第三十章 篝 後編
敵が体勢崩した一瞬、飛び込んで脇腹突く。
留鸚は受けるでも躱すでもなく体を入れ替え、石突で狙う。コイツの槍は両刃、上下の穂先で、突きと薙ぎを分けてやがる。
「・・・怠ぃ武器だ」
キョリ詰めて、ノド目がけて三度突く、フリして腹、脛。
思ってたよかクラックラだ。速度出ねぇし時間もねぇ。さっさと決めねぇと、倒す前にコッチが失血死する。
避けながら上段に構えた留鸚が、ゴツい体躯と怪力に任せて振り下ろす。
「はっは、すっげぇ」
避けたってぇのに、旋風ひとつで吹っ飛びそーだわ。
ま、だから隙だらけなんだよな。大振りすぎんだよ。
顔目がけて突き込む、って見せてガラ空きんなった脛に突き刺す。下がる留鸚の足取りはもうフラフラだ。
もらった!
ガスッ
割と全力の俺の突きを、留鸚は槍を突き出して受けた。
案の定、柄に塗ってある黒漆が剥がれて、拘り強そーな槍にザックリ切り込みが入る。
何考えてんだコイツ、判断が雑すぎんだろ。ワザワザ大事な槍を盾にして、折れるとか斬られるとか思わねぇの?
何も気にしてねぇらしい留鸚は相変わらずの鉄面皮。特大の針みたく尖った石突コッチに向けて、脇腹狙った中段突き。
将軍名乗るだけあって、凄ぇ突きだけど当たんねぇ。こちとら分かり切ってんだよ、そんなモン!
柄で逸らして、絡めてへし折る気だった。さっき抉ったトコ、元の太さの半分しかねぇ。ちっと無理させりゃアッサリ折れる。
ハズだった。
は?
留鸚のゴツい体が信じらんねぇ速さで沈む。槍の軌道も当然変わって、とっくに折れてるハズの槍は、
俺の肩をブチ抜いてた。
「ガフッ!」
駄目だ立てねぇ、平衡感覚がねぇ。
ヤバいヤバいヤバい追撃が来る。立てねぇどころか何も見えん。力入らん。俺ドコ向いてる?留鸚の木偶はドコにいる?槍持ってる手の感覚がねぇ。
まだ何もやれてねぇ、こんなトコで死んでらんねぇ。今くたばったらあの子が。
あがいてもがいて這いつくばって、必死で槍振り回す。
・・・・・・三個目は、
ズタボロの体でのたうち回って、口一杯血ィ吐いた。
敵の前で膝つかねぇとか、ご立派なプライドはハナからねぇわ。ダサかろうがみっともなかろうが関係ねぇ、勝ちゃいい。勝てなきゃ何の価値もねぇ。
三個目は、こーゆークソ狸。
どうせ何個も格上のくせ、身ィ削ってまで油断させに来やがった。
良かったな?酒宴とやらの自慢話が増えてよ。マヌケな敵とかサイコーの肴だろ。格が違ぇなら嬲んなよ、ゲスが。
「ゴホッ、ガハ・・・ッ」
「───、────・・・」
将軍サマが何か言ってる。
「勿体───な、優───な若───す、は・・・。小隊───指揮──────」
もったいねぇ?んじゃ初めっから攻めて来んなよ、大人しく消えろ。
俺だって死にたかねぇんだよ。
もう一回だけでいい。あの子に会いてぇよ。
ちゃんと謝れんかった。俺がケガさせたっつーのに手当てもしねぇで来ちまった。
心配してくれんのに言う事何も聞かねぇで、笑顔かわいーのに泣かせてばっか。
ケガしねぇとか無茶しねぇとか、毎度言うくせ守った試しもねぇ。
生きて戻るっつー約束も、あの子の必死の祈りだって、あと十秒もすりゃアッサリ破る。
貧民街出ても何も変わってねぇ、俺はずっと最低だ。
ゴメンな、チアラ。
大人しくは死なねぇから。絶対ぇコイツ道連れにするから。コイツらだけは止めるから。
けど、許してとは言わねぇよ。
残ってる血も意識も全部右腕に集めて、『紅』の突きの何倍も速く、『紅』の突きの何倍も鋭く、槍捻って身体ごとブチ込む。
最期の一撃。
ただの突きじゃねぇ、俺の槍は、柄にバネが入ってる。一瞬で間合い二尺伸ばせる。
『五本槍』屈指の槍の天才、『紅』が考えた奥の手。
バチィンッ
刃を押し込むバネの音。
響くのはそんだけ。
「・・・・・・クソが・・・」
何で当たんねぇんだよクソ野郎。どー考えても不意打ちだろうが!
伸ばし切った俺は倒れ込んで、手のひらを地面に。
脇腹カスったぐれぇじゃ死なねぇ。コイツの図体じゃ出血量が足りてねぇ。
───『届かなかったんなら仕方ないじゃないか。おまえは充分頑張ったよ』
ミモザが温かく笑う。
努力とか。お袋は息子に甘ぇよな。やる事もやれねぇで何が『五本槍』だよ。
───『また捻くれたこと言って、しょうのない子だねえ。おまえを責める権利なんて誰にもないよ。大丈夫さ』
そーゆー問題じゃねぇよ。あの子が酷ぇ目に遭う。今ココで俺がやれんかったら、コイツらが通路に行っちまう。くたばってられねぇんだよ。
───『大丈夫さ。奥方様の軍に誰がいるのか、忘れちゃいないだろう?』
『紅』も『炎』も出払ってる。正規の護衛連中も、会議まで付いてってる。ココはもう雑兵しか───
違う。アイツらじゃねぇ。
「ふっ、ははは・・・ゲホッ───うっ・・・がはっ───」
何で忘れてたんだよ。まだアイツがいるじゃねぇか。
チアラは助かる。武器取らねぇヤツらはケガ一つしねぇ。
じゃあ頼む、見つけないでくれ。この汚ねぇ体ごと消してくれ。
満足そうに笑ったミモザが、光る霧になって消える。
あの子にだけは──────




