鍛治場の仙人
——カイは自分の潜水士がいるという町に来ていた
「ここらへんのはずなんだけど…もしかして…」
カイはその建物を見たとたん唖然とした、茶色くさびれ、鉄の匂いが充満し、そこら中にスクラップが散らかっている、とても人が住んでいるようには思えない。
「あのーすみませーん…」
カイは中に入って整備士を探した
すると奥の方で、ガキン…ガキン…とまるで太陽を打つかの如く、溶鉱炉の前で作業する老人を見つけた。
(なんだこの暑さ、それにあの爺さん、なんつー格好で作業してんだ…)
その老人は白髪を束ね、整備士とは思えない半袖短パンを着て、ゴーグルをつけている。
「あの…」
カイはやっとの思いで、老人に声が届く範囲に移動し、声をかけた。
その老人はカイの存在に気づいた。
「おお、もしやお前さんがカキか」
「カキじゃなくて、カイです。オルカさんの紹介でここに来ました」
「そうか、わしの名はサイモンじゃよろしく。
「よろしくお願いします」
「ところでお主、もうO2システムを持っているように見えるが…」
「これは、兄貴が使ってたやつで…」
サイモンはカイのO2システムを舐め回すように隅々まで見回した後、何かに気づき口を開いた。
「ふむ…これ、わしがジンに作ったやつじゃな」
「え!爺さん兄貴のこと知ってんの?」
「当たり前じゃ!わしあいつの担当だったし」
なんの因果か、カイの整備士は兄と同じ人物だった。
「てか、これ本当に爺さんが作ったの?」
「正確にはわしのジジイが使ってたのをジンように改良しただけじゃ、ほら早く返してくれ」
「無理だよ、これ今俺が使ってるし」
カイは兄が残した形見を手ばなす気はなかった。
「何!お前まで借りパクするんか!」
「人聞き悪いな…少し借りるだけだよ、つか爺さん使わねぇーじゃん!」
「クソがきが、さっさと返さんか!」
カイとサイモンはO2システムを引っ張り合った、だがサイモンの健闘も虚しく、カイから引き剥がすことはできなかった。
「はあー、もうしょうがないの、少しの間貸しておいてやる」
「いいの?」
「ああ、ただ、お前さんがどれくらい使いこなせてるか、見せてもらう」
「見せてもらうって、何すんだよ?」
サイモンは不敵な笑みを浮かべつぶやいた
「組み手じゃ」
「組み手…?」
「そうじゃ、お主が水中でどれほど動けるか見せてもらおう、先にプールに行っとけ、この建物の裏にある」
「ちょっ、ちょっと待って!…」
カイはサイモンに呼びかけたが、何も言わずに奥の方に行ってしまった。
(遅いな…何してんだろ、あの爺さん)
「すまんすまん、久しく使ってなかったもんだから、なかなか見つからなくてのう」
「やっと来…⁉︎」
カイがサイモンを見るとその姿に驚愕した
明らか一昔前のO2システムを身につけ、ガチャガチャした装備をさらに上乗せした、歴戦の重戦車のような装甲…とてもまともに動けそうにない。
「なんだよ、その動きづらそうなやつ」
「こいつか?こいつはちと昔のタイプでの、ロマンをたくさん詰め込んだ物じゃ」
(明らかに遅そうけど、そんなんで動けるのか?)
「お前さんの勝利条件はう〜ん…そうじゃな、わしに一発でも入れたらそこで終わりでいいぞ」
「わかった」
二人は同時にプールに入った
カイにとって初めての戦闘が始まる