夢うつつに
昏い世界にシアンはいた。
試練場に奉納されている聖剣から邪悪な光が溢れ出ていて、その黒い光に呑まれた事を思い出す。
「だいじょーぶ?お腹痛いの?」
青く澄んだ目の女性がこちらを覗き込んでいる。
「ここは、死後の世界なのでしょうか?」
「竜の試練場は1部アヴァロンと繋がってるのは確かだけど、貴方はまだ死んでないよ!」
朗らかに告げる女性がシアンの背中を叩く。
ビシリ、と人体から鳴ってはならない音が響いた。
「お前は怪力なのだから、多少は加減をしろ」
「あいたぁ!!脳天にチョップとはやり過ぎじゃないかなあオリヴィエ!!」
不貞腐れた女性の顔に、シアンは産みの父の面影を見た。
「ここに来る道中に、山が2、3消えていた理由はなんだ」
「お腹空いたからお肉食べようと思って猪を追いかけてただけだよ」
頭をさすりながら、女性はそう言った。
護衛騎士の美桜も腕に自信のある方だが、流石に山を消失させる程ではないな、とシアンは思った。
「あたし、ローランって言うの。えーと、【失われた時代】の歴史にあるフランク王国の聖騎士シャルルマーニュって知ってる?」
「古書で読んだ事は...」
古書に記されていた記録ではローランは男性の筈なのだが、シレナの件も考えると細かい食い違いにツッコミを入れるのは野暮と言うものだろう。
オリヴィエ、と呼ばれた男性は彼女と同じ聖騎士シャルルマーニュに所属していた智将オリヴィエだろう、と納得する。
「夜の魔女の子供達を封じるのがアーサー王の子孫の役目だから、シアンは分家出身で竜の血を引いていないから、って先延ばしにした結果が聖剣による封印が綻んだ原因なんだよね!」
だから、代わりの聖剣を持って来たのだ、とローランは言った。
「この剣が無ければ、貴女が困るのでは?」
「あたしはもう死んでるから、今を生きるシアンにこそ必要だよ。死人のあたしが持ったままだと宝の持ち腐れって、ヤツ」
何故、彼女は自分に目をかけるのか、と戸惑いながらシアンは聖剣を受け取った。
「ほら、あっちが出口!外に出たらズバッとやってキラーン!!ってやったら全部終わるからね!」
薄らと見える外の風景には、戸惑っている様子のリンドブルムと美桜、そして最愛のマーガレットの姿があった。
そうだ。竜の試練から逃げない決断をしたのは、マーガレットを護る事の出来る実力を手にする為だ、と昏い闇に引き摺り込もうとする囁き声を聖剣の光で断ち切る。
「頑張ってね!あたしの遠い血族の子!!」
ローランの声は遠くなり、シアンはあるべき世界の大地に戻る。
シアンの右手の甲には竜の試練を超えた証である竜紋が刻まれている。
「シアン様!!」
胸に飛び込んで来たマーガレットをしっかりと抱き締め、シアンは封印完了の疲労から意識を失うのだった。




