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第三話「呪われた魔法と研究の行く末」 その5

 少年がペンデュラム島へと来て、既に1年が過ぎた頃、彼らの研究は終盤を迎えようとしていた。しかし、それは同時に最大の壁に近づいたことを意味していた。





 フェイは、手にした新聞を眺めながら、朝食代わりの果物をかじりながらテーブルの椅子に腰を下ろした。そんな彼を眺めながら、目の前で朝食を済ませて珈琲(コーヒー)に口をつけていた。


「シャロック、ワイにも珈琲もらえるか?」


 フェイの言葉に、少年はわかりました、と短く答えるとキッチンにおいて合った金属製のカップに、多めに作っておいた珈琲を入れて彼に差し出した。それを見ること無く、いつの間にか食べ終えて開いていた右手で手に取ると、勢いよくすすった。


大神殿(だいしんでん)の発表、事前に知ってたんか?」


 そして、次に口にしたのは、手にした新聞の記事によるものだった。その記事には、大神殿が数十年間空席だった最高審議官(さいこうしんぎかん)になるであろう候補が現れたことを大々的に描かれていた。名前や詳細は記載されていないが、そんな人物は1人しか心当たりが無いフェイは、それを少年に尋ねたのだ。


「いえ、私も今日の新聞で知りました。おそらく、事前に中央政府にも通告無しでメディアに公表したんでしょう。フィズも来年には16歳ですし、大神殿側は動き始めているんだと思います」


 少年が冷静に答えると、フェイは少し顔を歪ませて再び新聞へと視線を移した。少年の言葉は、タイムリミットが近いことを意味している。同時に、リバース=エンドの研究のタイムリミットも近いことになる。それを、彼も感じ取っていた。


「それは置いておくとして、魔力変換の原理を少し考えてみたんですが、少し相談しても良いですか?」


「ああ、ええで」


 これ以上、この話をするのは気まずいと考えた少年は、フェイに他の話を振った。自分達の直面している、最大の問題点についてだ。


 そう、少年達は、リバース=エンドをほぼ完全に起動でき、制御する方法までは確立することに成功していた。しかし、そこまで辿り着いたが、最後の最後で大きな壁にぶつかってしまっていた。


「この資料を見てみてください」


 少年が差し出した資料を受け取ると、フェイはその資料に目を通していく。


「現状、リバース=エンドを動かすための動力、つまりは魔力をどのように供給すれば動作させることができるかがわかっていません。そこで、前に行った複数の魔導師を使用した集団魔法の運用をさらに検討したんですが、どうでしょう?」


 少年の説明を聞きながら、フェイは、渡された資料の隅々まで読み確認した。しかし、それはこれまでの実験と同様で、到底上手くいくとは思えなかった。


 魔法に必要なのは魔力の供給、それは封呪といえど変わることは無い。そして、時間を超える魔法であるリバース=エンドは膨大な魔力量を必要としていることは、既にわかっていた。封印の解除と動作に必要な膨大な魔力、しかし、それを供給する手段がどこにも記されておらず、魔導回路や魔導式を読み解いても、理解することができなかった。


「これで上手くいくとは思えへん」


 フェイの言葉に、少年は視線を落とした。しかし、その表情には落ち込んだ様子は無く、まるで当然というような諦めにも近い表情だった。


 これまで、少年達はあらゆる方法をとっていた。単一の人物から魔力供給や、動物などを使った複数の個体からの魔力供給、複数名の魔導師からの供給や、魔力の込められた金属や鉱石からの供給など、あらゆる手段をとってみたが、リバース=エンドがそれらを魔力エネルギーとして吸収し、稼働させるには至らなかった。


「何がダメなんでしょう? 後は、エネルギー供給さえ上手くいけば、時空間の超越が可能になるかもしれないのに・・・」


 ここ1ヶ月ほど停滞している2人は、テーブルの上に置かれた新聞を眺めながら、大きくため息を零した。時間は確実に減っていっている。しかし、最後の最後で、どうしても超えられない壁にぶつかってしまったのだ。


「・・・?」


 そんな中、フェイが不意に首をかしげるようにして考え込んだ。視線の先にある新聞をそっと手に取ると、そのままリバース=エンドがある研究室へと向かう。そして、リバース=エンドの目の前に立つと、制御室と呼んでいたカプセルの中へと入っていった。


「フェイ? どうかしましたか?」


 少年も心配そうに制御室へと首を突っ込んで尋ねた。制御室は、全面ガラス張りの個室になっており、中には制御基板や操作盤がいくつも並んでいる。外にある他の制御基板や操作盤とは違う、魔法の発動に必要な、あらゆる情報を入力する専用の操作盤が取り付けられているのだ。


「フェイ?」


 もう一度名前を呼ぶと、フェイはビクッと肩を震わせて少年の方を振り返った。そして、心配そうに自分を見つめる少年をジッと見つめると・・・


「いや、なんでもあらへん・・・すまんな」


 フェイは、何かを考えた後、そう小さな声で答え、少年の横をすり抜けてリバース=エンドの研究室を後にした。


「大丈夫かな?」


 そんなフェイを見送った少年は、誰もいなくなって、時計の動く音だけが響くリバース=エンドを見上げるながら呟いたのだった。





 そんな出来事から数日が過ぎ、研究に進展も無いまま、日々は過ぎていった。


 そして、今日もフェイが眠りに就いた深夜に、少年はリバース=エンドの研究室へと訪れていた。

 それは、少年にとって日課となっていた真夜中の自主研究だ。元々、人と一緒に作業をすることに慣れていなかった彼は、真夜中にこっそりと研究室に来ては、色々な調整や実験を行い、そのデータを記録しては、日中に行う作業に活用していた。それはフェイにも伝えていない秘密の研究だ。


「さて、今日は何をしようかな・・・」


 いつも通り、リバース=エンドの魔導回路などを眺めながら、今日の実施内容を検討していく。当然、既に起動しているリバース=エンドの魔導回路を大きく変更することは無いが、魔力供給ができない今、供給や変換など間違いや修正が必要な箇所が無いかを調べていくことに専念していた。


「魔力供給室を見てみるか」


 そう言って、制御室の隣に立っているもう1つのカプセルに入っていく。こちらも全面ガラス張りの個室で、いつもここから魔力を放出して供給してみたり、動物や魔力の供給源になる鉱石などを置いてみたりして研究を行っているが、今のところ、希望通りの魔力供給は成功していない。そんな供給室の中に入ると、少年は、内部にある魔導回路を見ながら悩み混んでしまった。


 そんなときだった・・・


「えっ?」


 突然、ガチャッと金属音がして振り返ると、魔力供給室の扉が閉まっていた。いつもは、開けたら開きっぱなしな気がしたが、たまたま勝手に閉まったのかと思い、少年はゆっくりと近づくと、扉に手をかけた。


「開かない・・・」


 魔力供給室は、中から見ると押戸になっており、普通なら押せばそのまま開くはずだった。しかし、そのガラス戸は堅くびくともしない。

 次の瞬間、隣からもガチャッと金属音が聞こえて、思わず肩を震わせてしまった。慌てて振り向くと、そこには制御室の中に立っているフェイの姿が合った。


「フェイ?」


 少年がその名を呼ぶと、フェイは、何も言わず制御版を操作してリバース=エンドを起動させていく。


「何をしてるんです、フェイ!」


 何か不安を感じた少年が、大声で怒鳴ると、フェイは少し笑みを浮かべた表情で振り向いた。そして、ゆっくりと口を開いた。


「シャロック、ワイはわかったんや」


 少年を見つめる彼の目は、どこか空虚(くうきょ)で、正気とは思えない色をしていた。だからこそ、少年の感じていた不安はどんどん大きくなっていく。


「スペル=カース・リバース=エンド、なるほど言い得とる」


「フェイ! この扉を開けてください!」


 フェイの言葉を聞きながら、少年は必死に魔力供給室の扉を叩いて彼に訴えた。しかし、彼は全く聞いていないかのように、話し続けている。


「封呪は、全ての魔法の始まりや言われとる。なら、この世界に、初めてこの魔法が生まれたとき、誰もが思ったんやろうな。呪われとる・・・だから、リバース=エンドの頭に書かれたスペル=カースは、誰かが掘って書き足したように汚い文字やったんや」


 そう言いながら、フェイは制御盤に掘られているスペル=カース・リバース=エンドの文字をそっと撫でた。まるで、全てを理解し、決意したような、そんな満足げな表情で。


「なぁ、シャロック、ワイらは、ずっとこの魔法が超越時空魔法やと考えとった。せやけど、きっと違うんや」


「くそっ、なんだこの扉!」


 話し続けるフェイを横目に、少年は扉を力一杯叩き続けていた。しかし、単なるガラスのはずが、全く割れる様子が無い。聖騎士クラスの少年の一撃でも、全く割れない、それは魔力によって強化された封呪としての、神の法具としての存在が、どれほど強い物かを示していた。


「シャロック、ワイは嬉しい。ワイらが、世界で初めてリバース=エンドを使う、最初の魔導師になるんやで」


「止めてください! 落ち着いて!」


 必死にフェイに訴えながら、ガラス戸を何度も何度も叩き割ろうとするが、少年には、それを壊すだけの力は無かった。その事実を理解すると、少年は段々と恐怖を感じ始めた。フェイのその瞳と、ほのかな笑みによって・・・


「止めるんだ! こんなこと、間違ってる!」


 呟くように話し続けるフェイの言葉を聞いて、少年の頭に1つの可能性が浮かぶ。それは、最も残酷で、最も非道な可能性。


「ずっと、ここで研究を続けてきたんや、もう9年や・・・学院を卒業して、ここに配属になって、これだけに全てを捧げてきたんや。他の同期連中が、成功したり出世したりするなかでやで」


 彼は悩んだだろう、この答えを導き出したとき、その結末を知ったとき、それは正しい答えじゃ無いと知っていたから。しかし、その先にしか未来がないと知っていたから、彼は決断したのだろう。


「お願いだから話を聞いて!」


 そんな彼を止めるべく、少年は懇願した。しかし、それは彼には届かない。


「やったんや、ワイは・・・ワイらはやったんや」


 涙を浮かべた彼は、歪んだ満面の笑みを浮かべながら、少年へとその言葉を告げた。


「超越時空自負魔法、スペル=カース・リバース=エンドを発動させるんやで」


 その名を聞いた瞬間、少年の表情は絶望に染まっていた。そう、それは少年が予想していた言葉、最悪の結果、自らの命を使用して膨大な魔力を生み出し発動させる最悪の魔法、自負魔法だった。


「歴史に名前が残るんやで、ワイら2人の名前がや。下手すりゃ、学園の教科書にも載るんかもしれん」


 必死に叫ぶ少年を見つめながら、彼は話し続けた。まるで、少年の姿を目に焼き付けようとするかのように・・・


「止めろ! 止めてくれ!」


 そして、少年は必死に叫んでいた。涙を流しながら、ただひたすらに彼に訴えた。何度も何度も、装置を止める様に、扉を開けるように、訴え続けた。


「フェイ!」


「黙れ!」


 少年が彼の名を呼んだとき、彼の怒鳴り声が響いた。


「お前は、未来を変えるんやろ? 世界中、全ての人を救うため、過去を変えてでも未来を変えるんや! 愛する少女を救うために、多くの人に迷惑をかけるんや!」


 突然の怒号に、少年は固まったように、ガラス張りに両手をついたままフェイを見つめていた。そんな少年に、フェイは言葉を続ける。


「それでも、誰かがやらなあかん! それをお前に押しつけんのは、間違っとるんはわかる! それでも・・・」


 涙をこぼしながら、フェイは、必死に叫んだ。


「それでも、お前ならできると信じとるんや! 多くの人を巻き込んででも、世界を救うために、お前に託すと決めた、それをお前も受け入れたんや!」


 それは、きっと彼が少年の背を押すための最後の勇気。


「やったら、1人の男の命くらい、軽く捨てるぐらいの、背負ってやる位の覚悟を持てやぁ!」


 そして、全ては動き出した。

 ゆっくりと、フェイのいる制御室の中に、白い光の粒が生まれ始めた。


「嫌だ、誰かの命を犠牲にしてなんて、僕は・・・」


「シャロック、お前が変えるんや! 未来は、お前が変えるしかないんや! 過去を変え、お前が変えるんや!」


 そう、自負魔法とは、自らの命を犠牲にして発動させる魔法。そうであるなら、別の誰かが制御して発動させても正しい形では動き出さない。では、制御室は、本当に制御するための操作盤があったのか? それは違う、自らの意志で操作盤を制御し、起動させることで初めて、自らの命を封呪の魔力として提供する、そうすることで魔力が蓄えられ、初めて稼働する、そういう仕組みなのだ。


「お前ならやれる、そう信じとるで! シャロック、未来を変えるんや!」


 必死に少年に訴え続けたフェイの身体は、段々と光と共に崩れ去っていく。


「止めて、止めてくれ・・・嫌だ、リバース=エンド、もうやめてくれ」


 涙を流しながら懇願する少年を置いて、リバース=エンドを構成する時計達が、急速な勢いで動き出す。それは、本来の力を取り戻した、呪われた法具の姿だった。


「どうや、見えるか? ワイにはもう見えへんけど、きっと上手くいってるやろ? 頼むで、シャロック!」


 気づくと、既にフェイの顔も殆どが崩れ去り、光に吸収されていた。そして・・・


「未来を・・・人類を・・・頼むで・・・」


 彼は光とともに消え、リバース=エンドの巨大な振り子時計の前に、巨大な砂時計が浮かび上がった。そして、その上段にその光が貯まっていく。まるで、砂時計の砂のように・・・


「うわぁぁぁぁぁっ!」


 少年の叫び声が響いたとき、部屋中に振り子時計がボーンと時間を知らせる音を響かせた。そして同時に、全ての時計が急速な勢いで逆回転を始める。まるで時を巻き戻していくかのように。


「フェイ、フェイ!」


 消えてしまった友の名を叫びながら、少年は目の前の景色が歪み消えて、段々と意識が遠のいていくのを感じていた。それは、彼の本当の旅の始まりだった・・・






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