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勇者を統べる魔王様。  作者: さかもときょうじゅ
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第十五話 魔王、考える

『魔王を倒そうとしている勇者はいない』


 たった一言で我を落胆させた呪いのような言葉だが、ことはそれだけでは終わらん。

 我は魔界で、此度の暇つぶしを人間との戦争で解消すると宣言してしまっているからな。


「さて、いつまでも項垂れている訳にもいかんか」

「マルラウラお爺ちゃんに考えてもらうんじゃないんですか?」

「いつ戻ってくるかもわからんカイレスの報告を待つのか? それは時間の無駄だ」


 確かに、マル爺ならば良い案を出してくれるかもしれんが、それは我が思考を放棄してよいということにはならん。

 魔王たるもの、部下に任せるだけではなく己の頭を使う必要もあるのだ。


「大きな問題は二つ」

「勇者が戦争しないってことですよね?」

「違う。それも問題ではあるが、もっと簡単な話だ」


 我がそう言うと、『簡単ですか?』とモルアナが首を傾げる。

 彼女も自分なりに考えているのであろう。


「よいか? 我々魔族にとって、今最も重要な問題が『暇』という病だというのはわかるな?」

「そうですね」

「つまり、当面の問題は『暇を潰せないこと』と『暇が暴走すること』の二つ」


『暇を潰せないこと』

 つまり、人間との戦争が起こらないことが第一の問題。

 そして。

『暇の暴走』

 これは、暇を発症した魔族が人間を滅ぼしかねんというのが第二の問題である。


「この二つの問題は、人間と魔族の戦争が起こってしまえば解決する」

「簡単ですね!」


 違うぞ、簡単ではないのだ。

 むしろ、そこが一番難しいところと言える。


「人間はな、そう簡単に戦争を起こさん」

「え? 何でですか?」


 再び首を傾げるモルアナ。

 然もありなん。魔族には理解しづらい考えだからな。


「魔族が争うのはなぜだ?」

「楽しいからです」

「そうだな」


 もちろん、実際にはそれだけではない。

 己が欲するものを奪うためだとか、他の者に舐められぬためだとかな。流石にそんな単純な話ではない。

 しかし、根本にある争いを楽しむという性質が理由の大半を占めているのもまた確かであるし、説明がややこしくなるとモルアナが混乱するので、ここは単純に彼女の正解としておこう。


「そして、魔族はそう簡単には死なん」

「寿命も長いですしね」

「それは種族にもよるがな」

「人間は簡単に死んじゃうから戦争しないんですか?」


 ふむ。

 しっかりと話の要点を己の中で組み立てられている。ちゃんと考えているな。

 父の様な脳筋になるなよ。


「人間は死を恐れるが故に争うが、それが故に争わんのだ」

「死にたくないから戦って、死にたくないから戦わないってことですか?」

「矛盾していると思うか?」

「んー、よくわからないですね」


 この言葉だけを見れば、完全に食い違っているからな。


「人間は欲深い。欲を満たすために戦争を起こすが、自分が死ぬような戦争はそうそう起こさんのだ」

「死にたくないっていうのも欲ですからね!」

「そういうことだ」


 まあ、人間も我ら魔族と同じくそう単純なものではないが、この場でそのような話をする必要はなかろう。


 ちなみに、魔族は人間よりも更に欲深い。

 この話を元人間のマル爺が聞いたら、呆れて口出しすらしてこないだろう。


「現状では、勇者にしろ国にしろ、人間側からすれば我ら魔族との戦争に対して『死にたくない』という欲が他の欲を上回っているということだ」

「じゃあ、他の欲の方が強くなればいいってことですか?」

「正解だ。それと、もう一つ。死にたくない欲が他の欲より弱くなるという手もある」


 ……ふむ。


「順序立てて考えれば、そう難しい話ではないではなかったな」


 我としたことが、勇者どもの現状に落胆しすぎて頭が回っていなかったらしい。

 モルアナと話しながら状況を整理してみれば、答えは非常に単純だ。


 確かに今のままでは、魔族側から戦争を起こしたところで、単なる蹂躙(じゅうりん)もしくは、人間側の撤退という結果しか残らんだろう。

 人間側に、魔族と対峙する気概が一切無いのだからな。


 であれば、どうすれば良いのか。


 恐怖を上回るほどに欲を刺激するのは難しくない。

 報酬を用意すれば良いのだ。

 魔族を倒すことによる戦利品を豪勢にしてやれば、自ずと欲は成長する。


 そして、死にたくないという欲を弱めるには——


「死なんと思わせればよい」


 簡単すぎることであったな。


「……人間は死にますよ?」

「ああ、死ぬな。魔族も絶対に死なんわけではないが」

「どうやって死なないって思わせるんですか?」


 どうやって。

 モルアナの疑問も尤もではあるが、これに関しては報酬を用意するよりも単純だ。


「鍛えてやればよい。強くなればそれだけ死ににくくなる。必然的に、死の恐怖から遠のくというもの」

「強ければ死なないですね!」


 いや、死ななくはならんぞ。

 死なぬと錯覚させられるようになるだけだ。


「人間を鍛え、魔族と戦争ができるようにしてやれば、他の欲に負けて人間側から戦争を起こす可能性すらある」

「それは面白そうです!」


 どう足掻いても魔族との戦争は起こる。我が魔界で宣言しているからな。

 ならば、『戦争』が『蹂躙』に変わらぬようにするのが我の仕事だろう。

 今までと同様に、すぐに壊さぬようにすればよいのだ。


 そもそも、我がここの学園に来たのは、魔族との戦争に人間側で楽しむためではないか。

 勇者に関しては、人間側が協力的であろうという我の甘い考えが、間違いであったというだけのこと。

 我がやることに変わりはない。


「人間の腑抜け具合は想定から外れておったが、これはこれで楽しめるというもの」

「弱い奴を鍛えるのって楽しいですからね!」


 お前ら親子の言う『鍛える』は少々やりすぎだがな。


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