竜の試練
まだ陽も明けきらないうちに目覚めたシアンの傍らに不機嫌そうな竜族の男性が立っていた。
次期当主として、彼の名前は把握している。
リンドブルムと言う、長老の右腕と呼ばれる男だ。
「これを」
何の変哲もないナイフをリンドブルムが渡して来た。
竜族がナイフを渡す意味を思い返した。
フェルグス伯爵家の嫡男が16歳になると受ける成人の儀式であり、当主継承の証となる竜の試練を受ける。
霊峰にある試練場に現れる魔族をこのナイフひとつで倒す、と言う単純なものであるが、それが単純に見えるのは「その身に流れる竜の血」を以て封印を施しているからだ。
分家出身の跡取りである為に「竜の血が流れていないお前には危険過ぎる」と先延ばしにされていた継承の儀式を今、受けろと言う事だろうか。
「安心しろ、封印に必要な血くらいは分けてやろう」
そういう方法もある、とリンドブルムは言った。
これは逃げられないな、と腹を括りシアンはリンドブルムの後に着いて歩く。
◇◇◇
美桜はこの世の終わり、とも言える表情で固まっていた。
当然だ、主であるシアンの姿が見えないのだから。
「シアンなら、竜の試練に行かせたわよ」
後ろから寝ぼけ眼のシレナに告げられ、美桜は息を飲んだ。
「死を伴う試練だ、って大仰に言われているからって、現伯爵家当主が先延ばしにして来ていたからね、丁度いいし、受けさせておこうと思ったのよ」
封印に使う竜の血は、竜族の血で代用出来る。
「だから、リンドブルムに同行させたわ。竜の試練に竜族が同行する事は問題ないもの」
竜の試練は、飽くまでひとりで受けるもの。リンドブルムの同行は、封印に必要な血の確保である為に問題はない。
「手を貸すのはダメだけど、【試練場】に【偶々】、【天文学的偶然】に、【通り掛かる】事に対して物申したりはしないわ」
その言葉に美桜はハッとする。
一緒に学んだ事もあり、試練場が長老の屋敷の地下から行く事が出来る場所であると知っている。
寝ぼけ眼ながら、シレナがハッキリと指差す先には【この先試練場!関係者以外立ち入り禁止!!】の文字がある。
つまりそう言う意図か、と美桜はシレナの意図を汲んだ。
「おはようございます、美桜さん。朝の修練ですか?」
「おはようございますマーガレット様!!ええ、そうなのです!!先にシアン様も行っていらっしゃる御様子ですので、見学に来られますか!!」
シアンの名を聞くと、「もちろんです」とマーガレットは即答した。
「竜の修練場は危ないから、コレ持っていきなさいな」
3回だけ身を守るお守りだと、シレナはいって竜の鱗で創られたお守りを渡した。
美桜の護衛騎士としての腕があれば、それだけで十分だと判断したようだ。




