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勇者を統べる魔王様。  作者: さかもときょうじゅ
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第十二話 魔王、入学式に出る

「まず初めに言っておくけど、式で口にしてはいけない言葉というのはあまりないわ」


 首席として入学式で語る言葉について学ぶために教えを乞うたアミリナの最初の言葉は、そんなものだった。


「では、アミリナの名はどうなる」

「私の場合はちょっと特殊なのよ。そもそも、入学式の場で私の名前を出すことなんてないでしょ?」


 ふむ、確かにその通りだ。

 入学の挨拶で、そういった機会はそうないな。


「あと、他国語に関しては、そもそもこの国の言葉を使う上で考える必要がないわね。あえて他の言語を使おうとしない限り、問題はないでしょう?」

「知らぬ言葉を使うことなどできんからな」

「そういうこと。

 それで、話の内容だけど、歴代勇者の個人名は触れない方がいいわ」

「ほう。それは何故だ?」


 挨拶において歴代勇者の中の誰かの名をあげ、それを目指すべく努力を——などと言えば、勇者を目指す者たちに良い印象を与えやすいと思うのだが。


「尊敬してる勇者って、人によって結構様々なのよ。それに、勇者として名を残す人が少ないとはいっても、総数でいえば結構な人数になるのよ? 一人の名前を出したせいでその勇者と仲の悪かった勇者の信奉者を敵に回した——なんてことも起こり得るわ」

「難儀なものだな」


 我からすれば、どの勇者も我に敗走した有象無象でしかないが、人間たちにとっては、大事な存在であることに変わりなかろう。

 だというのに、その内の誰が誰と不仲であるからと、慕う者たちまでもがいがみ合うとは……。

 そのような状態でいるから、我々魔族の暇潰しにもならんのだ。


「だから、勇者の名前を出すのは避けるのが無難。勇者を例えに出すのなら『歴代の勇者様方』とかって濁しておくのがいいわね」


 やはり、彼女に指南してもらったのは正解だったな。

 よもや、こんな落とし穴があるとは。


「それと、普通に公で言えない話をするのは論外ね。他には——」


 その後も我はアミリナの指導を受け、その日は、彼女が帰った後も付き添いの二人と共に挨拶の内容を考えて一日を終えた。



 そして翌日。

 入学式が行われる日となり、我は入学式のために学園の敷地内に作られた訓練場へと向かっている。


「なにやら、見られているようですね」

「新入学生が珍しいんですかね?」


 我の後ろを歩く二人の言葉通り、我等の進む先にいる者の殆どが、こちらに視線を送ってきている。訓練場に向かう様子がないことから、この者たちは在学生なのだろう。


「珍しいというより、品定めをしているのではないか?

 新たに学園に通う者は、即ち将来的な彼等の仲間や部下、下手すれば上司になる者たちということになる。

 どのような人間なのか、誰が自分の元に置くべき人間か、はたまた誰の懐に入るか。選び、警戒している。そんなところだろう。

 なあ、アミリナ」


「でしょうね。特に、聖剣で入学した人は貴族が多いから、注目の的なんじゃないかしら」


 カイレスたちと話している最中に、アミリナが合流したから話を振ってみたが……躊躇うことなく会話に参加してみせたな。

 状況適応力の高さが窺える。


「アミリナは、人の上に立つ素質がありそうだな。指揮職学科に学科申請をしてみてはどうだ?」


 適応力の高さは、人に指示を出す者に求められる能力の一つ。

 それが優れているのであれば、上に立つ者としての素質の一部を持ち合わせていると言える。


「私は指示を出す側になるつもりはないわ。でも、何処ぞの無能から指示を出される側になるのも嫌だから、学科申請だけはするつもりよ」

「そうか、余計なことを言ったな」


 人間側に優れた者がいるというのは喜ばしいことだ。

 我らの暇潰しに丁度良い。


「ふむ、これが今年の入学生か」


 アミリナと話しながら歩を進めてしばらく、我々は入学式を行う訓練場に着いた。

 会場内には六十余りの椅子が並び、そこに座る男女様々な者たちが式の始まりを待っている。

 単純に考えて、この者たちが入学生ということだろう。

 席がまばらに空いていることから、全新入生はまだ集まっていない。つまり、式の始まりに遅れずに済んだということだ。


「椅子の数からして入学生は六十前後なのだろうが、これは多いのか?」

「他と比べたら少ないわ。他の学園では、毎年百人前後の入学生がいるそうよ。

 入学試験が伏せられてたことから考えても、やっぱり入るのは難しいんでしょうね」

「簡単な試験で誰でも入れるかのような宣伝をしていたというのに、酷い話ではないか」

「絶対に入れるとは書いていなかったから問題ないでしょ。実際、この学校に入()なかった子が結構な人数いるというのは、調べればわかることよ」


 その程度の事も調べられぬ者は、はなから必要としておらんというわけか。


 そんな話をしながら、我は会場を突き進み、最前列の席へと腰を下ろす。

 アミリナもそのまま付いてきて我の隣に座ったのを見ると、ここに彼女の知人はいないらしい。


「では、我々はあちらにおりますので」

「戻る時はまた来ますね」


 従者としてここにいる二人は壁際へと移動する。流石に、椅子に座る訳にもいかんし、我の後ろに立たせていても、他の者の邪魔になるだけだからな。

 そのまま暫くアミリナと話しながら待っていると、新入生らしき者たちによって一つ二つと席が埋まっていき、席が埋まったところを見計らったように、モーリスが会場へと現れた。

 彼は、会場の前に設置されている壇上に登り、開会の挨拶を始める。


「まず初めに、皆さん入学おめでとう。

 試験が終わった時にも言われていると思うし、俺も担当した奴らに言ったことだが、我々は皆がこの学園でよく学び、心身ともに成長してくれることを願っている」


 声を拡散する魔法を使っているわけでもないのによく通る声で、彼は激励のようなものをのべていく。


「試験時に問題を起こした者もいたが、この学園では身分での差を認めていない。また、実力での優遇はあるが、それを笠に着て他者を害する行為も一切認めていない。これに背くと、最悪の場合は、国への反逆として罰せられる可能性があることを肝に銘じておいてほしい。我々としても、学園の生徒を牢獄に送るのはつまらんからな」


 試験で問題を起こしたというのは、試験を受けていながらこの場にいない二人のことだろう。

 ……いや、我のことも入ってるか?

 まあ何にしても、あの時の二人に会うことは二度とないから問題はない。奴等は試験にも落ちているしな。

 そもそも、あれらはカイレスの怒りを買ってしまったようだし、生きているかどうかも怪しいものだ。


 カイレスの上司であるマル爺も、怒らせると怖い類いの魔族だが……部下は上司に似るのだろうか。今回のように好きにさせると、主人である我が許せる範囲を器用に見極め、その範囲内で好き放題に動く。そういったところなどそっくりだ。


「——では学園長の挨拶」


 我が思いに耽っているうちに入学式は進み、モーリスに変わって初老の男が壇上に上がる。

 あれが学園長、つまり、この学校の(おさ)か。


「新入生諸君、入学おめでとう。

 ワシはこの学園の学園長をしておるメリウス・クァルツィルオネじゃ。家名は長いからの、メリウス学園長でも、そのまま学園長でも、好きなように呼んでくれ」


 家名を持っているということは、学園長も貴族ということか。

 貴族が学園長をしているのは、学生にも貴族が多いからか、それとも学園自体が国に重要視をされているからか……学園長自身が貴族名を得られるほどの実力者故に、その立場を得られたという可能性もあるな。


「ワシの言うべきことは殆どモーリス先生が話してしもうたしの、長話を聞くのも鬱陶しかろうから手短に済ませるとしよう。

 この学園は、勇者をはじめとした優秀な人材を多く輩出してきた。新入生諸君も、その歴史に恥じぬ行いを心掛けねばならん。

 武術、魔法、戦術、様々なことを学び、学力を鍛え、そして、この学園の生徒として高潔な心を養うことじゃ。

 以上じゃ」


 前言通りに簡潔な挨拶を済ませ、学園長は壇上から降りていく。

 無駄を省き、伝えるべくを伝えるというのは、上に立つ者にとっての必須技能だ。


「それでは次に、新入生代表による挨拶。

 新入生首席ロムナード・ウェルシュ、壇上へ」


 我の出番か。


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