プロローグ
それは誰の言葉だっただろうか?
全ての出会いは運命であり、出会いは道標となるのだと・・・
真っ白な衣をまとった少女が、両手に枷をつけられ、白い鎧をまとった騎士に両脇を固められ、長い廊下を歩いていく。その瞳には、諦めと悲しみだけが満ちている。
「フィズ!」
突然、少女を呼ぶ声が響くと、顔を上げた。聞きたかった声、呼んでほしかった自分名を聞いて、少女の瞳に、希望の光が満ちあふれていく。
「フェルロ!」
少女が振り返ると、歩いてきた長い廊下の先に、1人の少年を見つけた。会いたかった、けれど諦めていた、会うことはないと思っていた。ただ、心のどこかで、来てくれるかもしれない、そう感じていた少年の姿だった。
「こらっ、待て!」
次の瞬間、少女は、騎士達を振り払い、少年に向かって走り出した。騎士達の呼び止める声を聞かずに、必死に走った。ただ、彼の側に行きたくて、もう一度、彼の顔を近くで見たくて、それだけの思いで走った。そんな少女の思いと同じように、少年もまた、彼女の元へと走ってくる。
少しずつ縮まっていく距離、もう少しで手が届く、少女が少年に飛び込むかのように手を伸ばし、2人の手が触れるかと思った次の瞬間。
「こざかしい」
ざらりとした、嫌な低い声が少女のすぐ後ろから聞こえてくる。同時に、少女は背中の上から足蹴にされ地面に叩きつけられた。
「ぎゃっ!?」
可愛らしい少女には似つかわしくない、鈍い声が口から零れると同時に、少女を足蹴にした男は、少年に向かって手をかざした。
男は、白い生地に金色の装飾を施した高貴な身分を示すローブを纏い、片手には古い杖を手に、力ある言葉を口にする。その言葉に気づいた少年も、とっさに両手を構え、力ある言葉を口にするが、ローブの男の魔力が想像したよりも遙かに強く、少年は大きな爆発と共に、遙か遠く、廊下の端の壁まで吹き飛ばされてしまった。
「残念」
ローブの男は、低い声で一言呟くと、満足げな表情を浮かべた。そして、少年が叩きつけられた為に崩れ去った壁と、舞い上がる土煙を眺めながら嬉しそうに頷いた。
「フェルロォ!」
そんな男の足下には、背中を踏みつけられ身動きのとれない少女が、涙と共に愛しき彼の名を叫んでいた。
時は、大地歴2157年4の月、1人の少女が、運命という名の下に死を宣告された。
そこから、全ての物語は始まりを告げる。
それは、1人の少年が運命に抗うために、道標を頼りに暗い森を歩んでいくような、暗い暗い物語。そして、いつの日か、遠く遠く語り継がれる英雄達の物語である。
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