姉なるもの
マーガレットはメイドのダリアに髪を結い上げて貰っていた。
生き別れの双子の姉について知ったマーガレットは機嫌が良く、以前妹がいる、と言っていたダリアに姉妹とはどういうものなのか、と聞いてみた。
「わたしの妹は、明るくて優しくて、大人しそうなのにお転婆で家の者を困らせる事が多い子です」
そう言いながらダリアが髪を結い終わるとマーガレットは「お父様達には内緒よ!」と駆け出して行った。
生き別れの妹を探しに行くのだと意気揚々だ。
「...リノ」
ダリアは、友達の名前を思い浮かべた。
子供の頃を共に過ごした彼は今、同じ屋敷で従僕として働いている。
「...分からないのは、当然か」
髪を染めたし、魔法で目の色も変えた。
匂いでバレないように強めの香水も付けている。
『どうしてわたしは、パパにもママにも似てないの?』
【赤い目の娘】
ただそれだけで自分を手放した侯爵とその夫人に託された子供が自分である事、自分とは違い【赤い目】ではない双子の妹がいると言う事を養父は教えてくれた。
ダリア―――コーデリアは、リーノスを解放する為に3年前から屋敷に潜入している。
人買いに攫われた獣人族の多くは奴隷として、その右手に奴隷紋を呪術で刻まれ強制労働をしていると養父から習ったコーデリアは、友達を救いたいと考えてリリーの家から飛び出し、身分を隠して侯爵邸のメイドとして働いている。
リーノスと顔を合わせる機会は多い。奴隷紋を直接見た事はないけれど、彼の過去を考えると「ある」と考えるのが妥当だ。
「呼んだか、ダリア?」
急に話しかけられ、コーデリアはビクッと肩を震わせた。
「い、いいえ?気の所為じゃないかしら?」
「そうか?まあいいや。手が空いてるなら手伝って欲しい事があるんだけど」
侯爵の御母堂、つまりコーデリアの祖母アリスの部屋の片付けを手伝って欲しいのだとリーノスは言った。
アリス亡き後、そのままにされていた部屋だがこの度新しい部屋の主人を迎えるので綺麗に整える必要があるのだそうだ。
「どなたか養子にでも迎えるのかしら?」
「いや?コニーの部屋にするって言ってたぞ」
コーデリアは思わず気の抜けた声を出してしまった。
「あ、やべ。内緒だったんだった。ま、ダリアにならいいか」
マーガレットには双子の姉がいて、見付け出された暁には今度こそ親子として迎え入れるつもりでいるらしい、と天気の話でもする様にリーノスは言った。
(今更、どういうつもりなの...??)
「顔色悪いぞ?具合が悪いならオレからジェイムズに言っておくから休んでて良いぞ?」
コーデリアの内心に気付く事なく、リーノスはそう言った。
言葉に甘えて、コーデリアは使用人棟に戻り父親の思惑はどこにあるのかと思考を巡らせるのだった。