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勇者を統べる魔王様。  作者: さかもときょうじゅ
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第三話 魔王、勇者学校に入学する

「順番に並んでくださーい! 一般応募の方はこちら、特別応募の方はあちらでーす!」


 我は今、勇者育成学園への入学手続きのために人間の国に来ている。


「なかなかの人数だな。なぁ、モルアナ、カイレス。貴様ら……いやお前たちは、こんなに人が集まっている場所に来たことあるか?」

「はい! 私は父に連れられて『王都』という所でやっていた『武器市場』ってのに行ったことがあります! あの時も人がいっぱいいました!」

「私は初めてですね。戦場でなら、このように人が多くいる状況を見たことがありますが、こことは性質が違うように思います」


 我が声を掛けたのは、背後に立つ二人の男女だ。

 活発な声で答えを返していた方が、子供と大人の中間の見た目をした女。名前をモルアナといい、ガロダラスの一人娘。

 この見た目で歳は我よりも上だ。

 もう一人は給仕服を着こなし、キリッとした目が特徴的な男。名はカイレス。普段はマル爺の部下で、直属の仕事を任されている。


 勇者育成学園における特別応募枠は付き人を二人連れていくことができると書いてあったので、我は彼らを付き人として学園に連れていく予定だ。

 執事としてカレイス、メイドとしてモルアナ。彼らは、その役目どおりに我の身の回りの世話をするのと同時に、実家、つまり、魔界との連絡係でもある。

 まぁ、ただ連絡を取るだけならば、魔道具の一つでもあれば事足りるのだが、態々この二人が付いているのは我の監視も兼ねているのだ。

 流石に、何の保険もなしに人間界に行かせてくれるほど、マル爺は甘くない。


「それで、我はどこに行けばいいんだ?」

(あるじ)様は特別応募ですから、あの者の言葉からして奥の受付でございましょう」


 カレイスの指す方を見れば、確かに、奥の受付に数名の列ができている。あれが特別応募者のためのものということだろう。


「思ったよりも特別応募の者が多いではないか。簡単な項目はなかった筈だがな。

 面白い」


 通常の応募条件である適正審査では、初めに専用の魔道具で適正を確認するが、ここで弾かれる者は少ない。

 そして、その後に各自能力の審査がある。

 審査されるのは武術と魔法。

 武術は剣や槍などの武器を使ったものから、なにも持たず身体一つで戦うものまで、様々な方式で審査が行われ、魔法もまた、攻撃、防御、回復、補助などの幅広い分野の審査方式がある……らしい。

 先程、列で待機している者がそんな話をしていた。


 一方で特別応募だが、我が応募することから分かるように適正審査はなく、条件も様々。

 募集用紙に記載されていたのも『王家の承認がある』だとか『冒険者としてA級以上の階級を持っている』だとか『軍部の過半数以上の推薦がある』だとか……まあ、よりどりみどりの選び放題だ。

 実際に条件を満たせるのであればだが。


 王家の承認などそう簡単に出ないのは言うまでもなく、A級以上の冒険者となればドラゴンをも一人で討伐する程の強者でなければなることは難しいだろう。

 軍部の過半数以上の推薦というのが、先に挙げた条件の中では最も可能性が高いかもしれない。


 そして、それら幾つかある条件の中の一つが『聖剣の所有者』というわけだ。

 これもまた条件として簡単なものではない。なにせ、相応の力を持たなければ聖剣に認めてもらうことすら叶わないからな。


「あれに並ぶのが聖剣の所有と同程度の条件を満たした者たちか。力ある者が多いというのは喜ばしいな」

「そうですか? 人間が力を持っても面倒なだけだと思うんですけど」

「モルアナ、お前はもう少し考えることを学べ。父親のようになるぞ」

「私は父さんのようになるのが夢です!」

「……何となく意味が違っているな」


 モルアナの父親、ガロダラスは脳味噌まで筋肉に侵食されているとまで言われる程、物事を考えない性格だ。問題があれば力を持って制し、頭を使う事柄は他の者に任せる。単純な奴なのだ。

 戦力として非常に優れているから文句はないがな。


「モルアナ、主様はこれから人間の側で魔界と争うのです。駒である人間が力を持っているのは望ましいことなのですよ」

「なるほどー」


 うむ、あまり理解していないようだ。

 彼女は、父同様に戦闘では非常に役に立つ類の者だから、これでいいのだろう。


「では、我も並ぶとしよう」


 我は、他の応募者に倣い特別応募の列へと並ぶ。



「それで、まお、主様はこの学園で何をするんですか?」


 ただ並んでいることに暇になったのか、モルアナがコソコソと問いかけてきた。

 他の者に聞こえないように声を潜める程度のことは弁えているようだが……。


「お前、他の者がいる前で魔王と呼ぶんじゃないぞ? こちらに来る前に散々言っておいただろう」

「気を付けます!」


 小声で叫ぶとは、なかなか器用な奴だ。


「……まぁいい。カレイスが言ったように、我はこれから人間界側として魔界と戦争をする。そして、目指すのはここにいる者たちを従える立場だ。そのために、我はマル爺の名を借りて来ているからな」

「マルラウラお爺ちゃんの名前使うといいんですか?」


「私の上司をそのような呼び方をされると、あまり良い気がしないのですが」

「ガロダラスとマル爺は古くからの友人だからな。モルアナも、幼い頃からマル爺と親しいのだ。目を瞑ってやれ」


 我の幹部と呼べる者たちは、皆が家族ぐるみで付き合いがあるからな。モルアナにとってマル爺は仲のいいお爺ちゃんなのだろう。


「それで、マル爺だがな。あれは人間界だと永久貴族という特殊な立場にあるのだ」

「えいきゅうきぞく?」

「死して尚貴族として扱うという、個人に対してのみ与えられる爵位らしい。爵位自体はマル爺のみで完結しているが、我が子孫を名乗れば無碍にはされんだろう。証明できる物も準備してきたしな」


 ちなみに、聖剣はマル爺の残した手記からみつけたことにするつもりだ。いや、どちらかといえばそっちを怪しまれない為のマル爺の名なのだがな。

 他の者を従える為にも使えそうなので使うというだけで。


「貴族ってなんですか?」

「ふむ、そこからか」


 魔界に貴族制度は無いからな。

 似たようなものはあるが。


「我が命じて各地を管理している者がいるだろう? あれのようなものだ」


 王に任じられて領地を管理する。

 まぁ、似たものと言って差し支えはなかろう。


「へー、お爺ちゃんって人間界に来ると立場落ちちゃうんですね」

「ん?」


 モルアナは、だから魔界に来たんですねーなどと納得しているようだが……確かに今の説明だとそう捉えられるな。

 魔界では各地を管理している者より我の幹部たちの方が余程立場が上だ。


「モルアナ、立場としては今と変わらんぞ。仕事が似ているというだけだ」

「え? うーん……」


 どうやら彼女を混乱させてしまったらしい。

 細かく説明してやってもいいが……。


「次の方ー」


 我の番になってしまった。


「また今度説明してやる」

「わかりました!」


 時間ができた時に、まだモルアナが疑問に思っているようだったら説明してやろう。


「応募の条件は何ですか?」


 受付に座った男に問われたので、腰に刺した転魔聖剣エリクルシアを鞘ごと抜いて差し出す。


「我は聖剣の所有者として入学を希望する」

「聖剣ですか……ではお名前をお伺いします」


 聖剣の真偽より先に名前を問われるとはな。

 やはり、聖剣が正式に入手された物であるかという点が気になるのだろう。


「ロムナード。

 ロムナード・ウェルシュだ」


 この為のマル爺の名だ。

 これで問題なく——


「ウェルシュ? 聞いたことないな。お前知ってるか?」

「いや、知らんな」



 ……どういうことだマル爺!


面白いと思っていただけたら、ブクマと評価をください。

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