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第一話「出会いと別れの道標」 その1

 古びた本が山積みになった机や床、そして大量の本が収納された本棚、それ以外には殆ど何もない一室で、1人の少年が倒れている。いや、眠っている。

 そこに尋ね人がやってきて、コンコンと扉を叩く音が響いた。


「フェルロ、フェルロはいるかね?」


 部屋の外から少年を呼ぶ声が聞こえる。

 その声に、彼は跳ね起きると、大きくハイ! と答えて辺りを見渡した。自分の置かれている状況がいまいち理解できていない。床には本が散らばっており、まるで強盗にでも入られたかのような惨状(さんじょう)だ。


「入るぞ」


 そう言って、部屋の扉が開かれる。しかし、扉の前には大量の本が積み重ねられており、慌てて呼び止めようとするも、時は既に遅く、山積みの本は豪快に雪崩を起こして辺りに散らばっていってしまった。


「フェルロ、あれほど片付けるように言っておいたはずだが?」


「申し訳ありません」


 部屋に入ってきたのは、紳士服の男だった。少し髭をはやし体格も良い大柄の人物だが、身なりはしっかりと整えられており、気品さえ感じられる。

 そんな彼は、大きくため息を零しながら少年を注意すると、床に転がっていた本を一冊ずつ集め始めた。


「アルベルト閣下! そんな本は置いておいてください、後で僕が片付けます!」


 その姿を見た少年は、慌てて彼が持っていた本を奪うと、机の上に山積みになった本の上に重ねて、改めて彼の前に向き直った。


「2人の時は父と呼んでも良いんだぞ」


 アルベルトの言葉に、思わず少し頬が緩んでしまうが、少年はもう一度気を引き締め直して真剣な表情で彼を見つめ直した。


「いえ、実家に戻った時だけにします。こうしておかないと、本来、閣下とお呼びしないといけない場所でヘマをしてしまいそうです」


 真面目な性格の少年らしい言葉だとは思うが、随分と少年の幼さとは似つかない素振りに、アルベルトは少し苦笑してみせた。そんなアルベルトを見上げながら、少年は改めて、一番疑問に思っていたことを彼に尋ねた。


「それよりも、どうされたのですか? こんな所にまでいらっしゃるなんて」


「いや、私の息子が学院を卒業したのに、研究に明け暮れて、仕事も就かず、友人と遊びにも行かず、引きこもっていると聞いてな」


 そう言われた少年は、バツの悪そうな顔をして、アルベルトを見上げた。しかし、アルベルトは怒った様子も無く、にやにやと笑みを浮かべている。おそらくは、からかうつもりで言ったのだろう。

 そして、少年の表情を見て満足したのか、少しだけ優しい笑みを浮かべてから、アルベルトは要件を話し出した。


「フェルロ、お前は頭がキレるがまだ13歳だ。その頭脳を買われて、14歳から入学が許される学院へ異例の特待生(とくたいせい)として入ったと思えば、6年制の学院を2年で卒業した偉才(いさい)だ。しかし、仕事に就くには少々年齢が若すぎる。成人である16歳にも満たないのは、扱いに困る」


 少し肩を落として話すアルベルトに、()められてるのか、叱られてるのか、それとも呆れられているのかわからない内容を告げられ、少年はなんとも言えない表情をして彼を見上げた。


 当然、少年にもアルベルトの言い分もわかるのだ。自分は異質(いしつ)なのだろう、変わっているのだろう、それは学院でもずっと考えていたことだ。講義も一度聞けば記憶できるし、本も一度読めば全て理解できる、これは異質なことだ。

 けれど、この異質さのおかげで、今の場所にやってこれたのだ。田舎の貧乏な家に生まれ、生みの親からは早くに捨てられた少年は、孤児院に拾われた。そして、そこでこの異質さを見いだされ、アルベルトに出会えたのだ。初めて少年を見たアルベルトは、すぐさま引き取り、養子に迎え入れて彼を側に置いた。そこから、急激な勢いで知識を身につけていく少年を、子供を授かれなかった彼は、本当の息子のように可愛がってくれた。そんな息子の元に訪れた偉大なる父は、優しい笑みと共に告げた。


「そこで、だ。お前に仕事を見つけてきた」


「えっ、僕の年齢でも出来る仕事があるのですか?」


 少年はまだ13歳だ、成人に3歳も満たない子供、そんな少年が就ける仕事など当然見つからない、だからこそ引きこもっていた・・・いや、歴史の研究が好きで引きこもっていた所もある。しかし、それも仕事が無いというのが一番の原因であった。


「ああ、お前なら申し分ない。今や歴史学の分野では、学院の教授達でさえ一目置く存在でもあるしな。ほかの教科も優等生、魔法学に至っては、飛び級のくせに主席卒業なお前にはぴったりの仕事だ」


 確かに、少年は全てにおいて優秀だった。魔法についても、一般学についても、そして何より、一番興味を持った歴史学についてもだ。歴史については、今や殆どの歴史書を読み終え、文献も提出してしまうレベルだった。

 しかし、それでも年齢というものはつきまとう。13歳の少年に、仕事を任せようなどという奇特(きとく)な者は現れなかった。だからこそ、この引きこもりのような研究生活に辿り着いてしまったのだ。


「あるお方の教育係を頼みたいのだ」


「アルベルト閣下がそうおっしゃるとなると、かなり身分の高いお方だと思いますが、僕なんかで大丈夫でしょうか?」


 少年が知る限り、アルベルト=ヒースベルは、五大貴族(ごだいきぞく)の一角をなすヒースベル家の当主を務める人物、後見人としても父親としても親しみは持っているが、公共の場では閣下と呼ぶのもそのせいである。それほどの人物から、あるお方、と呼ばれる人物に自分が教育をするなど、身分違いかと思われた。


「いや、問題は無い。身分は高くとも、年齢は12歳の子供だ。教育係兼遊び相手としては、お前は誰よりも適しているといえよう」


 後半の遊び相手という言葉が気にかかり、その思いが顔に出たのか、アルベルトが少年の顔を見て、決定事項だ、と言葉を付け加えてきた。歴史学の研究だけをやっている穀潰(ごくつぶ)しには、反論する権利はないのだろう。


「こちらに詳細は記してある。確認し準備を整えた上で、明日の朝、指定された場所に出向くように、いいな?」


 机の上に積み重ねられた本の上に書類を置くと、アルベルトは少しだけ視線を落としてから、少年に、頼んだぞ、と零して部屋を出て行ってしまった。その雰囲気がいつものアルベルトらしく無かったためか、少年はゆっくり立ち上がると、彼が置いて行った書類を手に取って目を通し始めた。


「語学、歴史学、魔法学、物理学、数学・・・随分詰め込んであるな、学園と学院、どちらの教科も全てやるのか。それに、神聖学なんてマニアックなものまで」


 そこまで口にした少年は、記された文字をみて言葉を飲み込んだ。

 確かに、13歳以下が通う学園と、14歳以上が通う学院の両方を教えようとは、随分と異質ではあるし、そもそも12歳なら学園に通い、14歳になった時点で学院に通えば良い話だ。しかし、それをしない理由がそこにはしっかりと記されていた。


大神殿(だいしんでん)最高審議官(さいこうしんぎかん)候補生か」


 世界最大の宗教団体、大神殿。その最高指導者である最高審議官、その候補生となるとかなり異質だ。しかも、12歳の時点で候補となっているということは、おそらく一般人や優秀な人材などのレベルでは無く、特殊な巫女(みこ)の類いなのだろう。少年はそれを察し、書類に軽く目を通すと、とりあえずめぼしい本を集め始めた。

 やりたいとは思わないが、いつまでもアルベルトのスネをかじり続けるのも気が引ける。しっかりと働いた上で、自らの研究をやれるのであれば、それに越したことはない。それに、この仕事をこなすことも、アルベルトへの恩返しになると考えたのだ。そんな恩返しに使う本を集めると、散らかっている床に無造作に投げ広げてみる。


「・・・ダメだ」


 ボソッと零すと、周りの本棚を見上げ、大きなため息を零した。自分の本では、12歳の子供にはレベルが高すぎた、これでは勉強にはならない。そう考えると、少年は諦めたかのように、勉強に使うための本を探すため、街の本屋を巡る旅に出るのであった。




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