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恋愛下手のアリスちゃん  作者: 如月まりあ
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恋愛下手のアリスちゃん1

「アリスよアリス、どうして君はアリスなんだい?」


バラを背負いながら、彼はうっとりとした表情で言う。


「は?」


昼休み、自分の席でまどろんでいた久瀬亜梨子(クゼアリス)は、顔を引き攣らせて固まってしまった。


「ああ、君はどうしてそんなに美しいのかい?」


彼…千川成男は軽く髪をかきあげた。


そして、背中のバラを一輪取り出して


「このバラより君は美しい…」


軽く香りを嗅いでから


【サッ】


と、亜梨子の前に差し出す。


亜梨子は、大きくため息をついてから


「で?あなたは一体何を言いたい訳?」


冷たく言い放つ。


成男は、


【ちっちっちっ】


と口を鳴らして


「今日こそは、僕の愛を受け取ってもらうよ」


上目遣いに亜梨子を見る。


亜梨子は、またため息をついてから


「丁重にお断りします」


笑顔で答えた。


そして、スッと席を立ち


「それでは、失礼いたします」


スタスタと早足で教室から出る。


「あ、亜梨子様よ」


廊下で話し込んでいた女生徒は、友達に耳打ちするように言う。


「きゃあ、亜梨子様。今日もかっこいい」


「美人で成績優秀、運動神経は抜群、性格はクール、それでもってお父様は大学教授。天は二物を与えないってよく言うけど、二物どころじゃないわよね。パーフェクトよパーフェクト!」


「この前も、絡まれていた女子生徒を助けたって聞いたわ」


「何、その子?すごいラッキーじゃん」


「あぁん、もう!亜梨子様に助けられたい!」


興奮気味に話す女生徒は、亜梨子は


「はぁ…」


ため息をついて


(私、そんなキャラじゃないんだけど。確かに女の子は助けたけどさ、小学生だって)


とはいえ、実際の高校生でも一応はあしらえる。


合気道が4段くらいの腕前…らしい。


本人は、稽古には行くが試験とかは全く受ける気ゼロだから。


(まぁた、変な風に噂に尾ひれついちゃって、まぁ)


階段をトントントンとリズミカルに降りる。


すれ違う生徒は、動きを止める。


長く伸びた輝かんばかりの黒髪。綺麗に整えられた顔立ち。スラリとした身体。


誰もが認める少女なのだ。


階段を降りたばかりの場所で、亜梨子は足を止めた。


目の前に5人くらいの男子生徒が立っていたからだ。


先頭の男子生徒は、頭は角刈り、体格は太め、踏ん返って腕を組んでいる。


(来たか…)


うんざりしながら、


「何か?」


愛想笑いを浮かべて言う。


先頭の男子生徒…剣崎誠吾は、鼻息を【ふんっ】と出してから


「亜梨子さん!俺と付き合えや!」


威圧的な物言いだった。


「申し訳ありませんが、お断りいたします」


亜梨子は、深々と頭を下げる。


誠吾は、顔を赤くして


「なんでじゃあ?俺の家は、代々の地主でこの辺りの土地を多く持っているのだぞ!」


唾が飛ばんばかりに怒鳴る。


「それが?」


亜梨子は、冷やかに言う。


「お前の為じゃったら、この辺りの土地を売り払ってやるんだぞ!」


拳を亜梨子の前で握る。


亜梨子は、動じもせずに


「ですから、それがなんだと言うんです?」


「俺と付き合えば、贅沢し放題なんだぞ!」


誠吾の言葉は、亜梨子は大きく息を吐いてから


「別に贅沢をしたい訳ではありませんから。それに、まずは女性に対する礼儀を覚えてきてください」


と、言った後に彼らの横をすり抜けていく。


「まてや!」


誠吾が、亜梨子の肩を掴もうとしたが、次の瞬間…


彼は天井を見つめていた。


亜梨子は、服の埃を払いながら


「何度も申し上げていますが、お付き合いする気もありません。これも、何度も申しあげていますが、礼儀作法ぐらいは覚えてきてください。あなたは仮にも柔道部の主将なのですから」


そう言った後、くるっと後ろを向いて廊下を歩いて行った。


「亜梨子様、かっこいい!」


誰かが、興奮気味に囁いている。


亜梨子は、ため息をつきながら


(またやっちゃった…)


軽く自己嫌悪に陥っている。


しかし、亜梨子に【安息】という文字はない。


「亜梨子さぁん」


後ろから、ねちっこい声で呼び止められる。


(やっぱり来たか…)


そう思いながらも


「なんでしょう?」


振り向いて返事をする。


なよなよした感じの男子生徒…楠本政一がいた。


「亜梨子さぁん。今日もお綺麗ですねぇ。そうそう、今度の日曜コンサートに行きませんかぁ?あなたの為なら、父に言ってチケット買占めますよぉ。二人だけのコンサートにする為に…」


そう言って、ふふふ…とにやけた笑いを浮かべる。


亜梨子は、正直イラッとしたが、


「申し訳ありません。今度の日曜は所用がございますので、お断りいたします」


再び頭を深々と下げた。


「ではぁ、今夜食事でもいかがですかぁ?五つ星レストランの予約を入れているんですよ」


「申し訳ありませんが、そういった場所での食事は、あまり好きではありませんので」


と、軽く会釈してから立ち去ろうとする。


「亜梨子さぁん」


「まだ何か?」


「そういえば、さっき下品な連中が、亜梨子さんに言い寄ったと聞きましたぁ。あのような下品な連中と一緒にいるのは、やめたほうがいいですよぉ。君には僕のような上品な男が似合うのだから」


政一の言葉に、亜梨子はニッコリと笑い


「何度も申しあげておりますが、どなたともお付き合いするつもりはございません。千川君とも剣崎君とも、もちろん楠本君ともです」


ぺこりと頭を下げてから亜梨子は、その場を立ち去る。


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