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恋愛下手のアリスちゃん  作者: 如月まりあ
10/13

恋愛下手のアリスちゃん10

文化祭当日の朝―


いつものように朝の家事をしながら


「憂鬱だ…」


ため息まじりに言う。


今日、例の3人に返答しなければならない。


考えるだけで憂鬱だ。


誰と付き合っても、嬉しくも楽しくもない。むしろ不快なだけだ。


しかし、父の為を思うと…


(断ったら、お父さんが困るよね)


そう思うし


(どうせ、真ちゃんにはフラレたし…)


自暴自棄になっている部分もある。


ため息をついてから、洗い物を終わらせて食器乾燥機のスイッチを入れる。


そして、いつものように洗濯物を干してから、居間に入ると英介がソファで新聞を読んでいた。


(今日、土曜だものね)


最近、英介とは、あまり会話をしていない。


例の3人との事で、亜梨子は怒りを覚えていたからだが。


「ねぇ、お父さん」


亜梨子は、父に声をかける。


【バサッッ!】


亜梨子から声をかけられて、英介は驚いていた。


「な、なんだい?」


声を強張らせて言う。


「…お父さん、学部長選挙ってお金がいるのよね?」


亜梨子の問いに、父は新聞を下す。


「そうだね。多少ばかりいるね」


「だよね」


そう言ってから亜梨子は、学校に行くために鞄を取りに行く。


玄関で靴を履いていると


「亜梨子」


神妙な面持ちで英介が亜梨子に声をかけた。





「和風喫茶いかがですか?」


和服に髪は後ろに束ねて三角巾、そういう美少女に声をかけられると、たいがいの男性は足を止めてしまう。


亜梨子は、笑顔で


「3-Bでは、和風喫茶をしております。皆様、よろしければいらしてくださいね」


と、ビラを配る。


小さい子供をみかけると


「和風喫茶に来てね」


と、屈んでからビラを渡す。


「お姉さん、きれいだね」


小さい子に言われ


「ありがとう」


亜梨子は笑顔で答える。


(ほんと、あのくらいに戻りたいな…おっと、お仕事お仕事)


「3-Bで、和風喫茶をしております。渋い抹茶に甘い和菓子、あんみつ、ぜんざいを用意しておりますので、皆様いらしてください」


愛想を振りまいて言うが、すぐに表情が強張る。


例の3人が視界に入ったからだ。


「やぁ、亜梨子さん」


髪をかき上げながら成男が言う。


「ごきげんよう」


亜梨子は、不機嫌な声で言う。


「そんなに怖い顔をしていたら、綺麗な顔が台無しですよ」


と、バラを一輪差し出す。


「今は、クラスの呼び込みの仕事をしておりますので」


そう受け取りを拒否する。


「とうとう来たぞ!文化祭が!」


誠吾が、がはがはと下品な笑いをする。


亜梨子は、顔をしかめる。


「私達のぉ中からぁ一人選んでいただきますよぉ」


政一が、にへらにへらと笑う。


「もうわしに決めておるじゃろう!」


誠吾が、踏ん反り返って言うと


「いや、私ですよ」


フッと笑い成男が言う。


「なぁにを言っているんですかぁ、僕に決まっているでしょう」


政一が、ニヤニヤ笑いながら言う。


亜梨子は、背筋に寒気が走った。


しかし、笑顔で


「ええ、もうちゃんと答えは決めてますよ」


と、言う。


「本当ですか?」


「誰じゃ?」


「誰にきめたんですかぁ」


三人が迫ってくるが


「その時にお答えします」


亜梨子は、毅然として答えた。


まだ、何か言おうとする3人に


「まだ、クラスのお仕事がありますので、失礼いたします」


と、背を向けてビラを配りながら去った。


「はぁ、もう疲れた」


亜梨子が小さく呟くと


「塩、持ってきた方がよかった?」


いきなり芽依が、ぬっと現れたので


「ひっ!」


驚いて声を上げてしまった。


芽依は、亜梨子をぎゅっとして


「もう、亜梨子ちゃん可愛い」


嬉しそうに言う。


「芽依、あなた危ない人だって」


亜梨子は呆れながら言う。


今日の芽依は、制服に【生徒会】という腕章をしている。


現在は、生徒会として潤滑に文化祭が行われているか見廻りをしているらしい。


「芽依、仕事はいいの?」


「いいの、いいの。せっかくの文化祭に、あれこれ言うのは野暮ってものでしょ」


「…し…生徒会長は?」


亜梨子が俯きながら聞く。


芽依は、クスッと笑い


「張り切って見廻っているよ。生徒会長としての最後の大仕事だしね」


「そうなんだ。…副会長も一緒だよね?」


淋しげに言う。


芽依は、遠慮がちに


「まぁ…ね」


「そう…」


亜梨子は、グッとビラを握りしめてから


「さ、お仕事しましょう!芽依もちゃんと見廻りしなよ」


明るく振舞う。


「亜梨子」


「ん?」


「亜梨子もさ、大会でない?飛び入りで」


亜梨子は、顔を強張らせて


「何、言ってるの?フラレるって分かっているのに?」


笑おうとするが、うまく笑えない。


「でも、津山…」


「はいはい、その話はおしまい」


亜梨子は、話を切ってから


「そういや告白大会って明日の何時だったかな?」


努めて明るく振舞いながら聞く。


芽依は、亜梨子をジッと見つめていたが視線をそらして


「明日の…1時」


と、答える。


「私専用に特等席ぐらいは用意してよね」


「は?」


「だって、例の3人とのイベントがあるでしょ?やっぱり豪奢なイスがいいわね。王様が座るみたいな。そういえば、演劇部になかった?そういうイス」


「亜梨子」


芽依が苦笑している。


「やっぱり、高飛車な女王様みたく座った方がいいかしら?」


笑いながらも、目には涙が浮かんでいる。


「亜梨子、無理しないでよ」


芽依が、たまらなくなって言うと


「ごめんごめん」


目に浮かんだ涙を拭いながら亜梨子は言う。


「ねぇ、例の3人の事だけど…」


芽依が話を切り出すと


「もう…決めているよ」


真剣な面持ちで答える。


「決めたの?」


「うん、決めた」


淋しそうに亜梨子は笑う。


「もう、戻るね。芽依も見廻り頑張ってね」


と言い残して、亜梨子は芽依の前から去る。


「無理…してるよね」


心配そうに芽依は呟いた。


その後も、亜梨子はビラ配りに勤しんでいた。


ふと、視界に真之介と美雪の姿が映る。


(やっぱり一緒なんだ)


胸が苦しい。


でも、平常心を保とうとしている。


「見ろよ、生徒会長と副会長、一緒にいるぜ」


「お熱いことで」


「公私は分けろよな」


亜梨子の周りで誰かが言っている。


真之介が亜梨子に気付いて近寄ってくる。


後ろで美雪が


「あちらに…」


としきりに誘導しようとするが、真之介はそれを振り払うかのように亜梨子の前に立つ。


亜梨子は、高鳴る胸の鼓動を気付かれないように笑顔を作り


「生徒会長、お疲れ様です。ご休憩の時間になりましたら、和風喫茶でもいかがですか?」


と、ビラを出す。


「副会長もご一緒に」


笑顔で言う。


「亜梨子…あの…」


真之介が何か言おうとすると


「そういえば、明日ですよね?例の3人との」


美雪が口を挟んできた。


「そうですね」


亜梨子は笑顔を作り


「もう3人の中の誰にするか、決めていらっしゃるのかしら?」


やや高圧的な物言いだ。


しかし、


「ええ、決めております」


亜梨子は笑顔で答える。


「そう…それは、よかったわ」


亜梨子の笑顔を不快に感じているのだろうか、顔をひきつらせている。


真之介は、亜梨子の答えに表情を曇らせた。


「さ、会長、次の場所に参りましょう」


と、真之介の腕を引く。


「亜梨子…」


真之介は、亜梨子に何か言いたげだったが


「さ、会長!」


強引に美雪に連れていかれてしまった。


ため息をつく亜梨子。


(…バカ)


亜梨子は、心の底から思った。


だが、すぐに


「3-Bで和風喫茶やってます。みなさん来てくださいね」


客寄せの仕事に入った。




午後から亜梨子がフロアに入ると、途端に客が殺到し始めた。


「亜梨子様、わたしあんみつ」


「亜梨子様、抹茶セットをお願いします」


その中には、亜梨子のファンクラブの子もいる。


中には


「あの答え、決まりましたか?」


とぶしつけな質問をしてくる輩もいたが


「はい、でも、その時のお楽しみです」


亜梨子は笑顔で応対した。


それでも、不躾な質問をしてくる輩は後を絶たなかったが…


亜梨子は、すべてに笑顔で応対した。


真之介が、亜梨子のクラスにやってくる事はなかった。


美雪と一緒に仲良く校内を廻っているのだろう。


二人が仲睦まじく歩いている姿を、亜梨子は見たくなかった。


だから、真之介が来なくて、正直ホッとしている。


…芽依は、仕事をさぼってよくやってきては、クラスメイト達に手伝うよう、突っ込みを入れられていた。亜梨子が気になったのだろう。


そんなやりとりを笑いながら見ていても、亜梨子の心に空いた穴はどうにもならない。


例の三人組もやってはきたが、亜梨子は思いっきり無視していた。


『今は、仕事中なので』


そう笑顔でスルーしていた。


しかし、時間は平等に過ぎていく。


時計を見る度に亜梨子は、ため息をついていた。


(今日が終わって、明日が来たら…)


そう思うと憂鬱になる。


だが、時間は待ってはくれない。


亜梨子が望んだとしても…





刻一刻と迫る運命の時に…向かって


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