恋愛下手のアリスちゃん3
「え?二人だけなの?」
亜梨子の心に何かが突き刺さった。
芽依は、ニヤニヤ笑いながら
「きーにーなーるーのー?」
楽しそうに言う。
亜梨子は、口を尖らせて
「別に…」
と答えた。
(…嘘、ほんとは気になって気になって、しょうがないのに)
素直になれない自分が恨めしい。
あの生徒会室で、今…真之介と美雪は二人きりだ。
「まぁ、何かとデキているとか噂の高い二人だもんね。知らないの津山本人だけだよ」
呆れながら言う。
美雪が真之介に好意を抱いているのは、学校内では真之介本人以外誰もが知っている。
だから先程、亜梨子に対して、怖い視線を送っていたのだ。
亜梨子は、ただでさえ美少女である上に幼馴染ときた。
嫉妬と敵対心を抱くのは当然である。
それも、美雪本人も大手製薬会社の役員の娘ときている。
我儘で傍若無人なのは、有名であった。
「まぁ気になるなら、様子を見に行くけど?」
芽依の言葉に
「芽依、いいよ。そんな事しなくても…」
亜梨子は、首を振る。
「真ちゃんが誰を好きであろうと、誰と付き合おうとそれは真ちゃんの勝手だから。幼馴染だからって踏み込む理由にはならないよ」
少し淋しそうに言う。
「亜梨子…」
「さっ、購買部に行こうよ。シャーペンの芯が切れていて困っていたんだ」
亜梨子は笑顔を作って歩き出した。
放課後―
亜梨子が下駄箱を開けた瞬間
何十枚もの封筒が、下に落ちていく。
下駄箱には、入りきらないラブレターやらファンレターなどが、所狭しとねじ込まれている。
「はぁ…相も変わらず…派手だね」
芽依が、感心しながら言うと
「…そう…かな。でも、半分は怖い手紙だよ」
亜梨子は、ため息を漏らしながら下に落ちた手紙を拾いバックに入れる。
そして、下駄箱の中の封筒もバックに入れた。
「それ、毎日読んでいるんだよね?超人だわ」
「そうかな。書いてくれた人に失礼じゃない?」
亜梨子は、スラリと答えた。
芽依は、笑みを浮かべて
「やっぱ、生徒会長サマと亜梨子は幼馴染だよね」
と言うと
「え?どういう事?」
「自分で考えなさいよ」
そう言ってから、芽依は早足で昇降口を出る。
「ちょっと待ってよ、芽依ったら」
亜梨子は、名を追いかけて出ていく。
「ねぇ、芽依ったら、今のどういう事?」
亜梨子が、不満げに聞くと
「言葉の通りだよ。二人とも真面目なとこがそっくりだわ」
芽依は、面白そうに答えた。
「…真ちゃんと一緒にしないでよ」
亜梨子は、ふてくされている。
「はいはい」
クスクス笑う芽依。
「ところでさ、もうすぐ文化祭だよね?」
亜梨子が話を切り出す。
「うん、そうだね」
「やっぱり、生徒会主催のアレやるんだよね」
芽依の答えに、亜梨子はため息をつく。
「まぁ、今年も亜梨子がトップだろうね」
「ちょっとというよりかなり迷惑だよ」
うんざりした様子で、亜梨子はもう一度ため息をついた。
この学校の文化祭には、一つの伝説がある。
【文化祭のオオトリでもある、生徒会主催の告白大会で結ばれた男女は、永遠を約束される】
という、どこかにありそうなベタな伝説だ。
それを信じて、毎年、この告白大会にかけている生徒は多い。
去年と一昨年…亜梨子は、多数の男子生徒から告白を受けた。
両年とも、告白人数はトップであった。
ちなみに、あの3人も告白大会に出て見事に撃沈している。
「誰とも付き合う気ないって言っているのになぁ」
亜梨子は、憂鬱そうに言う。
「亜梨子の好きな男子が誰かなんて誰も知らないからね」
「うっ…」
「当の本人は、鈍感男だから仕方ないけどさ。あ…そうだ、亜梨子も大会に出場したら?そしたら、いくらあのバカでも自覚するんじゃないの?」
亜梨子は、立ち止まり
「…出来ないよ」
小さく呟く。
「なんで?」
「私…きっと嫌われてるもん」
「は?」
「こんな可愛くない女の子…だから」
亜梨子は、悲しげに俯いた。