向き合う
侯爵邸の騒ぎを聞きながら、コーデリアはリーノスが持って来たパン粥をゆっくりと口にする。
マーガレットは大人しそうな見た目でかなりの行動派だ、シアンの後をついて屋敷から抜け出すのは想定の範囲内だったので両親が心配しないようコーデリアはマーガレットとして振舞っていた。
度々あった事なので今回も問題ない、と思っていたが父親に連れられて頻繁に登城し【赤い目の娘】についての議論を王族の方々と繰り返し死んだ事になっていたコーデリアが侯爵家へ戻る為の手続きをした。
他の令嬢に絡まれる事もあった。
『【赤い目の娘】などと言う、不吉な姉がいて、フェルグス伯爵令息に災いを齎したらどうするつもりなんですの?』
『今のうちに、身を引いた方が良いのではなくて?』
両国の和平の証でもあるふたりに、【赤い目の娘】の姉がいると言う事実は相応しくない、と彼女らは言った。
ソレイユ王国ならともかく、かつて【夜の聖女】が現れたとされるセレス王国では【赤い目の娘】は寧ろ吉兆であり、双子の姉が【赤い目の娘】であればセレス王国側の印象も良い、と王族の方々は言っていたが、まだ広く知れ渡っていない事、コーデリアはそこまで話上手ではない事も相まってストレスが溜まっていた。
屋敷では「メイドのダリア」としての仕事もあり、ダリアとしての仕事中にコーデリアは倒れてしまい、その結果、マーガレットが屋敷を抜け出している事が侯爵夫妻の知るところとなった。
「シアン様の元には近代最強と言われる護衛騎士の美桜嬢がいるとはいえ、まだ火種燻るセレス王国に単身乗り込むとは...」
ソレイユ王国に恨みを持つ者に襲われでもしたら、と侯爵は気を揉んでいる。
「大丈夫か、ダリア?」
部屋に顔を出したリーノスの姿に、「少し休めば問題は無いわ」とコーデリアは返した。
「ダリア。...いや、コニー」
リーノスはコーデリアの目を真っ直ぐに見て口を開いた。
「...気付いて、いたの...?」
「髪の色と目の色を変えただけで、惚れた相手を間違えるワケないだろ」
匂いを隠す為に強めの香水を付けていた筈だ、と言えば、「コニーの匂いがそれだけで分からなくなるワケないだろ?」と、さも当然の様に返された。
「もしかして、だけどさ。オレが奴隷としてこの屋敷で働いてると思ってる?」
「違うの?」
「もっとはやく教えれば良かったか...」
リーノスは手袋を外す。
そこには、奴隷の証である奴隷紋は無かった。
「コニーは優しいから、オレが人買いに攫われてから今日まで苦しい思いをしているんだと思って助けようって考えてたんだろ?」
思い立ったら行動するところはマーガレットに似ている、と言われてコーデリアは顔を赤くした。
「わたしの心配は、気苦労だったのね...」
それなら、リリーの村に戻って養父を安心させなくては、と考えたところで、先程、リーノスがとんでもない爆弾発言をしていた事を思い出した。
「【赤い目の娘】は、ソレイユ王国では夜の魔女と外見が同じだから嫌われてるだけで、コニーが今まで誰かを不幸にした事はないって実証はされているし、安心してこの国にいてもいいんだ。
寧ろ、マーガレットがシアン様と戻ってきた時にコニーがいなかったらまた大騒動になる」
身の振り方はふたりが帰って来てから決めても遅くは無い、と至近距離で話すリーノスは心臓に悪い。
(ふたりが帰ってくるまでこの距離感だと、わたしの心臓が破裂してしまうわ...!!)




