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勇者を統べる魔王様。  作者: さかもときょうじゅ
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第一話 魔王、部下を説得する

プロローグと同日公開しています。

プロローグを読んでいない方は、そちらから読んでいただくことをお勧めします。

「どういうことか、説明していただけるのでしょうな? 魔王様?」

「落ち着けマルラウラ。魔王軍参謀が取り乱してどうする」


 ここは我の居城、俗に言う魔王城の一室だ。

 この部屋は城の中でも広めに造られており、普段は会議などで使用することが多い。

 そして今はここに、幹部と呼ばれる者と、各部署の責任者が勢揃いしている。


 我は今、部屋に集まった者たちから様々な視線を向けられていた。


「魔王様、(わたくし)めは取り乱してなどおりません。説明を求めているのです」


 初老の見た目を紳士な服装で包み、今まさに我を詰問している男の名はマルラウラ・ウェルシュ。今はウェルシュの名を捨て、ただのマルラウラと名乗っている。我の右腕ともいえる優秀な部下だ。

 少々、頭が固いところがあるが、我が魔王軍の参謀として、並々ならぬ戦果を上げ続けている。


「マル爺、我は何もおかしなことは言っていないぞ」

「魔王様が勇者を目指す。それがおかしなことではないと仰るのですかな? それと、マル爺と呼ぶのはやめていただきたいと何度も申しておるでしょう。私はまだ二百を超えたばかりです」


 我が転魔聖剣エリクルシアを手に入れた際に『勇者になる』と宣言したのが気にくわんらしい。

 やはりマル爺は頭が固くていかん。


「マル爺、お主はそんなだから爺なのだ。若くありたければもう少し柔軟な頭を持たねばな」

「だっはっは! 坊主の頭は柔らかすぎて危なっかしいがな! もっと鍛えろ!」

「ガロダラス、お前の筋肉至上主義はまた更に極まっているな。我が言っているのはそういうことではない」


 魔王城の軍部で常に先陣を切る主力。それがガロダラスだ。

 マル爺が軍の頭脳だとすれば、彼は軍の力そのものといえる。

 無理難題とも思えるマル爺の戦術を、その力をもって完璧に遂行してみせる、軍の最高戦力……なのだが、力こそ全てという考えを持つ、所謂筋肉バカだ。

 とはいえ、彼の実力に疑いの余地はなく、先日のダンジョンでも大いに力になってくれた。


「私は魔王様がやりたいことに反対はしないわ。でも、マルラウラ様の言い分も尤もだと思うの。

 流石に、魔王様が勇者になろうなんて突拍子が無さすぎるもの」


 彼女の名はサラサリアナ。魔王軍の魔獣を管理する部隊のトップと魔王軍幹部を兼任している。

 最難関ダンジョンの環境に対応できない部下たちをあの場に連れて行くわけにもいかんので、その異常な環境下で暮らしている魔物を使役できるという、他にない優位性を期待して彼女を同行させた。

 そして、期待通りの戦果を上げてくれた頼もしい部下だ。


「サラサリアナも分からんのか。皆も同じか?」


 我は会議室に集まった者たちへと視線を向ける。

 どうやら、約一名を除いてマル爺やサラサリアナと同意見らしい。

 ちなみに、約一名こと筋肉、もといガロダラスは、そもそも特に気にしていない様子で、それ以外の面々がサラサリアナの言葉に頷いていた。


「そうか。

 まったく、魔王軍の各部隊を管理する者たちがここまで融通が効かぬ頑固者だったとは……少々、手入れが必要かもしれんな」


 我は、誰一人として柔軟な考えを持たぬこの現状にため息が出た。


「しかし、『上に立つ者に反する意見でも自由に述べよ』という方針を立てたのは他でもない我であるし、貴様らの上に立つ者もまた我だ。その我が貴様らに道を示してやらねばならぬというのもまた道理であろう」


 ただやれと言ってやらせるだけでは組織は育たん。

 意味を教え、道を示し、その上で自らに考えさせる。

 そうすることで、より強い組織へと至るのだ。


「では、サラサリアナ。魔王国法(まおうこくほう)第四条を述べよ」


 魔王国法とは、過去の魔王たちが長年積み重ねてきた、この国の秩序を保つための法である。

 魔王国民に対して、国はこの法の厳守を絶対としているのだ。


「は! 『己が従僕に懇篤(こんとく)たれ』ですわ」


 先程まで楽にしていたサラサリアナが背筋を伸ばし、魔王国法第四条を暗唱してみせる。

 例え口にするだけでも、姿勢を正す。

 それ程までに魔王国法は絶対的なものなのだ。


「うむ。では第三条をガロダラス」

「おう! 『己が友に潔癖たれ』だな!」

「第二条、マルラウラ」

「は! 『己が主に真摯たれ』ですな」

「よろしい。では第一条を皆で」


『は! 『己が心に従順たれ』であります!』


 その場にいた者全ての声が重なり、周囲の空気を震わせる。


 魔王国法の中でも、第一条から第十条までは『魔族たるものこうあるべし』という理念を説いたものである。

 これを胸に刻み、魔族として誇りを持ち生きよ。としているのだ。

 ちなみに、第十条は『己が国に従順たれ』であるので、捉え方によっては第一条と正反対なものになっているのだが、これもまた魔族らしさというものだろう。

 一応、第十条ができたのにも理由があるしな。


「魔王国法第一条は、全ての魔族が持つべき揺るがぬ信念である! 『己が心に従順たれ』これこそが原初の法なのだからな」


 魔王国法の第一条から第十条までは、他の法と違い、作られた順に数字をあてられている。

 つまり、魔王国法第一条は、この国で初めて作られた法であるということだ。


「故に! 我は己が信念のため、勇者育成学園に向かう!」


「……魔王様、そういう使い方をする者が多く出たせいで、魔王国法第十条が作られたのです。威厳をもって話されても誤魔化されませんぞ」


 拳を掲げ、格好良く決めた我に対し、マル爺が物言いをつける。


 まぁ、マル爺の言う通りこれが第十条が第一条と正反対の意味になっている理由である。

 自分の心に従順であるから何してもいいのだと、法を盾にやりたい放題した愚か者が多く出てきてしまった結果、他の法を守らせるための法が付け足されたのだ。


「まぁ、あくまで魔族としての考え方だからな! 第一条で罪が軽減されることもない」

「そうは言うがなガロダラス、魔族らしい考え方というのは大事だろう?」

「うむ! それはその通りだ!」


 やはり、ガロダラスもとい筋肉バカは扱いやすくて助かるな。


「魔王様、ガロダラスを乗せて勢いで押し切ろうとしても無駄ですぞ」

「はぁ、マル爺はやはり頭が固い。見てみろ、他の者を。皆は既に納得しているようだぞ?」


 先程の魔王国法暗唱によって何となく気分が高揚したのか、我の話に疑問を持っていた者たちは既に納得の顔をしている。


「あれは、『納得』ではなく『慣れ』と言うのです魔王様。あなたが魔王国法を引っ張り出す時はいつも同じ理由ですからな」

「なんだ、わかっているではないか」

「はぁ……つまりはいつものということですか?」


 マル爺の言う『いつもの』とは、我だけでなく魔族全体が抱える問題に関する、とある事情を指す。


「そうだ。やはりこれは解決せねばならんことだからな」

「まったく……私には理解できませんな」


 マル爺は元人間だから、この感覚を理解し難いのも仕方あるまい。

 これは、病なのだ。

 魔族全体を蝕む病。


「これは、万病に効く薬を持ってしても治せぬ、我ら魔族が患う病い。この症状を軽減させるには必要なことなのだ」


 数十年から数百年の間隔で訪れるこの病の名は——


「我は暇である」


『勇者を統べる魔王様。』

の公開記念として、来週金曜日までの一週間毎日投稿します。


これやると、ストック的に一ヶ月ちょっとしか余裕がないんですが……頑張ります。


面白いと思っていただけたら、ブクマと評価をください。

執筆の励みになります。

単純な話、ストックなくなった後も投稿が続くか否かに直結します。

よろしくお願いします。

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