姉探し
「随分と楽しそうにしているね」
突然降って湧いた声にマーガレットはキラキラとした笑顔で振り向いた。
「シアン様!もう、お話は終わったのですか?」
「終わったよ。メグが不貞腐れて木登りをしていた、と聞いて早めにこちらに来たのだけれど」
随分と楽しそうだったから、もう少しで後でも良かったかな、と呟くシアンに、そんな事は無い、とマーガレットは大きく首を振った。
「そうだわ、シアン様。薔薇園の薔薇が丁度見頃なのですが、一緒に鑑賞しませんか?」
「すまないメグ。アーノルド様から託された大切な要件があるんだ。すぐにでも出立しなくてはならないんだ」
寂しげなマーガレットを見ると心が痛む。
「旦那様の要件と言うと、もしや...」
リーノスが呟いたのを聞き逃さず、マーガレットはニッコリと笑って彼の顔を覗き込む。直ぐに口を噤んだ彼だが、長い付き合いのマーガレットには分かる。
これは、「知っていて隠している」顔だ。
「あのね、わたくし、もう子供では無いのよ?教えてくれてもいいじゃない。
お父様は、わたくしに何を隠しているの?」
観念して、リーノスは口を開いた。
「メグには、双子の姉妹がいるんだよ」
ずっと、ひとり娘だと思っていた。
いつまで経っても結婚の日取りが決まらないのは、可愛いひとり娘を手離したくない父親が先延ばしにしているのかもしれない、と勘繰った事さえある。
だから、少しだけ、予想を外れた答えだった。
「オレはメグの姉妹に、子供の頃に会った事がある」
獣人族の隠れ里はソレイユ王国の隣国、セレス王国にあると昔聞いた事がある。
「里の言い伝えにある夜の聖女と同じ、夜の帳を下ろした様な黒髪と夕日と同じ赤い目をしていたから、里では「聖女様の生まれ変わり」、だって騒がれてたな」
元々、麓の人間の村に滞在していたらしいが、幼いながらに高位の魔法を操る事で村人から化け物扱いを受け、耐えきれなくなって噂に聞く獣人の隠れ里に足を運んだ少女は直ぐに馴染んだと言う。
紆余曲折を経て、フィニ侯爵家に来たリーノスが「むかし友達になった娘が「赤い目は不吉」だと家族に棄てられた。本当の親はソレイユ王国マギノア地方領主だ」と言っていた事を伝えると侯爵は詳しく聞き取りを行い、間違いなく自分の娘のコーデリアであると認めた上でマーガレットには内密にする様にと口止めされていたのだ、とリーノスは言った。