モブなんかじゃない(中編)
「と、斗真くん!なんでここに!?」
「僕もたまたま遊びにきてたんです。こんなに広いパークの中で会うなんてすごいですね!」
そう言って斗真くんは嬉しそうに笑った。
いやいや、そりゃね、私だって約束してなかった日に偶然斗真くんに会えて嬉しいですよ。隣にいるのは話に聞いてた亮介君かな?2人で休みの日に遊ぶくらい仲良くなって微笑ましい…んだけど!こんな!オタク全力全開な日に会わなくてもいいじゃないか!!
「菜々子さん?」
「いや…ごめん、何でもない。本当、会うなんてすごいね…」
その時、及川先輩が前に進み出た。
「あれー?久しぶりだね!」
そう言って、斗真くんのお友達の手を取った。
「知り合いなんですか?」
「そうそう!いやー、こんなところで会えるなんてね。そうだ!積もる話もあるし、ここは一旦別行動って事で!じゃあ1時間後にまたここで!」
そう言って、お友達と走って行ってしまった。
残された私たちは顔を見合わせた。
「えーっと…賑やかな方ですね。」
斗真くんが遠慮がちに言った。
「う、うん。職場の先輩なんだけど、思い切りのいい人で…あ、すごく優秀なんだよ!」
「そう、なんですね…」
「…じゃあ私達も1時間楽しもっか?」
「はい。」
私達は先輩達と反対方向に歩き出した。
桐生達の姿が見えなくなったところで、私は少年の手を離した。久しぶりに走ったから、呼吸が苦しい。
「はぁ、はぁ…ごめんね、急に変なことして。さっきは黙っていてくれてありがとう。どうしても2人きりにしてあげたくてさ。話を聞いてると、なんかもどかしくって。」
「分かります。俺…あ、僕は斗真が悩んでいるみたいだったから気分転換になるかと思って今日誘ったんですけど、せっかくの機会なので2人の関係が進展したらいいなって思います。」
「あー、いいよそんなにかしこまらなくて。でもよかった。余計なことしたかなってちょっと後悔し始めてたから。」
「そんなことないです。あとは斗真が上手くエスコートできれば…」
「うちの桐生が自分の気持ちに気づければ…」
なんか私達って似たもの同士みたい。
「私は及川春奈。」
「佐藤亮介です。」
「亮介君か。じゃあ、私達は時間まで別行動で…って言いたいところなんだけど、念のため一緒に回ってもいいかな。桐生に余計な遠慮させたくないし。」
「もちろんです。春奈さんはどこか行きたいところありますか?」
「うーん、実はどんなアトラクションがあるかあんまり知らないんだよね。だから亮介君の行きたいところに行こう。」
まほプリの下調べばっかりで他のエリアは全然見てこなかった。それに若者がどういうものに興味があるのかを知るのは仕事にも生かせそうだ。
「分かりました。じゃあ、あっちのエリアに行きましょう。」
「了解。」
亮介君はパーク内をどんどん進んでいく。さすが若者。目的地までの地図が頭に入ってるんだな。
「菜々子さんってどんな人か聞いてもいいですか?」
亮介君はそう尋ねた。確かに、友達の好きな人って気になるか。
「そうだな…優秀であるのは確かだよ。仕事の覚えは早いし、努力家でコミュニケーション能力も高い。でも、自分自身には無頓着というか、鈍いというか…斗真君は苦労しそうだね。逆に斗真君がどんな子か教えてくれない?」
「斗真は素直で優しい奴です。ちょっと控えめなところがあるから、世話焼きたくなるって言うか…」
「分かる!桐生はあんまり人に弱みを見せないタイプだから気になってつい構いたくなっちゃうのよね。」
さっきも思ったけど、私達ってやっぱり似てるみたい。集団の中での立ち位置というか。
私は小さい頃から周りに「しっかりした子だ」と言われ続けてきた。手がかからなくて楽、だから周りの大人や先輩は手のかかる他の子ばかりを気にかけていた。そのことを寂しく感じるときもあった。今この場所の主人公は私じゃない、なんて思った。
大人になった今、そんな風に寂しく感じることはない。でもこうやって桐生のことを構いたくなってしまうのは、やっぱり主人公の引力があるんだろうか。
「春奈さん、どうかしました?」
「ううん、何でもない。ちょっと昔のことを思い出しただけ。」
それから私達はアトラクションの列に並びながら、桐生や斗真君とのエピソードを話した。亮介君って話は上手いし、しっかりしてるし、顔も一般的に見てイケメンの部類だし、大学の女の子達から人気ありそうだな。私からしたら『年上俺様系』っていう(推しの)タイプとはかけ離れてるんだけど。って、そんなの向こうもお断りか。
楽しく話していると、いよいよアトラクションの入り口前までついた。
「そう言えば聞いてなかったけど、ここってなんのアトラクションなの?」
「ジェットコースターです。」
ジェット、コースター…
「大丈夫ですか!?春奈さん、顔白くなってません?」
「大丈夫大丈夫。顔は元から美白なのよ。」
もう大人なんだから乗れるに決まってる。ここまで来てやっぱり怖いのでやめますなんてカッコ悪いし。
乗る順番が近づくにつれて鼓動が早くなる。変な汗も出てきた。大事なプレゼンでもこんなに緊張しないのにな…
大丈夫…大丈夫…別に取って食われるわけじゃない。ほんの1、2分耐えればいいだけのことだ。
「次は俺たちの番ですね。」
「そうね…」
座席に座って安全バーを下げる。もうここから逃げられないんだと覚悟を決めた。
アトラクションの出口を抜けると、気が抜けたのか足が震えてその場にしゃがみ込んでしまった。
「心臓止まるかと思った…」
…ああ、結局カッコ悪いところを晒してしまった。自分が不甲斐ない。
「苦手なのに付き合ってくれたんですね。」
亮介君は私の隣にしゃがんで、目線が近くなった。
「最後までよく頑張りました。」
そう言ってニッと笑った。その笑顔から目が離せない。
奇しくもさっきのアトラクションで聞いた燿と同じシチュエーション。全然タイプじゃないのに。違うのに。
こんなつもりじゃなかったの。私達は桐生達を2人にしてあげるためのおまけで…それなのに。
今だけはどうしても私がこの物語のヒロインに思えてならない。
斗真君と歩きながらカチューシャに手をかける。装備を全部解除するのは手間がかかるけど、せめてこの大物だけはさりげなく外しておきたい…!
「菜々子さん、それは何のキャラクターですか?」
と、斗真君…!
「えーっとね!魔法学校のプリンスたちっていうゲームの久世奏多君だよ!さっきの先輩が好きなゲームで、薦めてもらったんだ。」
「…男だったんですね。」
「あ、うん。」
カチューシャを外し、改めてぬいぐるみを見る。かなりデフォルメされてるから、女の子キャラと勘違いしてたのか。奏多君、髪はちょっと長めだし、中性的な感じだもんなぁ。
及川先輩には『別に顔で選んでません』なんて感じを出してしまったけど、正直見た目はモロ好みだ。キャラクタービジュアルを見て一番に惹かれたけど、アニメでは可愛い見た目に反して主人公である私にだけ冷たい態度を取っていて、そのギャップにやられた。でも過去のトラウマを主人公と一緒に乗り越えることで心が通じ合い、一転して主人公にベタ惚れ。人気属性の一つである甘々な弟ポジションに君臨する。
「最初は冷たい態度なんだけど、ある出来事をきっかけに笑顔を見せてくれるようになるんだよねぇ。その笑顔が、もうほんっとうに良くて!何それ、可愛すぎるって感じで!」
「僕だって…」
「え?」
「僕だって、菜々子さんからたくさん『可愛い』もらってますっ!」
そう言って斗真君は怒ったように私を見つめた。
え…今、何が起きてる?これは怒っているっていうより拗ねてる…?
うわうわ、なにそれ可愛すぎるでしょ!?それに今の表情、去年のバレンタインの特別キャラでらむちゃんのSSカード『拗ねた顔も可愛いよ』にそっくりー!
眼福すぎる…
「菜々子さん?」
いつもより声がとがっている斗真君。そんなところも、
「そうだね、斗真君の方がずっと可愛いよ。」
斗真君は顔を赤らめた。
「そっ…そんなつもりで言った訳じゃ…っ!」
拗ねた顔に続いて照れた顔も拝めるとは…
「最高…」
「もうっ!早く行きましょう!」
そう言って斗真君は足早に歩いて行った。
「待ってー!」
やっぱり、斗真君は可愛い。




