恋愛下手のアリスちゃん12
「さぁ!始まりました生徒会主催【大告白大会】の時間です!」
芽依の始まりの合図に、観客は大歓声を上げる。
「今年も、やってきました。恒例行事…可愛いあの子、愛しいあの人の気持ちは?そんなどっきどきを抱えた参加者が後ろに控えております。そして、今年は…」
芽依は、観客席の真ん中辺りで、演劇部から借りてきた豪奢なイスに座っている亜梨子を指して
「今年は、特別イベントの為、久瀬亜梨子さんには、こちらで控えていただきます」
わぁぁぁぁぁっと歓声が上がる。
「ルールは、いつも通りで、告白する方から名指しされた方はステージに上がってきてこのバラを受け取っていただきます。そして、【OK】でしたら、このバラを相手に差し出してください。【NG】でしたら…バラは持ったままステージを降りていただきます」
芽依のMCぶりは、やはり上手い。
「予定の致しましては、通常のイベントの後、特別イベントに移らせていただきます。…はい、前置きはいい加減にしろ!ですね」
そこで笑いが起こる。
芽依は、笑顔で
「それでは、くだらない前置きはこれくらいにして、まずは一人目…1年C組深沢秀樹さん…どうぞ!」
それから大会は、盛り上がった。
成立したカップル…見事に玉砕した参加者…その表情は様々だった。
コミカルに進行する芽依。
しかし、亜梨子は刻一刻とせまる時に胸が潰れそうだった。
時々、舞台の端に控えている真之介を見る。
芽依のMCに笑いながら拍手したり、玉砕した参加者を励ましたりしている。
(私の気持ちも知らないで…)
亜梨子は、憂鬱になってきた。
このまま、時が過ぎなければいい…なんて考えていた。
しかし、時間は、亜梨子の思い通りには進まない。
しかも、イベントがあるというのに、無謀にも亜梨子に告白する輩もいたりした。
亜梨子は、笑顔で断りながら憂鬱感をより一層深くしていた。
そして、運命の時間はやってきた…
「はい!それでは、通常イベントはこれにて終了させていただきます。今から、特別イベントに移らせていただきますね」
一息置いて
「皆様、ご存じではありましょうが、我が校にはパーフェクト美少女・久瀬亜梨子さんがおります。この亜梨子さんを巡り、男子生徒のアピールは毎日のように続いておりました。そして、すべて玉砕し続けていたのです。その中でも…この3人の亜梨子さんへのアピールは強烈でした」
そう言ってから
「まずは、千川成男さん!」
成男が舞台のそでから出てくる。
「千川成男さんは、千川電機の御曹司であらせられます。そして、二人目は、剣崎誠吾さん」
誠吾が舞台の袖から出てくる。
不機嫌なのは、先程真之介にやられたせいであろう。
「剣崎誠吾さんは、先祖代々続く地主の家の御曹司です。そして、最後に楠本政一さん」
政一が舞台の袖から出てくる。相変わらず気持ち悪い。
「楠本政一さんは、参議院議員であられる楠本健吾氏のご子息であります」
そして、亜梨子を見て
「では、久瀬亜梨子さん、ステージにどうぞ」
そう言われ、亜梨子はステージへと向かう。
すべての視線が亜梨子に釘付けだ。
亜梨子がステージに上がると
「さぁ、亜梨子さん!この三人の中からお一人を選んでください!」
芽依は、マイクを差し出す。
観客だけじゃない、三人組も亜梨子の答えに固唾を飲んでいる。
マイクを受け取り、深呼吸してから
「答えは…」
亜梨子は三人を見据えて
「三人ともNO!です」
その瞬間、その空間は時間が止まったように静かだった。
何よりも、3人が亜梨子の答えに固まっている。
亜梨子は、マイクを芽依に返すと
【コツコツ…】
と音を立ててステージから降りる。
【ざわざわ…】
会場がざわめき出す。
「ど、どういう事ですか?」
最初に声を上げたのは政一。
「我々の中から、一人を選ぶ…そういう事ではなかったんですか?」
ステージに背を向けている亜梨子に問いかける。
亜梨子は、背を向けたまま
「確かに、私の両親は、今日返事を出すと言いました。しかし、それは3人の中から誰かを選ぶ…という事ではありません」
きっぱりと言う。
昨日、父は言った。
『お父さんの選挙資金は、気にする必要はないんだ。亜梨子、お前は好きな人と幸せになりなさい。だから、断ってもいいんだよ』
と…
今日、母は言った。
『あなたの気持ちに正直に生きなさい。誰もあなたの心を曲げる権利はないのだから。大好きなんでしょ?真之介君が』
と…
だが…
「そんなのは納得できん!」
声を上げたのは誠吾だった。
「わしらの中から選ぶと聞いていたんじゃ!今すぐ選ぶんじゃ!」
だが、亜梨子は
「何度も言わせないでください。お断りします。それは、変わりません」
3人を見据えて亜梨子は言う。
呆然としている3人を横目に見ながら
「では、特別イベントはこれにて終了いたします。皆様、長らくお付き合いいただきましてありがとうございました」
芽依は、一礼してから
「それでは、生徒会長から、一言お願いいたします」
そう言ってから、真之介にマイクを渡す。
真之介はマイクを取って
「生徒の皆様、2日間お疲れ様でした。お越しの皆様、本日はありがとうございます。生徒会を代表いたしましてお礼を申し上げます。生徒・皆様のご協力により今年の文化祭も無事に終了する事が出来ます。我々生徒会も最後の仕事をやり遂げ満足しております。ここで皆様にお伝えしたい事があります」
真之介は、そこで沈黙する。
ざわめき…
亜梨子は、美雪との交際を公表するのだろうと背を向けて歩き出した。
生徒達も同様だった。
だが…
「久瀬亜梨子さん!」
ありったけの大声で真之介は亜梨子の名を呼ぶ。
思わず
「はい!」
亜梨子は、驚いて振り返り返事をしてしまった。
そこで真之介は、少しの間を置く。
何が始まるのか…固唾を飲んでみなが見守る。
真之介は、深呼吸をしてから
「俺と…僕と…結婚を前提にしたお付き合いをしてください!!!」
ありったけの声を張り上げた。
時が止まったような沈黙…
その中で、芽依は真之介からマイクを取り上げてステージを降りる。
亜梨子の前に立ち、マイクを差し出す。
亜梨子は、呆然としながらも
「はい、よろしくお願いします」
震える声で答えた。
会場は、パニックに陥る。
「どゆこと?」
「会長は副会長とデキていたんじゃねぇの?」
「まさかふたまた?」
「うっそー」
その口から出る言葉は様々だ。
呆然自失になっているのは、3人組。
驚きのあまり、声も出ない。
しかも、顎が外れんばかりに口を、あんぐりと開けている。
芽依は、亜梨子の手を引きステージに上がらせる。
真之介の前に立たせてから、バラを渡す。
バラを受け取り、恐る恐る真之介の前にバラを差し出した。
真之介が笑顔で受け取った瞬間、亜梨子の涙がとめどなく溢れてくる。
「ほぉらっ!」
亜梨子は、芽依に背中を押され、真之介が受け取った。
会場から悲鳴に似た声が上がる。
卒倒したのは、亜梨子FCの面々だ。
「ちょっと、副会長の事はどうなんだよ?」
会場から不満の声が上がる。
真之介は、芽依からマイクを受け取ってから
「確かに、副会長と噂されたような事実はありました…が、それは誤解です。俺が…自分が好きだったのは…」
真之介は、亜梨子を見て
「亜梨子だけでしたから」
亜梨子の涙は止まらない。
ふと、周囲を見ると美雪の姿がない。
先程まで、舞台の袖にいたはずなのに…
美雪は、ステージから遠く離れた場所にいた。
声を殺して泣いていた。
「副会長」
いつの間にか後ろにいた芽依が声をかける。
「浅木さん…」
美雪は涙を拭いて
「無様でしょ?笑ってよ」
自虐的に笑う。
「そんな事はないよ。副会長は…頑張っていたじゃん。そんなの笑うのは出来ないよ」
芽依の言葉に美雪は、泣き出す。
今度は声を出して
「入学した時から好きだったのよ。あの人に似合う女になりたくて、いっぱい研究した。なのに、いつも…彼女を見ていた」
わぁぁぁっと声を出す。
芽依は、そっと抱き締めて
「うん、分かってる。いっぱい泣きなよ、いっぱい泣いて、あいつよりいい男を探そう」