1日目
俺の名前、結城蒼空。しがない30歳の会社員だ。
会社と家との往復で一日が終わるような生活をかれこれ10年近く過ごしている。
唯一の趣味は、MMORPGくらい。
今日は、勤めている会社の採用活動で近くの高校に訪れている。
正直なところ、夢がある学生を見るのは心が痛い。
「俺も学生の頃は、もっといい人生を歩んでいる予定だったのになぁ」
そんな思いと裏腹に、女子高生が沢山いる状態も悪くないと考えながら会社説明会を行う講義室を目指す。
ガラガラー
講義室のドアをスライドさせ部屋に入る。
まだ時間が早いからなのか、興味がないのか分からないが人数は少ない。学校の先生も同席するはずだが、まだ部屋にいないようだ。
「5、6、、、7人か。まぁ7人も会社の説明を聞いてくれたら御の字だな。逆に人数が多いと緊張してしまうから丁度いい」
説明会の準備を進める。
「パソコンの電源はここからとって、プロジェクターと接続を、、、ん?」
床にある電源を繋げようとしたところ、小さい丸形の模様を発見した。
そして発見と同時に講義室すべてをそれが覆った。
「眩しい!なんだこれは!?」
激しい光に包まれ、目の前が真っ白になり気を失った。
どれだけ時間が経ったのか不明だが、浮遊感に包まれた状態で目が覚めた。
足もとにいきなり魔法陣のようなものが現れたと思ったら、その場にいた高校生たちと空を飛んでいたのだ。正確に言えば、強制的に何かに引っ張られていた。
そして、その集団から俺だけが弾き出された。
「痛ってぇ〜、ここどこだよ。さっきの光といい、、、異世界転移かよ。」
真っ暗な森の中で、1人たたずむ。
「ここは、現実の世界なのか?それとも、異世界??、、、この場合、俺は巻き添えをくらった移転者か?」
まずは、自分の置かれた状況を把握する。
だてに30年生きてきたわけではない、客観的に物事を捉えるのは得意だった。
「この場合、何か特殊なスキルがあるとか、ステータスが表示されるとか、、。す、ステータスオープン!」
何度か読んだ異世界シリーズ本の記憶を頼りに唱えてみる。
「おぉ!本当かよ!」
目の前に表示されたのは、自分のステータス表示だった
「スキルはどこだ、スキル〜スキル〜」
好奇心が高まり真っ暗な森の中だという事を忘れ、表示されたスキルを確認する。この場所が危険な場所だとも認識せずに。
『グォオオオオオオ!』
「な、なんだ」
現世では、聞いたことのないうねり声が響きわたる
-シュッ-
強い風が吹いたかと思うと、目の前の木が一斉に根本から切断されている
「ひっ」
-やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい-
目の前の状況を素早く理解した。
全力で逃げる事だけを考え、一目散に駆け抜ける。
「はぁーはぁーはぁー、、、」
暗い森の中で逃げるように走る。
奥の方で聞いたことない唸り声が響き、何かが迫ってきている。
「っく、、何で、、はぁー、、いきなりこんな事になったんだ」
逃げることだけを考え、ただ真っ直ぐに走り抜けていくが、すぐそこまで迫ってきているのが分かる。そして、背中への強い衝撃で肺の空気がなくなる。
「かはっ」
息を吸うことができず、もがき苦しみ涙が溢れる。
下に目を向けると、胸から鋭い爪のようなものが突き出している。
元の世界では考えられないほど鋭く大きく、そして禍々しい爪。
ー痛い熱い痛い熱い痛い痛い痛い痛い痛いー
声にすることができず、かわりに血が吹き出してくる。
心臓をひと突きだったのか血が止まらず、森の一面が真っ赤な血に染まる。
ー嫌だ嫌だ、死にたくない、、、嫌だ、、、ー
もう痛みなど感じないが、目の前の『死』には恐らく逆らえない。
それでも、誰か助けて欲しい。
この暗い森の中ではありえないかもしれない、それでも、誰か、、、誰か、、、、
「小僧、こんな所で何をしている」
「ちょっと、そんなことを言う前に早くアレを処理して!! キミ!すぐに治してあげるからね。」
ーだ、誰だ?ー
「こんなのに殺られているようでは、回復させてもすぐに同じ運命だぞ」
彼の手には、息絶えた獣があった。
さっきまで自分の胸を貫いていたであろう爪は、へし折られ無惨な姿になっている。
「あ、あり、ありがとうござ、、、、」
そこで気絶してしまい、記憶が途絶える。
「血を流し過ぎたんだね。」
「おい、それをどうするつもりだ?」
「まだ分からないから、ボスに報告しなきゃ」
「召喚の儀で弾かれた者だから使えるかと思ったら、がっかりだな」
「どうだろうね〜これから調べてみないと」
これが異世界召喚をされた、結城蒼空にとっての1日目だった。