出会いは桜の咲く頃に
主人公である 三原詩衣 が成長していくにつれて、愛に対する向き合い方が変化していく___。
なんて書くとちょっと堅苦しすぎちゃいますね。
詩衣と、不思議なオーラを纏った彼が恋に落ちていく様子を、是非ご一緒に見届けていただけると幸いです。
大きな広場に、唯一咲き誇る桜の木は
この島で人気のお花見スポットだ。
「詩衣?まだ見てたの?」
「うん。桜のいい匂いがして」
「お母さん、先にご飯の準備しに帰るよ?」
ちゃんとすぐ帰ってきてね、と母が言う。
「はぁい」
桜の木の下で
風に揺られ
散ってゆく花びらを目で追いかける。
ザァ__
「お前は、この木がそんなに好きなのか?」
「…誰?」
「去年もその前も、変わらないその顔で見つめていたな」
後ろから声をかけてきたのは
和服姿の男の人だった。
「今日は早く帰った方がいい。お前のような子供には”見えてしまう”からな」
「お兄ちゃん、誰なの?」
「いずれ分かる。今は帰れ」
母親が心配するぞ、と一言添えると
背を向けて歩いていった。
「お顔…見えなかったな」
はっきりは思い出せないが
まるで靄がかかっていたような
記憶に蓋がされているような_。
ハッとして、耳を澄ますと
風の音に紛れて
母の呼ぶ声が聞こえる。
「行かなくちゃ」
母の声をたどり
彼が去って行った方向に背を向けて走り出す。
9歳の春、私は神使に触れた