第004話「玉葉様と黒曜 ①」
「私の名は黒曜。そして……」
黒曜は胸に抱いた白猫を優しく撫でた。
「こちらが玉葉様……我が主様だ」
「……は、はあ……」
黒曜は猫の従者――というわけか。誇らしげな黒曜の顔がなぜか腹立たしい。
【顔のいい奴に碌な奴はいない】というのが未来の信条だ。
未来にとってイケメンはまさしく天敵だった。
母はそれで変な顔だけ男につかまり多額の借金を背負う羽目になった。その借金が原因で両親は別居中。父の元に身を寄せているが、その父は今現在海外出張中――今は一軒家で妹と二人暮らしだ。
父から仕送りがあるがそれだけでは生活は厳しく未来は家計を助けるために今現在バイトを二つ掛け持ちしている。
そのイケメンが話があるという。
胡散臭い事この上ない。
「先ほども言った話だが、貴様には神になってもらいたい」
「………………………………はい?」
「聞こえなかったのか? それとも頭が悪いのか?」
黒曜は「耳も頭も悪そうな小娘だな」と小さくため息をついた。
――ちょっと、聞こえてるんですけど!
未来はますますこの男が嫌いになった。
「あの……状況が全く見えてこないんですけど、それに神って何ですか? 宗教の勧誘ならお断りです!」
これ以上変なことに巻き込まれるのはごめんだった。
黒曜は憮然としたまま未来を睨みつける。
「それに、話をするならお茶くらい出さないんですか?」
「ぐっ……小娘……下手に出ていれば……」
憎々し気に言い放つが、それは未来の方が言いたかった。
いつ下手に出たのだろうかこの男が?
未来には全く記憶がない。
「……茶を……準備しよう」
黒曜は立ち上がる。白猫を椅子の上に置き部屋の奥へと引っ込む。
沈黙。猫は毛づくろいをしながら未来を見つめる。
「あっ、そういえば」
未来はカバンの中に猫用のおやつがあるのを思い出した。
先日、友人と一緒にペットショップに訪れた際に店員から試供品として渡されていたものだ。
「食べるかな?」
がさごそと鞄をあさりおやつを取り出す。
チューブ式のおやつ――を開けた瞬間に白猫の目つきが変わった。
白猫はぴょんと椅子から飛び降りるとそのまま未来の膝の上に飛び乗ったのだ。
「にゃ~ん」
白猫の瞳が催促するように未来に注がれる。
――うっ、可愛い!
未来は猫は嫌いではない。むしろ大好きだ。黒曜がいなければすぐにでも白猫――玉葉を撫でまわしたいくらいだった。
おやつを玉葉の前に持っていくと玉葉は両手(※前足)でおやつをつかみ取りものすごい勢いで食べ始めた。
ぺろぺろと舐めるように食べ始め持っている未来の指すら舐める。猫舌のザラッとした感覚を未来は嫌いではない。
「ぎ、玉葉……様、落ち着いて」
猫に様をつける自分って何なんだろうという気にはなったが【玉葉様】という名前の猫だと思えば何となく納得してしまえた。
玉葉様の食いつきぶりは半端ない。まさしく「猫まっしぐら」といった感じだ。
せっかくのチャンスなので玉葉様のモフモフを堪能する。毛並みはサラサラで耳などはぷにぷにしている。
喉をくすぐるとゴロゴロと喉を鳴らし始める。
ガシャン!
破砕音が未来の耳に届いた。
見れば茶器を取り落とし蒼白な顔の黒曜。彼の目は未来と玉葉様に注がれている。
「ぎ、玉葉……様!」
怒り出すかと思われた黒曜はしかし、その場にがっくりと膝をついてしまった。
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