転生せよ!ブルシット・ジョブズ
スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)は、アメリカの実業家であり、アップル社の共同創設者として広く知られている。彼は革新的な製品を生み出し、テクノロジー業界に大きな影響を与えた。しかし、彼の経営スタイルは「ブルシット・ジョブズ」として広く悪名高いのである。いわゆる、悪役令嬢ジョブズの誕生である。
◇取り巻きの話:
ブルシット・ジョブズ回りにはたくさんの取り巻きがいた。いわゆる、iPhone や iMac が神掛っているという驚き屋のひとたちだ。最初の iPhone は確かに凄い。ぴかぴかの背面に、スマートな画面を持ち、タッチペンの操作ではなくて指で操作する感覚はとても未来的だった。しかし、今となってはどうだ。ブルシット・ジョブズが、胸ポケットや、Gパンのポケットや、おなかのポケットから取り出すたびに、驚き屋の Mac 信奉者は大袈裟に驚くのである。ああ、まるで、四次元ポケットじゃないか!と。
ブルシット・ジョブズの権威は、取り巻きによって支えられている。いわば、取り巻きそのものがまるでブルシット・ジョブズの才能のように振舞うのである。いわば、優秀な秘書、優秀なデザイナー、優秀なプログラマーに、優秀な建築家、あらゆる優秀さを持った人たちがブルシット・ジョブズの廻りには集まるのである。まるで、スタンドはスタンドを呼ぶと言うように、類は友を呼ぶのである。ブルシット・ジョブズのしがないアイデアが、周りの優秀な取り巻きによって実現されるとき、あたかもブルシット・ジョブズの功績のように見えるのだ。しかし、それは、取り巻きの優秀さに過ぎない。
◇脅し屋の逸話:
ブルシット・ジョブズは、競合他社において得意な優位性を保つことが知られている。彼の生み出した Mac は市場の1割に満たないものの、例えば Windows の OS に関しては、Mac OS の物まねだとして、ゴミ箱の形状にケチをつけた。ゴミ箱といえどもそれは美しくなくてはいけない。ゴミ箱に Mac のファイルを捨てると「スポッ」と言う音とともに吸い込まれるのである。まさしく、ビジネス的なゴミ箱でありダッシュボードとよばれる吸い込み型のごみ収集システムではないだろうか。ビルの壁にゴミが伝わって落ちていく雰囲気を味わえる素晴らしい Mac OS であるのに...なぜだ、Windows のゴミ箱はいったいなんだ。あの四角いものは。中にいれても、何の音もならない。ゴミ箱を空にするときのいちいち「ゴミ箱を空にしますか?」と言う問いに返事を返さないといけない。実にスマートではない、とブルシット・ジョブズは言うのだ。
◇尻ぬぐいの罠:
ブルシット・ジョブズは、尻ぬぐいの名人である。彼の発言を真に受けて、あれこれと UI を弄ってどうしようもなくなっているプログラマに対して「ちょっと貸せ、おれが直してやる」と言って、デザインをちまちま直して完璧な電卓を作るのがブルシット・ジョブズである。
電卓の根本的な解決にはならないことは誰もが知っている。その計算機は log や sin, cos の計算はできないが、UI は完璧であった。なにしろ、ブルシット・ジョブズの発案だからである。なによりも、彼の感性が隅々までいきわたるのが iPhone の設計であり、Mac の設計である。おや、本来は NeXT STEP かもしれないが、ここでは問わないことにする。
Mac で表示されるフォントやウィンドウの影、初期 iPhone の細やかな R にはブルシット・ジョブズのこだわりが感じられる。おそらく、デザイナーの尻ぬぐいをブルシット・ジョブズが行っているからだ。
◇書類穴埋め係:
ブルシット・ジョブズは形式美を重んじた。彼の作る製品は、まるで美術品のように美しい。iMac の背面の曲線、iPhone の滑らかなエッジ、MacBook の薄さと軽さ、すべてが形式美を追求した結果である。彼は、製品の外観だけでなく、内部の設計にも形式美を求めた。本来の性能なぞくそくらえだ。CPU がどうとか、メモリの容量がどうとか、ファインダーがクソ使いづらいとか、そういうのはどうでもいいのである。Ruby のバージョンが上がらないとか、いまでも Brew でインストールしなければならないんですか? なんてのは些細なことなのである。いや、Windows マシンならば重要ではあるのだが、Mac ではそんなことはどうでもいい。書類の些細な間違いといっしょである。大雑把に、かつ形式美に忠実であればこそ Mac OS が生きてくるのである。
◇タスクマスターの登場:
ともすれば、異世界転生したブルシット・ジョブズは煩雑なタスクマスターとして再び君臨することになる。つまりはこうだ。
「その、iPhone のカメラのでっぱりは見苦しいぞ」
「その、マウスの充電器の差し込みは何故裏にあるんだ?」
「その、Mac Pencil の充電は、なぜ iPad に刺さってしまうのだ?」
「その、Mac Mini の電源ボタンは、何故底についてるんだ?」
「その、MacBook の熱効率は何故にそんなに悪いのだ?」
異世界転生したブルシット・ジョブズは騒がしく、まあ、どうでもいいんじゃないかというとこに突っ込みをいれるのだった。もう、Mac は Mac ユーザーのものなのだから、好きにさせておけばいいじゃないだろうか。Mac はもうブランド品なのだ。性能や美しさや実用性を追求する時代は終わってしまったのだ。数万円もするストラップを引っ提げて、拡張性のない数十万円もする Mac Studio を据えるのがいまどきの Mac ユーザーなのだ。ブルシット・ジョブズは、そんな Mac ユーザーに向かって、あれこれと注文をつけるのである。いやはや、悪役令嬢ジョブズの転生である。
【完】
いやはや、本当に、スティーブ・ジョブズが生きていたら案件が多いので困るのだが、本当に Apple 社は何処に行くのであろうか?




