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推しとなり  作者: 亜瑠真白


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30/32

歩んできたシナリオは変えられないけど(1)

『来週の金曜、一緒に祝賀会でもどうですか?』

 亮介君からそう連絡が来たのは、桐生達がめでたく付き合ったことを知った翌日だった。

 寝る前にいつもの日課で恋愛小説を読んでいると、近くに置いたスマホが鳴った。ドリームランドで初めて会ったのが大体二週間前。その時に連絡先を交換したけど、実際にメッセージがきたのは初めてだった。

 祝賀会って…2人が付き合ったのを世話役同士でお祝いしようってことなんだろうけど、その言葉のチョイスにちょっと笑える。それにしても、もう二人で話す機会なんてないと思ってた。友達じゃないし、知り合い…といえばそうなんだろうけど、もう少し遠い関係。前に会った時のことが思い出される。二人でジェットコースターに乗って、その後…いや、あれはちょっと驚いただけ。大体、あんな子供を褒めるみたいな言い方するなんて年上に対する礼儀がなってないわ。私は大人なんだから。

『いいわよ』

 それだけ返してふぅっと息をつく。小説を手に取ろうとすると、再びスマホが鳴った。心臓が跳ねる。

『それじゃあ、19時に〇〇駅の南口集合でお願いします』

 簡潔な内容。メッセージで長々とやり取りするのは好きじゃないから話が早くて助かる。19時なら定時で上がればちょうどよさそうね。

『了解』

 返信してスマホを置く。小説を開くと、たまたまある台詞が目に入った。

『本当は俺のこと、もう好きになってるんじゃない?』

 そんなわけないじゃない。勝手なこと言わないでよ。

「はぁ…」

 なんだか小説の内容に集中できなくて、本を閉じた。

 

 そして約束の日。仕事を定時で終わらせて集合場所の駅に向かう。改札を出ると、壁際に亮介君の姿があった。私の視線に気づいたのか、彼と目が合う。

「春奈さん。」

 久しぶりに会った亮介君は、前の時よりも綺麗目な恰好をしていた。仕事帰りでスーツの私に合わせてくれたのかな。

「お待たせ。」

「いえ。お仕事お疲れ様です。」

「ありがとう。」

「それじゃあ、行きましょうか。」

 駅前の繁華街は明るく、金曜夜の賑やかさを感じさせた。

「私、このあたりはあんまり来たことがないんだけど、お店知ってるの?」

「大学から便がいいのでサークルの打ち上げとか、この辺でやったりするんです。今日のお店は俺の一押しです」

「じゃあ期待しておくわ。」

 なんだろう。イタリアンとか中華とか?和食もアリか。

「任せてください。」

 他愛もない話をしながら歩いていると、亮介君が立ち止まった。

「ここです」

 見ると、それは誰もがよく知る某有名居酒屋チェーン店の前だった。呆気に取られていると、亮介君が店のドアを開ける。

「行かないんですか?」

「え…あ、行く…」

 私達は障子で仕切られた個室に案内された。テーブルには注文用のタッチパネル。

「一押しの店って言ってなかったっけ…?」

「はい!ここの唐揚げがほんと好きなんですよね。」

「そう…」

 まあ、大学一年生だっけ?私も昔はこういう安くて気兼ねなく使える店によくお世話になったなぁ。歳取ってくると来る機会も減ったし、たまにはいいか。

「春奈さん、まず何飲みます?俺は生ビール…」

「ちょっと待って。」

 亮介君は不思議そうな顔をして私を見てくる。

「なんですか?」

「流石に未成年飲酒は見過ごせないわ。」

「ああ、なるほど。それなら大丈夫です。俺、一浪なので。」

 当たり前のことのように言う。プライベートなことはあんまり深入りしないほうがいいか。

「そっか。じゃあ心置きなくアルコールで乾杯しましょ。」

「はい。」

 一杯目の生ビールが届くと、私達はグラスを手に持った。亮介君が口を開く。

「それでは、斗真・菜々子さん、お付き合いおめでとうと、俺達もお疲れ様ということで、乾杯!」

「乾杯!」

 グイっとビールを流し込むと、体にアルコールが染みわたった。

「はぁ、美味しい!こうやって清々しい気持ちでお酒が飲めるのも菜々子達のおかげね」

 何か特別なことをしたわけじゃないけど、一仕事やり終えたような達成感があった。

「付き合うまでもう少しかかるかと思ってましたけど、意外と早かったですね。」

「前のドリームランドに行ったときに意識が変わったみたい。」

「それじゃあ、春奈さんの2人っきり作戦は大成功だったってことですね。」

「そうなるわね。もっと褒めてもいいのよ?」

「ふはっ!春奈さん、おもしろ!もう一回乾杯しましょ!」

「仕方ないわね。」

 私達はグラスを合わせた。


 亮介君は話がうまくて、気持ちよくお酒が進んだ。

「亮介君は将来やりたいことあるの?」

「獣医になりたいんです。うちの大学の獣医学科はそこそこ有名で。どうしても入りたくて一浪しました。」

「へぇ。ちゃんと将来のビジョンがあるのね。やるじゃん。」

「へへ、ありがとうございます。春奈さんはどうして今の仕事に就いたんですか?」

「やっぱりお菓子が好きだったからかな。小さい頃から、落ち込んだ時とか疲れた時にお菓子を食べて元気貰ってきたから、今度は自分がたくさんの人に元気を届けるんだーって思ったの。実際働いてみると、想像とは違う部分も多かったんだけどさ、次はどんな企画で売り上げ取ってやろうとか、乙女ゲーの選択肢みたいで面白いんだよね。」

「乙女ゲームですか?」

「そう。亮介君知ってるんだ。」

「何となくは。最近CMとかもやってますよね。確か、魔法学校…」

「魔法学校のプリンスたち!そう!それが好きなの!ちょっと私の推し見てくれない?」

「え、見ます見ます!」

 私はスマホの画像に保存してある周防燿《推し》を見せた。

「カッコいいでしょぉ。」

「確かにカッコいいです。」

「普段は俺様系なんだけど、たまにみせる弱さもいいのよ。」

「なるほど。勉強になります。」

 その時、ふっと冷静になった。

「亮介君ってそういうの大丈夫な人?」

「そういうのっていうのは?」

「乙女ゲームの話とか、男の人は嫌悪感あるかなって。」

 私は昔のことを思い出していた。大学一年生の頃、学部の新歓で二年の男の先輩と仲良くなった。この教授の講義は取った方がいいとか、あそこの学食は穴場でオススメとか、いろんなことを教えてくれた。そして何度かご飯に連れて行ってもらう中で、この人を好きになるかもしれないという期待感もあった。

 でも別れは突然だった。いつものように2人でご飯を食べた後、話題は最近ハマっているもののことになった。

『私、今このゲームにハマってるんです!』

 私がスマホ画面を見せると、先輩は怪訝な表情を見せた。

『それってアレだろ?なんか男のアイドルを育成するみたいな。同期の女子がやってたわ。そういうのやってるなんて、春奈らしくないな。」

 …この人は何を言ってるんだろう。一気に気持ちが冷めていくのを感じた。

『時間は有限なんだからさぁ、もっと有意義な過ごし方しろよ。せっかく春奈は優秀なんだから。』

『確かに先輩の言う通りです。もっと有意義な時間の過ごし方をするべきでした。』

『そうだろ!春奈は話が分かるヤツで助かるよ。』

 私は財布から乱暴にお札を抜き取り、机に叩きつけた。

『人の好きなものを平気で侮辱するような人間と仲良くするなんて時間の無駄ですね。いままでありがとうございました。これは今日の食事代と今までの勉強代です。それじゃあ。』

 私は席を立った。

『お、おい!春奈!』

 そんな声が聞こえたけど、私はまっすぐに店の出口へ向かっていった。心は好きなものを侮辱された怒りと信頼を裏切られた悲しさでぐちゃぐちゃだった。

 そのあとは先輩が言っていた「同期の女子」を探し出し、オタク仲間として仲良くしてもらった。だから別に傷つけられただけの思い出なんかじゃない。自分の中ではプラマイゼロというよりもどちらかと言えばプラスにできたと思っていた。

 それなのにわざわざ聞いてしまったのは、まだ自分の中で消化しきれていない部分があったみたい。でもきっとそれだけじゃない。亮介君に嫌われるのが怖かったんだ。いい歳して、そんなこと…

「春奈さん、昔、男になんか言われたんですね。」

 その声で現実に引き戻される。亮介君は眉間に皺を寄せ、怒ったような顔をしていた。

「まあ、ちょっとね。でも別に大したことないわよ。そういう人達って大抵なーんにも考えてないんだから。」

「そいつらが故意だろうが無神経バカだろうが、春奈さんを傷つけたことに変わりないです!」

「もう昔のことだし、傷ついたってほどじゃ…」

「さっきまで自分がどんな顔してたか分かりますか!?すっごく悲しそうな顔してたんですよ!思い出してまた何度も傷つけられるような出来事、大したことないわけないって俺でも分かります!」

「大丈夫だから、ちょっと落ち着いて…」

 その時、個室の障子が開いた。

「お客様、そろそろ席時間となりますので、お帰りの準備をお願いします。」

 店員が来たことでその場の緊張がほどけた。会計を済ませて店を出るまで、亮介君は怒った顔のままだった。

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