神話の時代
竜族と人間の間に産まれたカロは、神話の時代、【失われた時代】と呼ばれる遙かむかしから世界を放浪している。
数千年前、世界は1度滅びた。
文明は大きく衰退し、僅かに生き残った人類は聖書にある記述から約束の地を目指し、神に祈りを捧げた。
その祈りは聞き届けられ、神は闇に包まれた世界を支配していた夜の魔女を討伐すべく、アヴァロンで眠り続けていた騎士王アーサーを遣わした。
そうして、世界は救われて現在に至る。
「今の世界の国の名前が花の名前だったり、動物の名前だったりするのはアイツの趣味よ。アイツ、動植物が好きだもの」
深緑の瞳がむかしを懐かしむ様に言った。
「ママは、神様とお友達なのですか?」
「竜族は旧い時代の神ですもの。知識として知ってはいるけど、友人かと言えば違うわよ、カロ」
竜族の女性はゴロゴロと寝そべってフルーツを口に運んでいる。
威厳の欠片も無いこの女性こそ、シレナの里の長老でありカロの母親であるシレナである。
「何の為に人間がこの里に来たのかしら」
シアンは竜族がニガテよね、とシレナは確認するように言った。
「シアン様は竜族と交流のあるフェルグス伯爵家の方でしょう?」
「人間が家の名を残す為に分家から引き入れた人間を、人間社会から見ればそうなるでしょう。でも、竜族にとっては違うわ」
戦いの後、アーサー王は娘を設けた。
赤き竜の血を引く娘を迎え入れた事でフェルグス伯爵家には竜族の血が混ざる事となった。
その血を失わない様に血族結婚を繰り返した結果、シアンの養父は子を成せない身体に生まれシアンをフェルグス本家の跡取りとして迎え入れた。
「私は、人間が信用出来ない。信頼もしたくない」
かつて、リビアと呼ばれた大地に君臨していた【毒を吐く竜】
聖ゲオルギウスが打ち倒したと伝承に残る竜族がシレナである。
シレナを退治しに来たその騎士に一目惚れして押しかけ女房となり、そのふたりの間に誕生したのがカロである。
伝承と言うものは、いつの時代でも尾鰭背鰭胸鰭の付くものだから、細かい食い違いは気にしないのがシレナである。
「竜族が人間嫌いなのは、あの人が信仰していた宗教みたいに竜族を迫害する人間が多かったからよ」
人間の多くは、自分と違うものを忌避する。
獣人族が迫害を受けるのも、ヴァンパイアや魔女と言った魔族が表立って生活出来ないのもその為だ。
「アナタ達が里に来たのは、コーデリアの事、かしら?」
御足労様ね、とシレナは言った。
「ソレイユ王国で忌避される、【赤い目の娘】、竜族であるマックに預けられた人間の子供です」
「ママは物知りなので、コーデリアについて何か知っているかもしれない、と、カロが教えました」
カロの頭を撫でながら、「私のところに聞きに来る必要があったかしら?」とシレナは言った。
「私は未来視が出来るけど、口外しないわ。人間はやれ滅亡の予言だなんだと騒ぐもの」
シレナはマーガレット達が里に来る事も、その理由も知っていた。
「コーデリアは今、名前を変え、髪の色を変え、魔法で瞳の色も変えてフィニ侯爵家で働いているわよ」
3年前からね、と付け加えたシレナの言葉にあるメイドの姿がマーガレットとシアン、ふたりの脳裏に過ぎった。
「疲れているだろうし、今日は泊まっていきなさいな」




