞こえたんだけど、お母さんは聞こえたことある?」
「ないわよ……何を言ってるのレイ。」
「……そっか」
「きっとあなたは後天的に発症する子だったのよ!喜びなさい!これはお父さんにも報告しなきゃね!」
違うんだお母さん。後天的でもなんでもない。俺は……俺のこの力は……知らない誰かに貰ったものなんだ。
すごく、罪悪感がした。したけど、もう戻れない。誰に貰ったのかも、この力がなんなのかも知らない。
だけど、望んだから……力を貰うことが出来たんだ。
戻る気もない。最後何言ってたかはわからなかったけど、俺はこの力を自分のものにするって決めたんだ。
◇
「見つかったか適性者は?」
「ええ……この力の適性の子を探すのすごい大変でしたよ」
「400年振りの青炎……ずっと現れなかった神級・魔級の魔術師……力をどう使い、神か魔になるか……楽しみだな」




