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第三話「呪われた魔法と研究の行く末」 その4

 氷の島、白氷島(はくひとう)・・・それは、冬の訪れとともに、海を(ただよ)いリバース=エンドの眠るペンデュラム島の側へやってくる。それは自然が生み出した偶然か、それとも運命の道標が作りだす必然なのか、少年は、その答えへと近づいていた。





「フェイ、この魔石(ませき)はリバース=エンドと同じかもしれません。高度な魔導回路(まどうかいろ)のように、魔力の流れが管理され、的確に作用すべき箇所に、正しく変換され、必要な量だけ放出されてる。この氷の魔石は、もしかすると何か別の役割があるのかも?」


 そんな少年の言葉の意味することが分からず、フェイは首をかしげている。しかし、そんなフェイを無視しして、少年はもう一度魔石に触れると、自身の魔力をゆっくりと流し込んだ。そして、その魔石をジッと見つめると、自分の流し込んだ魔力の行く先を必死に感じ取ろうとしていた。


「シャロック?」


 フェイが困惑した表情で少年に話しかけるが、少年はシッと口にしてフェイを黙らせると、そのまま集中して魔石の作り出す流れを探し続けた。


「こっちです!」


 そして、次の瞬間、勢いよく顔を上げるとフェイの手を掴んで走り出した。

 余りにも突然のことで、フェイも上手く走り出すことができず、引っ張られながらよたよたと走りついて行く。しかし、そんな彼を無視して、少年は氷と雪に閉ざされた道を迷うことなく駆け抜けていく。


「なにがあったんや?」


「あの魔石は繋がっているんです、他の魔石と。いや、全ての魔石が繋がっているのかもしれない、この島が巨大な魔導回路になってたんですよ!」


 少年がフェイの問いに答える頃には、フェイも体勢を立て直して、少年を追うように走っていた。

 そして、その言葉の意味を考えると、辺りにそびえる巨大な氷達を見渡し、眉間にしわを寄せて怪訝そうな表情を見せた。


「おそらくですが、魔石は魔力の塊ではなく、魔導回路の基板なんです。膨大な魔力の割に、放出される魔力が少ない気がしたんですよ。だから、考え方を変えてみたんです」


 少年が、そう言いながら氷の塊によって作られた角を曲がると、そこにはまた先ほどとは別の魔石が転がっている。すぐさまその魔石に触れると、少年はまた魔力を注ぎ込むと同時に、走ってきた方向とは違う方角へと視線を移し、また走り始めた。


「もし、膨大な魔力が、別の所から供給され魔石に流れ込んでいたとしたら、魔石自体に魔力は無く、魔導回路のように魔力を流す基板やその出力先を決める制御の役割しか無かったとしたら、全て説明がつきます」


 少年の言葉を聞きながら、フェイは彼の言う魔石の魔導回路説を頭の中で組み立てながら走っていた。かなり強引な内容だが、理論的には説明も可能だ。そう考えると、その発想は決して全て的外れではない気がしていた。


「これだけの氷と雪を生み出し、異常な浮力を作り出しながらも、私たちが上陸しても異常な寒さはなく、簡単な防寒着だけで過ごせていることも、魔獣達への影響も最小限であることも、全部おかしかったんですよ。これだけの現象を引き起こせば、必要な魔力量は膨大な量になるはずです。それが、あの魔石から感じられる魔力量は僅か・・・きっと他の研究者達も、魔石を持ち帰り研究したことでしょう。ただ、その結果は原因不明、何故この状態が作られているのか分からない、それもそのはずです、だって持ち帰ったのは回路だけ、魔力の元については、きっと見つけられていないんっ?!」


 説明しながら走っていた少年が、急に言葉を詰まらせて急ブレーキをかけた。すぐ後ろを走っていたフェイは、突然の停止に対応できず、少年にぶつかるようにして停止した。彼の方が、少年よりも遙かに大きいが、少年は聖騎士クラスの剣士、小柄な少年ではなく固い壁に突っ込んだかの様な衝撃がフェイを襲い、逆に吹っ飛んでしまった。


「なっ、なんやっ、急に!?」


 尻餅をついたフェイが抗議の声をあげると同時に、彼も周囲の異変に気づいた。


「どうやら、魔力の根源が近いみたいです」


 少年の言葉は、真っ白な息と共に口から零れた。確かに、この氷と雪の世界では当然に思える、口から零れる息が白く染まる、それだけのこと。しかし、明らかに違った、今まで2人はそんな現象を目にしていない。つまりは、急激な勢いで周辺の気温が下がっていることを示していた。


「ゆっくりと行きましょう」


 少年が先導し、先ほどよりも深く積もった雪を踏みしめながら進むと、大きな広場が広がり、遠くには小さな1本の木が立っていた。そして、その先端には青い木の実のような物がぶら下がっている。


「こないな所に、木が?」


 少年のすぐ後方を歩いていたフェイが、目の前にある小さな木を見つめながら呟いた。そして、同時に後ろから何かに引っ張られて、少しよろけるようにして膝をついてしまった。


「これ以上進まないで」


 引っ張られた方向を振り向くと、そこには少年がフェイの上着を掴んで引っ張っている。いつの間にか、少年を追い抜いてその木へと歩み進んでいたのだ。


「あれはマズいです。木なんかじゃ無い、魔力量が異常すぎる」


 少年に言われて、改めて視線を木の実へと移すと、そこで初めてそれが木では無く、茶色い毛に包まれた狼のような魔獣が氷漬けになった氷のオブジェだと気づいた。そのオブジェの先端に、木の実のように青い塊がぶら下がっているのだ。


「なんやあれは?」


「おそらく、あれこそが他の回路魔石に魔力を供給する根源だと思います。周辺の氷が・・・」


 そこまで口にした少年は、辺りに視線を動かして、その過程で自分の足下を見た瞬間に言葉に詰まってしまった。そして、次の瞬間・・・


「フェイ、足下が凍り付いてる!」


 大声で叫んでいた。

 少年が目にしたのは、自分の靴と地面が氷で覆われはじめている所だ。フェイも自分の足下を見ると、じわじわと凍り付き始めていた。慌てて、2人は氷を砕くと、すぐさま氷のオブジェとは逆方向へと走り出していた。


「なんじゃありゃぁ!?」


「わかりませんが、周辺に与える魔力影響が異常すぎます! 上位魔法の比じゃ無い!」


 少年とフェイは、必死にその場所から走り遠ざかろうとするが、一歩一歩、地面に足が着く度に少し凍り、力一杯、足を引き上げて氷を割ると、次の一歩を出すという未知の体験をしながら、必死に走って行く。


「上位氷結魔法でも、目標を中心に一瞬で凍らせることができる程度です! けど、あれは周辺の温度を急激に下げるのでは無く、一定の温度を保たせることができてました。しかも、見える一体の全てをあの速度で凍らせるなんて、最上位の魔法でも不可能ですよ!」


 そう、普通の魔法は急激に温度を下げて氷を作ったり、凍らせたりすることはできる。ただ常にその温度を維持し続けるなんて真似は、魔力量が多すぎて通常できる芸当では無いのだ。しかも、見るからに数百メートルは離れている距離でその現象を引き起こすなど、異常としか言い様がない。


「んなこたぁわかっとるわい! それを維持する魔力量って存在するんか! って言うてんねん!」


「するんですよ! 今見たじゃ無いですか!?」


 少年もフェイも見たことないレベルの魔力量に、必死に逃げ続け、いつの間にか、さっきまで調べていた魔導回路の魔石の所まで走ってきていた。


「はぁはぁ、ありゃあかん」


「はぁはぁ、わかります。あれは人間が扱えるレベルを超えてます」


 突っ伏すように雪の上に膝をつく2人は、肩で息をしながら、必死に逃げ帰ってきたこの状況を頭の中で分析していた。見た事も無い現象だったが、これで白氷島の構造が説明できるかもしれない、人類の魔法学にとって大発見になるかもしれないのだ。


「はぁはぁ、けど、これであちこちにある魔石は・・・はぁはぁ、魔導回路の役割で」


「せやなっ・・・はぁはぁ、この魔石はあそこから流れてきた・・・はぁはぁ、魔力を地面と周辺の」


「ですね・・・はぁはぁ、周辺の氷にだけ魔力を供給して・・・はぁはぁ、この浮力と氷の島を維持してたんです」


 お互いに辿り着いた結論が同じで、息を整えようとしながら視線を向けると、思わず目が合ってしまい、お互いに笑みを零していた。


「こら、大発見やで・・・はぁはぁ、研究されてきた魔石が・・・はぁはぁ、意味が違ったんやからな」


 フェイの言うとおり、これは大発見だ。しかし、それ以上に少年には、この構造がどこかで見た事がある気がして、何度も何度も思考を繰り返していた。どこかで見た構造、過去の書籍などを思い返しながら、どこで見たのかを探していく。


「どうしたんや?」


 考え事をしていて気づかなかったが、突然、肩を叩かれてビクッと肩をふるわせて顔を上げると、そこにはフェイの心配そうな顔が広がっていた。そして、同時に忘れていた構造を思い出した。


「リバース=エンドだ」


 そう、少年が見たことのある構造、それは自分が今研究を続けていた魔法の構造だ。魔石は、そこに落ちているだけで、島自体が魔導回路の魔石じゃない、大半が氷だとすれば、氷の中も魔力が通っているが、そこにこの魔導回路の魔石が加わることで、上手く回路を構築している。そうだとすれば、今のリバース=エンドと同じく、いくつか欠けたあの魔導回路にも同じことが言えるのではないか、そう考えたのだ。


「フェイ、あの魔石を砕いて! あれを持って帰りましょう!」


「何や急に?」


 少年は、大声でフェイにそう告げると、すぐさま魔石を持ってきていた剣の柄で叩いて割り始めていた。

 その行動の意図が理解できなかったフェイは、そんな少年を、怪訝な表情で見つめていた。





 白氷島から急いで戻ってきた少年とフェイの2人は、すぐさま、リバース=エンドの元へと駆け込んできた。そして、投げ出すように放置されていた実験途中の装置の前に立つと、すぐさま、操作基盤にはめ込んでいた魔導回路基板や配線を、片っ端から引き抜き始めた。


「本当に、これで良いんやろうな?」


「私の考えが間違ってなければ、大丈夫なはずです!」


 フェイの質問に、大声で答える少年は、何度も魔導回路を見直しながら、自分達が手を加えた回路を切り替えていく。一番初めの状態に戻しながら、足りない箇所を確認していく。


「歯抜けだらけの魔導回路でどうするんや?」


 必死に頭の中から元の回路図を引っ張り出して、1つ1つ戻していくフェイに、少年は書き換えておいた魔導式を戻すために、操作基盤をいじりだした。


「あの島にあった魔導回路の魔石は、意図的にあそこに置かれた物じゃありません。なんせ、研究のために一部持ち帰られた物もあると文献にも記されていました。それでも、あの島の魔導回路は、正しく作動していました」


 書き換えていく魔導式を睨みながら、少年は口だけ動かしてフェイに説明している。その言葉を聞くフェイも、魔導回路を戻していくが、それは歯抜けだらけの魔導回路を作り上げるという、全く逆行した作業だった。


「つまりは、あの魔導回路の魔石は、そこに必要な魔導回路を自動生成する特殊な魔石だと思うんです」


 そこまで少年が口にすると、フェイが勢いよく頭を上げて、少年へと視線を向けた。その表情は、何かを察した驚きの表情に染まったものだった。


「そして、このリバース=エンドは元々間違った魔導式や、歯抜けの魔導回路ではなかったんじゃ無いかと考えると、その先にあるのは、氷の島とリバース=エンドの同じ構造であるという考えです」


「まさか、この魔石が抜けた魔導回路やったってことか?」


 横に置いていた魔石へと視線を移したフェイは、ゴクリと喉を鳴らすと、再び魔導回路へと向き直った。そして、急いで元へと戻す作業に没頭する。ずっと研究してきた魔法に、1つの答えが見つかるかもしれない、そう考えると気が焦ってしまう。


「抜けた魔導回路の箇所に、魔石を適当なサイズに割っておいてください! おそらくは、自動で魔導回路が生成されて、正しい形に繋がってくれるはずです!」


 少年の言葉に、フェイはとりあえず、既に修正が終わった箇所にある歯抜けの回路に、魔石を地面に叩きつけて割ると、はめ込んでみる。それは、まるで光を帯びるように、魔石の奥にいくつもの配線が浮かび上がり、あちこちの魔導回路へと繋がっていく。


「これや、これや、これや!」


 予想よりも遙かに凄い光景を目にしたフェイは、思わず雄叫びをあげて、残りの魔導回路を元に戻していく。そして、修正が終わった箇所から、手頃な魔石をはめ込んでいった。


「こんなところと繋がるのか」


 そんな中、少年は魔法式を書き換えていたが、突然、空中を1本の光の線が走り、目の前の魔導回路と繋がってしまった。今まで考えなかった、回路配線に思わず息を呑んだ。


「けど、これなら行ける!」


 そう口ずさむと、少年は、引き続き魔法式の書き換えを進めていく。そんな中、少年の周りは、次々と繋がっていく光の配線が飛び交い、少年とフェイは光の配線によって包まれながら、作業を続けていた。


 そして、その作業がどれくらい続いたのかわからなくなった頃、それは終わりを告げた。


「これが、リバース=エンドの本来の姿・・・」


 それは、部屋中を飛び交うように光の線が魔導回路を繋いでいく、不思議な光景だった。しかし、確かに全ての魔導回路が動作し、中央にある巨大な振り子時計が、揺れる度に、他の小さな時計達も動き、時を刻み始めている。それは、法具と呼ばれる、最強の魔法にふさわしい姿だった。


「やった・・・やったっ!!」


「そうや、やったったでぇ!!」


 思わず2人は雄叫びを上げて、飛び跳ね、そしてお互いに顔を見合わせると、くしゃくしゃで表現もできないような表情でハイタッチをしていた。


 こうして、伝説の封呪へ繋がる物語は、新たな時間を刻み始めた。

 その先にあるのが、絶望という名の呪われた呪文である事を、忘れたまま・・・






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