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第002話「猫と鈴」

 キイィ


 軋んだ音を立てて扉が開く。

 彼女――未来はひょこっりと顔だけをのぞかせて建物の中を観察する。

 建物の中は外観からは想像もできない幌に広がりを見せていた。


 ――雑貨屋かしら?


「お、お邪魔します……」


 がらんとした中にいくつかの家具と置物。

 入って正面。猿なのか人なのか分からない木彫りの怪しげな人形が左右に控え、部屋の中央には陶器の丸香炉が金の縁取りのある八角形の作れの上に置かれている。

 部屋の四隅には透かしの入った燈篭が置かれ、そこからの明かりが淡く部屋を照らす。

 床には瓦が敷かれていた。足を踏み込むとカタリと音が鳴る。どうやら瓦を縦にして敷いているようだった。

 その音が心地よく未来は歩みを進める。思わず中に入ってしまったが、断りを入れているから大丈夫だと無理やり自分を納得させる。


「どなたかいませんか?」


 彼女の声が室内に響く。

 ややあって、奥の方で人の動く気配があった。

 しばらくすると一人の長身の男が姿を現す。


「……っ!」


 未来は思わず目を見開く。

 美丈夫……というのだろうか。上等な着物を着た黒髪長髪の男だ。しかし、彼女が驚いたのはそんなことに対してではない。

 彼女の視線は彼が胸に抱く白猫に向けられていた。

 先程、鈴を咥えていた猫だった。


「あの……」


「貴様は誰だ?」


 彼女が言葉を発するよりも男の声が早かった。まるで女性のような澄んだ声。だが、その声に秘められた思いは明らかな警戒。

 店(……なのだろうか、現時点では不明)の中にいきなり補とが入ってくれば誰でも警戒する。それが分かっていてもなお、未来は苛立ちを覚えすにはいられなかった。


「わ、私は……」


「誰の許しを得てここにいる?」


 男の声に未来は黙り込む。言い訳をしようにもその前に言われてしまっては言い訳すらすることができない。


「にゃん」


 男に抱かれていた猫が一声鳴いた。

 男は怪訝に眉をひそめ猫と未来とを見比べる。そして、ハッとしたように問いかけたのだった。

 白猫へと――


「ま、まさか、この小娘がそうだというのですか?」


「にゃん」


「いえ、あなた様を疑ってなどおりませぬ。しかし……」


 未来に対してとは打って変わって柔らかい口調だった。


 ――何この人……人には厳しいけど動物に対しては優しい……とか、そんな人!?


 未来は一歩後ろに下がってしまった。動物に優しいのは分かるのだが、今目の前のこの男は明らかに【猫と会話】しているらしい言動をとっていることが問題だった。

 見た目は格好いいのに中身が残念。

 三十六計、逃げるに如かず。

 ここは何気ない風を装って逃げるが吉と彼女は判断する。


「おい、そこの小娘」


 あと少しで扉の取っ手に手が届こうという時に呼び止められてしまった。


「わ、私ですか?」


 他に誰がいる?とその目が訴えている。


「名は?」


 不躾な質問の仕方だった。バイトの面接でももう少し丁寧な口調だろう。

 ここで名乗っていいものだろうか。

 情報が価値を見出す現在。下手をすれば情報が命より大切な時もある。


「み、未来みくと言います」


「苗字は?」


 未来は舌打ちしたい気分になった。わざわざ名前で答えたというのにさらに追い打ちをかけるように質問してきたのだ。

 彼女は自らの苗字を名乗る。 


「ほう……」


 苗字を聞いて男の目が細められる。その瞳にどんな意味が込められているのか未来には理解できない。


「小娘」


 嫌な予感がした。

 しかし、男から発せられた言葉は彼女の予想をはるかに上回るものだった。

 

「貴様……神になってみる気はないか?」

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