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勇者を統べる魔王様。  作者: さかもときょうじゅ
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第七話 魔王、入学試験を受ける

「ああ、すまんな。忘れていた。

 貴様らはもう帰るといい。どうせ、貴様らのようなゴミでは聖剣も碌に扱えまい。試験を受けるだけ無駄というものだろう」


 どうせ、ここで殺し合いを始めるわけにはいかんのだ。

 この餓鬼供にはこのまま帰ってもらった方が、我としてもありがたい。

 暇を発症している我では、いつ挑発に乗ってしまうかわかったものではないからな。


「てめぇ! 誰に向かって口利いてんだ!」

「俺らは公爵家の人間だぞ! てめぇをぶち殺したところでなんの問題もねぇんだ!」

「ほう、貴族か。貴族の子供が、たかだか銀貨一枚程度のお遊びで悦に浸り、相手との力量も図れずに誰彼構わず声を荒げるとは。情けなくはないのか?」


 そもそも、見たところ此奴らはここにいるどの者を相手取ったとしても力量で劣っている。彼ら自身が『如き』と侮っていた、あの少女にさえ敵わぬだろう。

 実力の伴わぬ子犬の遠吠えの、なんと虚しきものよ。


「ぶっ殺してやる!」


 二人が揃って剣を抜く。


 ふむ、流石にここまでくれば殺しても良いのではないか?

 どうだ? カイレス。

 ……そうか、ダメか。


 仕方ない、気絶でもさせて黙らせよう。


「静かにしろ! 何をやってる貴様ら!」


 我が二人を黙らせるために動こうとした時、部屋の扉を開けて一人の男が入ってきた。


「あぁ!? なんだこのオヤジ! てめぇもぶっ殺してやろうか!?」


 此奴は考える力というのが無いのか? ゴブリン共より頭が悪い。

 この場この状況で現れるとしたら、試験に関わる者以外になかろう。


「俺は、今回の試験を受け持つモーリスだクソ餓鬼。殺せるものなら殺してみろクソ餓鬼」


 ……今、クソ餓鬼と二回言ったな。口の悪い試験官だ。


「あんだとこのオヤジ! 公爵家に逆らったらどうなるか教えてやるよ!」

「そうか、やってみろ。ここは勇者育成学園で、俺はここの教官だ」

「だからなんだってんだ! たかが学園の教官如きが、偉そうな口利いてんじゃねぇ!」


 この流れでよく逆らえる。

 どう考えても、モーリスとやらは、公爵家に対抗するだけの力を持ってると言っているのと同義だろうに。


「この学園は王国直々に管理されていて、我々教官は国王様から直接任を受けている。つまり、ことこの学園内であれば、貴様の父親である公爵殿よりも地位は上位にあたる。

 これがどういう意味がわかるか?

 もし、この場で貴様らの家名など出してみろ。俺と貴様ら、どちらの首が落ちるかなど馬鹿でもわかる」

「なっ……」


 そうなるだろうな。

 なんの根拠もなく、ここまで強気に出られるはずもない。彼もまた、相応の地位を持った相手なのだ。


「わかったらさっさと座れクソ餓鬼! それとも、殴られなきゃわからねぇのか!?」

「……ッ!」


 こちらを見るなクソ餓鬼。


 ぎゃーぎゃーと騒がしかった二人が、席につき、モーリスが部屋の奥の少し段差が上がったところへと登る。


「まぁ、なんかあったみたいだが、俺は知らん。そんなことはどうでもいい。

 俺は、お前らの試験をするためにこの場に来てるんだ。それを邪魔するのなら、とっとと出ていけ。そんな者はこの学園にはいらん」


 モーリスの言葉に返す者はおらず、シンと静まる。

 クソ餓鬼二人組は、砕けるのでは無いかというくらいに歯を噛みしめながら我の方を睨んでいるが。

 だから、こちらを見るなというのに。我の気が変わって殺しかねんぞ?


「では、試験の内容を説明する。と言っても、そう難しいものではない。他の部屋に試験用の案山子(かかし)をいくつか用意してある。貴様らはその案山子を切ればおしまいだ」


 受付の者も簡単な試験だと言っていたが、確かにこれは簡単だ。

 先程クソ餓鬼どもにああは言ったが、ただ案山子を切るだけならあの二人組でも受かるかもしれんな。

 帰らなくて良かったではないか。


「ただし、用意された案山子はただの案山子ではない。材質は硬度の高い鉱物を使い、間違いなく通常の剣では切れないようにできている。聖剣を使ったとしても、禄に技術を持たぬ者では切れんだろう」


 ああ、やはりクソ餓鬼二人組は受かりそうにないな。

 あの時に帰っていれば、不要な恥をかかずに済んだものを。


「安全のため、試験は個別で行う。各自に紙を配るので、そこに書かれた部屋へと移動しろ。説明は以上だ。質問はあるか?

 ……ないな。では移動だ」


 部屋にいた者は、クソ餓鬼供を含め皆が一度モーリスの元へと向かい、紙を受け取る。我に渡された紙には『四番』とだけ書かれていた。

 そのまま、部屋に入ってきた時とは別の扉から出ると、その先にはズラリと扉が並んでおり、一つ飛び毎に番号の振られた紙が貼り付けられている。

 説明があった通り、渡された紙と同じ番号の部屋へ行けということだろう。


「四番はここか。あの餓鬼供は五番と六番で我より奥だな」


 何かちょっかいを出してくるのではと思っていたが、予想を裏切り、二人は我の後ろを素通りしていった。

 不思議に思い視線を回すと、先程の部屋に続く扉からモーリスがこちらを見ていたので、あれに見咎められぬようにということだろう。

 少々つまらんなと思いながらも、我は四番の部屋へと入る。


「ふむ、案山子は五体か。どれも確かに硬度の高い材質だな」


 というか、一番奥にある五体目の案山子、あれはオリハルコンに見えるのだが。

 だとすれば、人間界で最も硬いと言われている金属ではないか。

 流石に芯まで全てオリハルコンということはないだろうが……もしそうなれば、人数分の案山子の材料費だけで国が買えるからな。


 しかし、表面に多少の厚みを持たせたものが被せてあるだけだとしても、素人や、それに毛が生えたような子供が切ることなど不可能に思える。

 これは、他の者達は合格できるのか?


「……いや、その為のあの説明か」


 よくよく思い出してみれば、教官は案山子を『全て』切れとは一言も口にしていなかった。

 つまり、一体でも切れば合格なのだろう。


 まぁ、一番簡単そうな案山子でも、教官が言うように素人では切れそうにないがな。


「これは本当に切っても良いのか?」


 我の目の前には、五体目に置かれたオリハルコン纏った案山子がある。

 案山子の表面に纏わせた程度のオリハルコンでは、分量が少なすぎて再利用がしづらい。

 これを切ったら、学園としてはそこそこの損失だと思うが……。


「一体で合格になる可能性が高そうだとはいえ、我にもプライドというものがある。やれと言われた以上は、全て切ったとしても文句は言われまい」


 我は、一度部屋の扉の方へと戻り、振り返る。

 案山子は部屋の入り口から奥へ奥へと並んで置かれており、だんだんと硬度が上がっていく仕組みになっているようだ。


 その場で剣へと手を伸ばし、下から切り上げるように一閃。そして、そのまま鞘へと収めた。

 聖剣を暴走させていた男に使ったものと同様の、剣に魔力を乗せることで斬撃を飛ばす剣技だ。

 魔力を使うものだが、これは剣技なのだ。人間界に来てから確認したから間違いない。


 真っ直ぐ飛んだ斬撃は、瞬時に案山子を通り過ぎてゆき、最奥の壁に届く前に消滅した。


「力加減を間違えたか。壁に届く程度には力を込めたつもりだったが」


 しかし、案山子自体は切れたのだから問題はないだろう。


「さて。それで、どうしたら良いのだ? 一度出て、試験を終えたことを伝えれば良いのだろうか。隣で見ている者は動いてくれぬのか?」


 我は左右へと目を向けて確認してみるが、試験終了の合図などが出る様子はない。


「仕方ない。一度戻ってモーリスを呼んでこよう」


 そう結論づけたと同時に、部屋の奥の右側の壁が独りでに動き出す。

 そして、そこから女が現れ、我に試験の終了を言い渡したのだった。


面白いと思っていただけたら、ブクマと評価をください。

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