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恋愛下手のアリスちゃん  作者: 如月まりあ
11/13

恋愛下手のアリスちゃん11

運命の日は、やってきた。


亜梨子の心とはうらはらに、清々しい程の青空が広がる晴天。


(神様が、こんなにイジワルとは思わなかったわ)


制服に着替えながら、亜梨子は憂鬱でしかなかった。


亜梨子が胸の中に秘めている答え…それは、騒動を起こすのは間違いない。


どの答えでも、騒動になるのは間違いないのだ。



大会社社長の息子の千川成男。


大地主の息子の剣崎誠吾。


政治家の息子の楠本政一。



そのどれを選んでも、後の二人が黙ってはいない。


それを考えると憂鬱でしかなかった。


ため息をついてから、窓の方を見る。


(真ちゃん、もう学校だよね)


そう分かっていても、亜梨子は窓を開けて、その向こう側に見える真之介の部屋の窓を見つめた。


うす暗く静かな部屋は、主の不在を証明している。


「いるわけないか…」


亜梨子は窓を閉めた。


だが、亜梨子が窓を閉めた途端に、真之介の部屋のドアが開く。


どうやら、真之介が忘れ物をしたらしい。


机の上にある書類を鞄に入れると、真之介は窓の向こうにある亜梨子の部屋の窓をジッと見つめる。


グッと拳を握りしめてから、真之介は学校へと急いで向かう。


本当に…タイミングの悪い二人だった。


亜梨子は、自分の部屋を出てから、下へと降りる。


エプロンを着用してから、いつものように洗濯機をセットして、朝食を作っていると、寝癖をつけたままの紗緒里が欠伸をしながら入ってくる。


「亜梨子、おはよう」


寝ぼけた様子の紗緒里に対して


「お母さん、おはよう」


亜梨子は、きびきびとした口調で答える。


「いつも、ごめんなさいね」


「いいわよ。家の中がめちゃくちゃになるよりか、マシだもの」


亜梨子は、苦笑しながら答える。


「ま、ひどいわ」


「事実でしょ?」


「まぁそうだけどね」


そう言ってから紗緒里は、テーブルのイスに座る。


「ねぇ亜梨子…」


紗緒里が話を切り出した。





本日は、売り子の仕事も呼び込みの仕事もない。


午後からのイベントに気を使ったクラスメイトの計らいで。


何もすることがないので、仕方なく学校中を散策して回っていた。


「亜梨子様、これどうぞ」


そう言われて2年生に焼きそばを差し出されたり


「久瀬さん、勝負よ!」


と、バスケ部の部長に勝負を挑まれたり


どこに行っても人垣が絶えない。


「亜梨子様」


「亜梨子様」


周囲のそんな様子に、辟易した亜梨子は人のいない屋上に向かった。


普段は、上る事も出来ない屋上だが、文化祭の間は解放されている。


アベック達の憩いの場所となっているのだ。


亜梨子の姿が見えると、互いに亜梨子を見ながら耳打ちしている。


だが、亜梨子が気にも止めてないようだったので、再び自分たちの世界に入って行った。


金網越しに校庭を見つめる。


大勢の人ゴミが、うじゃうじゃと蠢いている。


(…今日、決めないといけないんだよね)


あの人ゴミの中で、亜梨子の胸の内を理解できる人はいるのだろうか…?


おそらくいない。


玉の輿が約束されているのだ。誰もが羨ましがる。


しかし、亜梨子は玉の輿に乗りたいわけではない。


なんと、もったいない事だろう。


好きでもない相手…性格などに問題がある相手…そんな人間と付き合って、何が幸せだろうか?


割り切ればいい。


しかし、そういう部分は不器用な亜梨子は、割り切れてなかった。


ふと、何か悪寒のような気配を感じ、周囲を見渡す。


屋上には誰もいない。


いや…誠吾とその取り巻きだけが屋上にいた。


ニヤニヤと猛獣のような嫌な笑いを浮かべて、熊のような足取りで亜梨子の前に立つ。


「いよいよ今日だ。どうだ?俺と付き合う決心はついたか?」


威圧的な物言いに、亜梨子はカチンと来たが


「決心も何も、私はまだ答えをいっていませんが?」


作り笑顔で答える。


「何を言っているんじゃ。わしに決まっているだろう?」


がはは…と豪快に笑う。取り巻きもつられて笑っていた。


「ですが、私はあとのお二人の内から選ぶ確率もあるのですよ」


作り笑顔のまま亜梨子が答えると、その答えが気にいらなかったのであろう、誠吾の表情が、みるみる変わっていく。


「あんな軟弱者とわしを同等にするな!」


亜梨子に向かって怒鳴りつけてくる。


「私にとっては、同等です」


拳を握りしめて毅然と答える。


誠吾の体がフルフルと震えていた。


取り巻きの連中は、それが何だか分かっているので、オロオロとし始めた。


「…もともと、わしはこんなまどろっこしいやり方は、好かんのじゃ」


怒りに震えた声で誠吾は言う。


「女は、無理やりにでも言う事を聞かせるのが、わしのやり方じゃあぁぁぁぁ!」


と、亜梨子に襲いかかろうとする。


第一撃を、亜梨子はヒラリと交わす。


頭に血が上っている誠吾は、すぐに第二撃に移る。


それも交わしたが…


【ガシャン!】


背中が金網に当たる。


背中に冷たい汗が流れた。


そして、勝利を確信したかのように誠吾がゆっくりと迫ってくる。


「優しくしてやるよ」


猛獣のような嫌な笑いを浮かべて迫ってくる。


(…もう…ダメ)


亜梨子は、目を瞑った。


しかし…


【どぉーん】


次の瞬間に亜梨子の耳には、そんな地響きが鳴り響いてきた。


そして


「てめぇ!」


取り巻きの誰かの声。


【ドン!バタ!】


という音。


【ガチャン…】


何かが落ちて割れた音。


そして、沈黙…


亜梨子が、恐る恐る目を開けると…


「亜梨子、大丈夫?」


心配そうに亜梨子の顔を見ている真之介がいた。眼鏡はかけてない。


屋上の芝生の上には、誠吾と取り巻きが仲良く白目を剥いている。


「真…ちゃん…」


へなへなと腰が抜けたように、亜梨子はその場にへたり込んだ。


「亜梨子!」


真之介が亜梨子の腕を掴む。


「どうしてここに?」


「あいつらが、亜梨子を追って屋上に行くのを見たんだ」


「…そうなんだ」


「大丈夫?立てる?」


心配そうに亜梨子の支えながら立ち上がらせようとする。


「大丈夫…」


小さく答えて立ち上がろうとするがうまく出来ない。


「あ、あれ…?」


いつの間にか、涙がこぼれおちていた。


「ご、ごめんなさい。あれ…?」


溢れる涙は止まらない。


怖かった…あの時、誠吾に襲われる恐怖で胸が一杯だった。


だが、真之介が助けてくれた。


怖くかった…でも、嬉しかった。


そんな感情が入り混じっていた。


「亜梨子…あの…」


真之介が何かを言おうとすると


「会長!」


美雪が屋上の入り口から真之介を呼ぶ。息を切らせながら。


「副会長…」


真之介は、困惑した。


亜梨子は、グッと拳を握りしめてから


「会長、助けていただいてありがとうございました」


そう言って立ち上がると、小走りに美雪に傍を通り抜けて屋上から出て行った。


「亜梨子!」


真之介の呼び止める声が聞こえる。


だが、追っては来ない。


亜梨子は、胸が苦しかった。


(ばか、ばか、ばか、ばか)


自分自身と真之介に向かって亜梨子は、心の中で叫んだ。



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