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推しとなり  作者: 亜瑠真白
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初心者クエスト その3(2)

 アニメ第8話は慌ただしい校舎内の様子のカットから始まった。

「流石に文化祭前日となると賑やかだね。」

 愛実ちゃんが隣を歩く玖藍ちゃんに話しかける。

「そうね。私は今年で最後だと思うと何だか寂しくなっちゃうわ。」

「大丈夫。寂しさなんて感じさせないくらい、私が玖藍のことを楽しませるんだから。」

「ふふ。それじゃあ、楽しみにしているわ。」

「任せて!」

 2人が廊下を歩いていると目の前に言い争いをしている集団がいた。

「私達が先に予約してたんだけど!」

「そんなはずない!私達が実行委員に聞いた時、まだ空きがあるって言ってた!」

 愛実ちゃんが間に割って入る。

「ちょっとちょっと!どうしたの?」 

 言い争っている生徒の一人が愛実ちゃんの方を振り向いた。

「愛実さん、聞いてください!私達が先に文化祭最終日の青空ステージを予約してたのに、この人達も予約してるって言うんです!」

「ちょっと!自分の学科のアイドルだからって都合よく言わないでよ!私達が絶対先だったんだから!」

 両者は収まる様子がない。

「こっちは特進科の1年生でそっちは商業科の2年生みたいね。」

 玖藍ちゃんが言うと廊下の向こうから声が掛かった。

「あれ、みんなどうしたの?」

「すずこちゃん!」

 商業科の2年生が言う。向こうからやってきたのはsoropachiの3人だった。

「seek red sweetの2人もいるし。どういう集まり?」

「それが、特進科の1年生と商業科の2年生で青空ステージの予約がかぶっちゃったみたいなの。」

 玖藍ちゃんが状況を説明すると、楓ちゃんが口を開いた。

「あ、あの…どちらかが他の枠に移動するっていうのはどうでしょうか?文化祭1日目とか…」

「だめよ!私達は最終日にステージを使いたいの!」

「そうよ!文化祭の最終日に、一番目立つ青空ステージを使うんじゃないと意味がないの!」

 しかし、両者は譲る気配がなかった。

「す…すいません…」

「いいアイディアだったよ、楓。でも話し合いでまとまらないんじゃ困ったね。」

 すずこちゃんが首を捻った。その時、

「その話、聞かせてもらったよ!」

 そこに現れたのはperidotの3人だった。らむねちゃんが前に進み出る。

「各学科のアイドルは揃っていることだし、ここはライブバトルで決めたらどうかな?」

 ライブバトル。それはこの学校独自のルールで、学科間のトラブルが起きたときなどにアイドルのライブによって決着をつけるというもの。審査はバトルに参加しないアイドルによって行われる。

「私達はみんながそれで納得できるならいいと思うよ。」

 そう言ってすずこちゃんが言い争っているみんなを見回す。

「seek red sweetのパフォーマンスは最高なんだからもちろん賛成だよ!」

「うちのsoropachiはすごいんだから!私達も賛成だわ!」

「よーし、決まりだね!玻璃ちゃん、大丈夫そうかな?」

 そう言ってらむねちゃんが玻璃ちゃんの方を見る。

「はい。さっき文化祭実行委員に確認したら、重複予約は委員のミスみたいです。ライブバトル用に明日のガーデンステージを12時から使えるようにしてくれるって言っていました。」

「りょーかい!じゃあ、2グループともいいライブを楽しみにしてるね!」

 らむねちゃんがそう言ってウインクをする。

「最高のパフォーマンスをして絶対小鳥遊に勝つんだから!」

 愛実ちゃんがそう言ってブンブンと拳を振った。

「戦うのはあたし達とじゃなくて、soropachiなんだけどな。」

 呆れたように真央ちゃんが言う。

「べ、別に商業科のみんなのために頑張るんじゃないんだからね!」

「そこは素直に頑張るでいいんじゃないかな!?」

 フンとそっぽを向く莉子ちゃんをすずこちゃんがなだめた。

「ライブの準備もあることだし、そろそろ行きましょうか。明日はいいステージにしましょうね。」

「もちろん!最高のライブにしましょう!」

 そう言って玖藍ちゃんとすずこちゃんは手をとった。そして別々の方向に向かって歩き出す。

 ばらばらと解散していく中でらむねちゃんが声をかけた。

「愛実ちゃん!名字じゃなくって名前で呼んでほしいな?」

「む、無理っ!」

 赤面する愛実ちゃんは走ってその場を去った。玖藍ちゃんは軽くお辞儀をして愛実ちゃんの後を追う。

 残ったのはperidotの3人となった。

「うーん、残念だなぁ。でも、もっと仲良くなりたいから頑張ろ!」

「らむね、今日はやけにライブバトルに乗り気だったな。」

 真央ちゃんが声をかける。

「だって、seek red sweetもsoropachiも大好きなんだもん!もちろん他の学科のアイドルだって大好きだけどね。バトルの時っていつものライブと違う雰囲気っていうか、観てるこっちもハラハラドキドキしちゃうのが楽しいの。」

「分かります。緊張感のある空気がアイドルのいつもと違う一面を見せてくれますよね。」

「そうは言っても明日は審査する側なんだからな。ライブを楽しむだけじゃダメなんだぞ。」

「分かってるよぅ。明日は審査員としてちゃんとジャッジするんだから!…ふふ、ライブ楽しみ。」

「…心配だ。」


「ということで明日はライブバトルになったわけだけど、2人はやりたい曲ある?」

 廊下を歩きながら、すずこちゃんは莉子ちゃんと楓ちゃんに声をかけた。

「この前の新曲はどう?seek red sweetの雰囲気と対照的で引き立つと思うんだけど。」

 莉子ちゃんが言った。

「あれかぁ。確かに私達らしくていい曲だったよね。」

「まあ、楓の作る曲は全部いいからね。」

「莉子ちゃん…!」

 その言葉に楓ちゃんが目を輝かせた。

「あたしは事実を言っただけだわ。そんなに喜ばないでよ!」

「だって嬉しいんだもん!ありがとう、莉子ちゃん!」

 楓ちゃんは莉子ちゃんに抱きついた。

「ちょ、ちょっと!急に抱きついてこないで!」

 そう言いつつ、莉子ちゃんの顔は嬉しそうだった。

「やっぱり、素直じゃないなぁ。」

 すずこちゃんは困ったように笑った。


「愛実、急に走り出さないでよ。」

 追いついた玖藍ちゃんが言った。

「だ、だって…」

 玖藍ちゃんの方を振り向いた愛実ちゃんは泣き出しそうな顔をしていた。

「小学生の頃からずっと大好きだった小鳥遊らむねちゃんが私のすぐ近くにいるだけでも奇跡なのに、名前で呼ぶなんて…そんなのもうキャパオーバーだよぅ!目の前にいると何だかキツイ話し方になっちゃうし!だって可愛すぎるんだもん!むりぃ…」

「はいはい。それは困ったね。」

「玖藍ちょっとばかにしてる!」

「馬鹿になんてしてないって。ほら、大好きならむねちゃんが観てくれるステージなんだから、明日は頑張らないとね。」

「うん!最高に可愛い小鳥遊らむねちゃんに認めてもらえるように頑張る!」

「愛実だってらむねちゃんに負けないくらい可愛いわよ。」

「絶対ばかにしてる!」

 抗議する愛実ちゃんの頭を玖藍ちゃんがそっと撫でた。


 場面は切り替わり、『詩華祭』と書かれたアーチが映し出された。いよいよ文化祭当日。アーチから校舎へと続く道沿いには様々な屋台が並び、校舎内には教室を利用した模擬店が賑わっている。

 そして次に映し出されたのは、賑やかな廊下をパンフレットとにらめっこしながら歩く縫ちゃんの姿だった。

「2人の教室は…ここだ!」

 そう言ってある教室に入った。

「お帰りなさいませ、お嬢様…」

 出迎えたのはメイド服姿の涼ちゃんだった。

「涼ちゃん達のところはメイド喫茶だったんだね。似合ってる!」

「ありがと…注文はフードメニューにしてね。ドリンクはホールがつくらないとだから。」

「涼ちゃん!」

 そう言ってカーテンの仕切りから飛び出してきたのはコック服姿の聖那ちゃんだった。

「もう、面倒くさがらないの!縫ちゃん来てくれたんだね。ここ座って。」

 聖那ちゃんは空いているテーブルに縫ちゃんを案内した。

「ドリンクでもフードでもいいからね。私達が愛情込めて作っちゃうんだから。」

「私は別に…」

「涼ちゃん!」

「うう…ドリンクも頑張ります…」

「はーい。ところで2人はいつ休憩なの?一緒に文化祭回ろうよ!」

 その言葉に聖那ちゃんと涼ちゃんは顔を見合わせた。

「ごめん、縫ちゃん。今日は人手が足りてなくて…」

「そう。私が働かないといけないくらい忙しい。それに、聖那は料理長だから抜けられない。」

「そっかぁ…」

 縫ちゃんはしょんぼりと肩を落とした。

「聖那料理長!オムライスって…」

 その時、カーテンの向こうから声が掛かった。

「はーい!すぐいくね!…ごめん、もう行かなきゃ。私達の分も楽しんでね!」

「私もオーダー取りに行かないと…また後で。」

 そう言って2人は行ってしまった。

「一緒に遊びたかったなぁ…」

 縫ちゃんはテーブルに突っ伏した。

「ねぇねぇ!ここ、一緒に座っていいかな?」

 その声に顔をあげると、そこにいたのはBlütenblattの2人だった。

「急にすいません。もしお邪魔じゃなければなんですが…」

 雅ちゃんが声をかける。

「もちろんだよ!さあさあ座って!」

 縫ちゃんの言葉に2人はテーブルに着く。

「今日はお一人なんですか?」

「うん…私、クラスの模擬店の衣装チーフで、準備頑張ったから当日の仕事は任せてってクラスの子に言われたの。だから聖那ちゃんと涼ちゃん誘って一緒に文化祭回ろうと思ったんだけど、お仕事忙しいって断られちゃった。」

「じゃあ、私達と一緒に遊ぼう!」

 イーリスちゃんが笑顔で言った。

「いいの?」

「Natürlichもちろん!私ね、食べたいものがたくさんあるの。たこ焼き、フランクフルト、おしるこ、それに…」

「「クレープ!」」

 2人の声がシンクロし、顔を見合わせて笑った。

「そう。だから2人よりも3人の方がたくさん食べられるでしょ。」

「もう、イーリスったら食べることばっかりなんですね。」

 雅ちゃんが楽しそうに言った。

「だって日本の食べ物は美味しいから。このカフェもいい匂いがするから入ったの。」

「ここの料理長は聖那ちゃんだからね!それはもう宇宙一美味しい料理が食べられるよ。それに、涼ちゃんは器用だから、このラテアートなんてすごいのを作ってくれるんじゃないかな。」

 そう言ってドリンクのメニューを指さす。

「Oha!それは楽しみ!」


 そしてまた場面は切り替わり、再び屋台が並ぶ校舎前が映し出された。多くの人が行き交う中、4人の生徒にフォーカスされる。

「先輩方、人が多いんですから離れないようにしてくださいね。くれぐれも単独行動はしないように。」

「分かってるよ。勝手にどこかへ行ったりしないって。」

「そうだぞ。魅亜は高貴な吸血鬼の末裔なのだからそんなことはしないんだ。」

 美月ちゃん、魅亜ちゃんが次々と答える。

「はぁ。それならいいですけど…」

「人多い…怖いのら。」

 そう言ってめぐむちゃんが絵理奈ちゃんの腕にぎゅっと抱きついた。その頭にはトレードマークである自作の角のカチューシャをつけている。今回は鹿モチーフのようだ。

「大丈夫ですよ。私がいますから。」

「うん…」

 その時、魅亜ちゃんが勢いよく左の方向を振り向いた。

「これは赤き液体の匂い…魅亜を呼んでいるぞ!」

 そう言って魅亜ちゃんは走って行ってしまった。

「ちょっと!言ったそばから…って美月先輩もいない!」

 絵理奈ちゃんが周りを見回すと、一緒にいたはずの美月ちゃんの姿が見えなくなっている。

「美月ならそこにいるのら。」

 めぐむちゃんが振り向いて指さす先には女子生徒に囲まれる美月ちゃんの姿があった。

「今日もカッコいい!」

「さすが私達の王子!」

「あー…僕、戻らないとなんだけどな…」

 美月ちゃんは困ったように頭を掻いた。

「ねえ王子!あっちに美味しいクレープ屋があるの!一緒に行きましょう!」

「ちょっと!私だって王子と行きたいところがあるのに!」

「あたしだって!」

「ケンカしないで…行きたいところ、全部行こう。」

「「「王子…!」」」

 美月ちゃんと女子生徒の集団は歩いて行ってしまった。

「美月先輩まで…!」

 絵理奈ちゃんはため息をついた。

「めぐむ先輩、一緒にあの二人を取っ捕まえに行きましょう。」

 そう言って、腕を掴んでいるめぐむ先輩の方を向くと、頭に付いた角が隣を通る人の腕に当たった。

『ポキン』

 軽い音を立てて、角は折れた。

「あ…あ…ああ!」

「ちょっと、めぐむ先輩!落ち着いて!」

「だから人の多いところは嫌なのら!」

 そう言って、走り去ってしまった。

「もう…先輩たちが一緒に遊ぼうって言ったのに!この自由人達め!」

 絵理奈ちゃんは空に向かって叫んだ。

 そんな絵理奈ちゃんに近づく人たちがいた。

「どうしたの?」

 絵理奈ちゃんに声をかけたのはΩの2人だった。

「大きな声出して目立ってるから声かけちゃったよ。ね、羽瑠。」

「うん。そんな風に取り乱して、一体どうしたんだい?」

「それが…聞いてくださいよ!文化祭はクローバーパレットの4人で一緒に遊ぼうって約束してたのに、先輩たちが勝手にどっかへ行っちゃったんです!アーチの前で集合してまだ10mも歩いてないんですよ!それなのに先輩3人が行方不明って…こんなに団体行動ができない高校3年生がいますか!?」

「分かったから一旦落ち着こうね。」

「どーどー。」

 Ωの2人は絵理奈ちゃんの背中をさすった。

「でも、大体状況は分かった。つまり逃走癖のある先輩3人を絵理奈君のところに留めておければいいんだろう?首輪をつけておくんじゃ面白くないし、3人が進んで絵理奈君の元から離れないような装置を作ってやろう。」

「首輪って…でも、そんなことが出来るんですか?」

「当たり前さ。だって私達は、」

「「天才発明家だから(さ)!」」

 そう言って2人は決めポーズを決めた。

「じゃあ、3時間後に第4技術室へ来てね。あそこは文化祭の展示に使ってないから。それまでに逃げた3人を捕まえておいてね。」

「早く行こう、瑠佳!」

「うん、羽瑠!」

「ちょ、ちょっと!」

 2人は絵理奈ちゃんの制止も聞かずに走っていった。

「あの2人もうちの先輩たちに負けず劣らずの変人だな…」

 絵理奈ちゃんは遠ざかる2人の背中を見つめ、そう呟いた。

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