第008話「仲間 ①」
「小娘、こっちに来い」
黒曜の言葉に未来は胡散臭げな視線をよこした。
「その小娘って言い方どうにかなりませんか?」
黒曜はしばし考え込む。未来にはなぜ黒曜がそんなに悩むのかが理解できなかった。
封と小さくため息。彼の中で何かが決まったようだ。
「では……未来……こちらに来てもらえるか?」
不機嫌な顔は相変わらずだが、それでも言い方を変えてくれた。
黒曜に導かれるまま、先ほどの店に戻るのとは別の扉に向かう。扉をくぐると中は円形の部屋になっていた。
「うわぁ!」
思わず声が出る。
部屋の壁はガラス張りだったのだ。彼女が驚いたのはそれだけではない。ガラスの向こうには広大な海が広がっていた。耳を澄ませば風の音が聞こえてきそうなほどにリアルな海原が目の前に広がっている。
「ここって……町中ですよね?」
この部屋があるのは小高い岬の上だ。
ガラス面に近づいてみてもそのリアルな風景は変わらない。
――どこかの風景を映しているのかな?
液晶画面であればそれなりに分かるは素直だが、どんなに目を凝らしても本物の風景にしか見えない。
「そこの扉から外に出るな」
黒龍の言葉に未来は自分の正面を見た。そこに小さなガラス張りの扉があることに気づく。それはちょうどしゃがめばくぐれるほどの小さな扉だった。
「この扉をくぐるとどうなるの?」
「今くぐれば何処に繋がるか分からん。しばし待て、契約が終わればくぐっても大丈夫だ」
「――――――?」
言っている意味が分からなかったがとりあえずは頷いておく。いずれ通らせてくれるというのだからそれまで待てばいいことだ。
「今からお前に従者を選んでもらう」
黒曜は懐から小さな笛を取り出す。
口元に当て一吹きした。音は聞こえなかった。
しかし、黒曜は手ごたえを感じたのか小さく頷くと笛を懐にしまう。
待つことしばし。
「来たな」
黒曜と同じ方向を見れば何かが近づいてくるのが見えた。
それは初め小さな点だった。
何かが近づいてくる。
――小鳥と……蛇?
未来の頭の中に?マークが浮かんだ。
小鳥は分かるが何故蛇が飛んでくるのだろう。
小鳥と蛇はものすごい速さでどんどん近づいてくる。
このままではガラスに当たってしまう危険性があった。
「危ない!」
分かってはいても声が出てしまう。
しかし、こちらに向かってくる小鳥も蛇もスピードを緩めない。そのままの勢いでこちらへ――未来の元へとやってくる。
ぶつかる!と目を閉じた未来だったがぶつかる音はしなかった。
「未来、何をしている?」
黒曜に言われ恐る恐る目を開けるとそこにその二匹はいた。
それは――白い小鳥と小さな竜だった。
「え――っ!?」
未来は我が目を疑う。
小鳥は分かる。シマエナガをもっとふっくらとさせたような見ているだけで癒されてしまう白い鳥と、輝く鱗を持つ――竜。大きさは抱けるほどで、それが音もなく浮いている姿は不思議な感じだった。
「こ、これって何ですか!?」
CGなどではない。この二匹は確かにここにいる。
「鳥と竜だ」
黒曜の答えは素っ気ない。
「さっきも言ったと思うが。こいつがお前の従者だ」
「…………」
未来は無言のままに二匹を見つめる。
二匹は未来の周りをぐるぐると回る。手を出すとその手のひらにちょこんと乗った。
「か、可愛い」
未来の声に二匹はとても喜んでいるようだった。