001_ざんねんな少女と客人。
めのまえでおとなのおとこのひとがひどくかおをくにゃっとさせています。
おおきくめをみひらいて、くちをおおきくあけて、わたしにひとつのながいゆびをむけて。
なんだかふるえているみたい?
「なんで、なんでだ……」
なにかしゃべっているけれど、よくきこえない。
こわい、のかな?
いつものとおり、よくわからない、
だから、いつものとおり、かおをつくる、
くちをくにゃんとまげる、
めのところをちいちゃくする、
やわっこい、まるい、きもちを、のせてみる、
きえた!
ばさりとおとといっしょに、ひらひらとした、ちょっとだけやわらかそうなうすいもの、
ふく、だったっけ?それがしたへうごく……おちる?おちた?
ふく、からは、しろいちいさなつぶつぶ?がわきでている。
けっこうおおい、こんもり?
てをちかづける、ちいさなて、わたしは”ざんねんなこども”だから、とてもちいさい?
ぺたり、ぺたり、つぶがくっつく、しろいつぶ、
おとなのおとこのひとがきえて、しろいつぶがある、
……へんなの?
そうかな?
わからない、
……いつものとおり?
きょうはおとがない……。
そこは田舎の村でした。
自然は厳しく、しかし、それに対応して人もまた逞しく生きておりました。
凶悪で人を襲う獣がいて、
それを狩る人間もいて、
口から火を吐き、人を焼く蜥蜴がいて、
その硬い鱗を貫く剣を振るう人がいて、
その身を雷で覆う巨大な鳥が空から鉤爪で人を攫っていて、
文言を鍵として、光の矢を虚空から湧き出たせ、それに放ち、地に射ち落す人がいて、
その不定形の黒く蠢く小屋のような大きさの粘体が、人の四肢を溶かし、倒れさせ、
人が発する何かへの祈りの言葉が、不屈たれと、なくした腕を、再び生やし、立ち上がらせる、
そのような、なんてことはない、普通の世界。
その片隅にあった、ちっぽけな村だった共同体。
この物語は一夜にして滅びてしまった村の、唯一の生き残りの
”残念ね”の少女が、
塩になってしまった”まろうど”をペタペタと触っているところから始まります。