恋愛下手のアリスちゃん2
(もうやだ…毎日…毎日)
深いため息をつく。
そう…亜梨子は毎日のように、この三人に言い寄られている。
毎日、毎日、順不同で言い寄られて、断っている。
亜梨子も強くは言えない。
なにしろ、この三人は、学校内でトップクラスのお金持ちなのだ。
千川成男は、電機業界の大手の会社の社長令息。
剣崎誠吾は、地元でも有名な大地主の息子。
楠本政一は、参議院議員の息子。
怒りを買うと、何をしてくるのか分からない。
だから、毎日怒らせないように礼儀を守るように対応はしている…つもりだ。
じゃなければ張り倒しているだろう。
(しつこいのよ…毎日、毎日、ワンパターンで)
拳をグッと握る。
そして、また深いため息をつく。制服のブレザーのポケットに手を入れて歩き出すと
「久瀬さん!」
また亜梨子を呼ぶ声。
だが、亜梨子の反応は、前とは違う。
ビクッと身体を震わせた。心臓もバクバク言っている。
息を整えてから、面倒くさそうに振り返った。
「何か御用ですか?生徒会長サマ」
必死に冷やかな口調で言う。
そこには、眼鏡をかけた地味な感じの男子生徒がいた。
生徒会長の津山真之介である。後ろに控えているのは、副会長の崎山美雪であった。
「あの…うわっ!!」
と、亜梨子に急いで歩み寄ろうとしたが…
【どたっ!!】
次の瞬間、何かに躓いて派手に転ぶ。
持っていた書類が派手に散らばった。
何枚か亜梨子の足元に落ちてくる。
「また転んだよ、生徒会長」
「毎回、派手だね…」
周囲から声がもれる。
ため息をついてから亜梨子は、屈んで書類を拾う。
一方の真之介と美雪も書類を拾っていた。
亜梨子は、拾った書類を
「はい、生徒会長サマ」
そう言って渡す。
真之介は、亜梨子に近寄り
「亜梨子、いつも言っているだろう?制服を着崩して着るのはやめるようにって」
窘めるように言う。
確かに、亜梨子は多少なり制服を着崩している。
そういうところも他の生徒にうけている訳だが。
亜梨子は、ムッとしながら
「はいはい、真面目ですねぇ生徒会長サマは」
棒読みで言う。
「亜梨子!」
真之介がさらに何か言おうとしたので、亜梨子は言い返そうとしたが…
美雪が、恐ろしい視線で亜梨子を見ていた。
亜梨子は、言葉を飲み込んで
「はいはいわかりました。会長サマは、副会長サマと仲良くね」
二人に背を向けて、手をヒラヒラさせる。
「亜梨子!」
真之介は追いかけようとしたが、
「会長、会議の時間になります」
美雪が、真之介を呼び止めた。
「…分かりました」
真之介は、亜梨子の後ろ姿を見ながら、美雪と共に会議室へと向かう。
二人が並んで歩いて行くのを亜梨子は感じていた。
ふと立ち止まって
「私…可愛くないよね」
小さく呟いた。
すると後ろから
「なぁにが可愛くないのかな?」
と、背中をツツーっとなぞられる。
「うひゃっ!」
思わず悲鳴に近い声を上げた。
「もう!芽依ちゃん!」
亜梨子は、振り向きざまに言う。
亜梨子の数少ない親友である浅木芽依は、ニヤニヤ笑いながら
「学校一の美少女であらせられる、亜梨子ちゃんのどこが可愛くないのかしらん?」
意地悪そうに問いかける。
亜梨子は、プイっとそっぽを向いて
「意地悪」
ふてくされたように言う。
芽依は、亜梨子の耳元で
「また生徒会長サマですか?幼馴染とはいえ、よくやられる事で」
と、囁く。
亜梨子は、ムッとしながら
「だって…」
「学校中の誰もが信じられないよ。学校一のパーフェクト美少女―久瀬亜梨子と学校一の地味でドジで真面目な生徒会長サマ津山真之介が、生まれた時からの幼馴染なんてさ」
「…パーフェクト美少女なんて、そんな大層なモノじゃないよ」
亜梨子は、プイっと横を向く。
亜梨子と真之介、家が隣同士で世間一般で言う【幼馴染】の仲である。
一緒にお風呂に入ったり、同じベットで寝たり…無論、小さい時の話だが、すごぶる仲が良かったのだ。
しかし、成長を重ねてくると、やはり意識を始め、距離を置いてくる。
亜梨子は、その容姿から周囲に求められるキャラ【クールでかっこいい】を演じるようになり、ますます真之介から距離を置くようになった。
真之介は、真面目な性格からか、ちょっとの制服の着崩しや言動などを、口うるさく言うようになった。
意地っ張りな亜梨子は、真之介に反発する。
現在、こういうのが続いている。
まぁ、亜梨子が真之介と距離を置くのは、言い寄ってくる3人の男子生徒から、真之介を守る為でもあるのだが…
「そういえば芽依、今から会議じゃないの?」
亜梨子は、思い出したように言った。
さっき、美雪が
『会長、会議の時間になります』
と、真之介に言っていたのだ。
そして、芽依は生徒会会計でもある。
単純に、前任の生徒会長の妹という理由だけで、生徒会に引き込まれただけらしいが。
芽依は、肩をすくめて
「いいのいいの。あれって、生徒会長と副会長だけの会議だから?」
そう言いながら苦笑する。