夜の聖女
獣人族には、夜の聖女の昔話が伝わっている。
むかし昔、世界が闇に包まれていた頃の話。
獣人は魔獣と呼ばれ今以上に忌避されていた。
村を通りかかるだけで石を投げられるのなら
我々は山深くへと逃れるしかない。
しかし、山には我々を守る結界がない。
困り果てた獣人達の前に夜の聖女は姿を現し
魔法を使って安全な隠れ家を作った。
夜の聖女はその後すぐ姿を消した。
獣人族は今でも【夜の聖女】への感謝を忘れず、彼女が姿を現したと伝わる日には感謝祭を開くのだ、とリーノスはマーガレットに語り聞かせた。
「みんなで聖女の仮装をして、獣の里で採れる木の実を使ったパウンドケーキを食べるんだ。そうだな、人間の食べ物で言うなら、干しぶどうに近い味がする。
子供たちの為に配られるパウンドケーキにはひとつだけ濃い目のリキュールが入っていて、リキュール入りを口にした子供はその後1年幸せに暮らせると言われてんだ」
子供が口にして良いものか、と聞けば、人間と獣人族は身体の造りが違うから問題ない、と返された。
「人間に伝わる、【光の騎士】の話は好きだぞ」
世界が闇に包まれていた時に、天から授けられた聖剣を持ち、光を奪っていた【夜の魔女】を打ち倒して世界に光を取り戻したとされる【光の騎士】の伝承はマーガレットも好きだ。
伝説によると、【夜の魔女】は血を滴らせた様な【赤い目】をしていた。
だからこそこの国では【赤い目の娘】は凶兆の証として忌み嫌われている。