第三十一章 脊髄 前編
――終わりだな。格好からして件の私設部隊。正規軍への繋ぎの積りだったのであろう。
留鸚は浅く息を吐く。
軍が個人の集団である以上、一日や二日で出陣出来るはずもない。戦とは、先手を取れぬ者から滅びていくものだ。
今の屋敷全体で見れば、さして大きな騒ぎでもない。ほとんどの者が気付いていない侵入者と、大半の者が知らない私設軍人とが、屋敷の隅で争っただけのこと。
だが「彼」には、お見通しだったようだ。
「若い芽を摘む年寄りを、老害と言うんだ」
真っ二つに斬られた槍。掠った鼻から散じる血。
鍛え上げた武人たる己さえ――いや、だからこそ直感してしまう。
――勝てぬ。
「うちの若いのを虐めんでもらえるか?留鸚さんよ」
武人のわりに小柄な体躯。屈託のない笑顔。
長大な鉄槍。
「・・・化け物が」
槍一本で千を屠り、木剣ひとつで熊をも倒し、片手を挙げれば万の兵が跪く。
イデア史上、神話の戦神アゼリューゼに最も近いと言われる男。
生ける軍神、イジュン。
「先程うちの若いのと言ったが、正規軍の貴様には関係のない話だ。お引き取り願おう」
「そうもいかんな。金貰って仕えとる以上、仕事はサボれんわ」
イジュンが軽く伸びをする。開けっ広げに腹を晒して見えるが、動こうものなら首が飛ぶのは目に見えていた。
――寄りにも寄ってこの状態で、戦いたくはなかった。
全開でも勝てぬであろう武人が相手だと言うのに、本調子には程遠い。
「ま、お前さんが退くってんなら、俺に戦う理由はないわけだが」
「命惜しさに逃げる臆病者の、何が武人だ」
「おうおう、良い心がけだ」
自然体に戻ったイジュンが満足げに笑う。留鸚は無言で、予備の槍と取り替えた。
側近がもの言いたげに留鸚を見上げ、無感情に直面して押し黙る。
祈るように一礼すると、間合いの外まで引き下がった。視線は真っ直ぐに、己が将軍を捉えたままだ。
閃光が迸った。




