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神々のイデア  作者: 花都
ルイ編
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番外編 過日譚-マイ-

今回は番外編で、外伝的な位置づけのお話です。

 あたしは、とある貴族領にある、何の変哲も無い村の三女に生まれた。

 お姉ちゃんが二人いて、妹と、弟が三人。本当は生まれてすぐに亡くなった子も居たらしいんだけど、あたしが生まれる前だったり、小さすぎたりしてよく知らないんだよね。

 

 あたしが生まれた村は、貧しかった。気候は結構安定していたけれど、さほど豊かな土地ではなかったし、そのわりに税は重かった。

 愚王は民が無限だと思い、賢王は有限と知っている、なんて言葉があるけれど、今考えればうちの領主は前者だったんじゃないかな。

 

 決まった農地を耕す農民にとっては旅なんて違う世界のお話で、他の場所のことなんて知らない。だから現状が当たり前だと思っていたんだ。なんだかよく分からないけれど収穫を献上して、たくさん穫れたはずなのに、自分たちの食べる分は少しだけ。

 それでもあたしたちは結構幸せに暮らせていて、お父さんやお母さん、お姉ちゃんたちの農作業を手伝った後は、お隣のクレアや下のきょうだいと遊んだりして。満腹にはならなかったけれど、ひもじくなったら食べられるくらいの食料はあった。

 だから、よく知らない人に収穫のほとんどを捧げることに、特に疑問はなかった。これを盲信って言うのかもね。


 その小さくて両手いっぱいな幸せが壊れたのは、あたしが嫁ぎ先を考え始めるくらいの齢になった時。

 五月くらいから真夏みたいに太陽が照りつけていて、六月になっても変わらなくて。空梅雨って呼ばれる、雨が少ない年だった。

 乾燥に強い芋なんかは生き残ったけど、米や野菜なんかはほとんど全滅して、なのに税はいつも通り納めなくちゃならない。食べるものが足りなくなって、みんな喘いでるところに疫病が流行った。

 後になって、栄養不良で体が弱ったからあんなに流行ったんだってビオラが教えてくれたけれど、当時はそんな事知らない。日頃の行いが悪くて罰が当たったって噂されて、疲れ切ったあたしたちは洗脳された。

 

 お姉ちゃんたちは遠くの村へお嫁に行って、お父さんもお母さんも死んでしまって。灰色の霧がかかった頭に浮かんだのは、下のきょうだいのことよりもその噂だった。

 

 あたしたちが、何をしたの?って。


 

 お姉ちゃんたちがわざわざ遠方へ嫁いだのは、病を避けるためだって言われた。その時は信じたけれど、多分食料とか、薬なんかと引き換えに売られたんだと思う。いくら何でも音信不通なんておかしいから。

 

 すこし後になってからだけど、あたしがリネラに入ったのは、貴族を調べて二人を探したかったからでもある。任務に並行して探し続けてるけど、目撃情報すら全然入って来なくて。

 やっぱり嫁入りじゃなくて、売り飛ばされたんだろうな。土地が豊かなリネラ領では少ないけれど、土地によってはそういうのも多いし、売られる場所も決まってはいない。売る方も行き当たりばったりで、買う方も掘り出し物のように下男や下女を入れる。ゼセロが禁止してるって知ったけど、田舎の方や、貧しい人が多い場所では今も根強い。

 きっとそう上手くは行ってないけど、お腹いっぱい食べて、幸せに暮らしてて欲しいなって毎日祈ってる。どこかで働かされてるとしても、良い主人の下でいて欲しい。早く見つかるように、とも。

 あたしが生きてる内に、美味しいものをたらふく食べさせてあげたいから。


 

 話が逸れちゃった。

 あたしが十と三歳くらいの時に飢饉が来て、食べられなくなって病まで流行ったのに、領主は税を下げなかった。絶望漂う村を闊歩して、抵抗する力もない人間を踏みつけて食料を奪い取る役人たちが、鬼にも悪魔にも見えたんだ。

 あたしたちも孤児になってしまって、心配したクレアたちが面倒を見てくれた。それにはすっごく感謝してるけど、クレアのうちにも余裕は無くて。

 弟たちも妹も、冬は越せなかった。


 そこからのことは、あんまり詳しく覚えてない。

 後でアリスに聞いたら、うちまで取り立てに来た役人から、新年の宴に使う食物を出せって怒鳴られてたらしい。餓死者まで出してるあたしたちに、農民のくせに米ひとつ作れないのか、貴族たちを飢えさせる気かって怒鳴ったんだって。

 それであたしが激怒して、飛び掛かって行って、殺されそうになったところを助けてもらったとか。

 アリスは生の神の末裔だから、あたしの中のモノが寄生した時から気づいてた。エミリアが出現するのを察知して、村に食料を配ってくれたりしながらずっと張り付いてたらしい。

 

 当時の記憶は全然ないのに、その話をしてくれた時の事は、はっきり覚えてる。

 『普通に飛び掛かっていったから、正直ちょっとほっとしたんだよね。もしエミリアが出てたらさ、本気で命懸けなきゃなんないじゃん。頭領に黙って出てたから行方不明はちょっとなーって』

 時効とは言え、あっけらかんとした話し方にはもちろん驚いた。死は隣にいたけれど、荒事に縁はなかったから、そんなアリスが信じられなくて。畏怖するような、尊敬するような、変な感じがしたんだっけ。

 

 懐かしいな。

 こんな事考えてたら、また会いたくなる。アリスにも、家族の皆にも、話したい事は沢山あったのにな。


 

 桃色の鞭とブーメランが、あたしを記憶の海に沈めていく。

 

 あたしの使うちょっと珍しい武器は、アリスも初めてだったらしくて、半分手探りで教えて貰った。あたしはどうやら、剣も、弓も、長物も全然向いてなかったみたいで。

 もしも願いが叶うなら、見放さないでいてくれた師匠に、ここまで戦えるようになったよって見せたいと思う。戦力外で、尻餅ついてばっかりだったのが嘘みたいでしょ、って。もう、戦地ではほとんど構成員扱いだよって。

 ありがとうって言わないままで、別れてしまったから。


 深く息を吸い込んで、顔を上げる。

 感傷の種はいくらでもあるから、あたしはあえて全部を無視する。

 

 繋いでもらったものと、残してもらったものを、捨てる訳には行かないから。

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