第三十章 篝 中編
「───ねえ、聞いてもいい?」
なんでか秘密通路で抱き合ってっと(って語弊エグいな)、腹のあたりでチアラが身じろぎした。
「どしたん?」
「『白刃』さんは、今なにしてるの?」
おし、コレなら全然言える。動かねぇ脳ミソフル回転させねぇで済むわ。
「待ち伏せ。兵舎から中隊来てるっつったろ?様子見っぽいし、後から大将首でも出て来んじゃねぇかと思ってさ。さっさと逃げた方がいいぜ、すぐココ来ちまう」
「ぜったい生きて、帰ってきてね」
「あいよ」
「約束だからね?」
「ん」
バイバイ、チアラ。
逃げ道の方向こうとしたから、手ぇ緩めて別れよーとした。
けどソレが間違いだった。
「───『白刃』さ───っあっっ、きゃ・・・っ」
振り返ったチアラが硬直する。
開ききって焦点も合ってねぇ目に、血みどろの俺が映った。
やっぱマズかったか。
咄嗟に口塞いだら、掴まれたチアラはぼろぼろ泣いてて。膝が崩れて、マトモに立ってられねぇのがすげぇ痛々しい。
今日ガチやらかしてしかねぇじゃん俺、マジで何やってんの?
「あ・・・悪りぃ、その・・・女の子の悲鳴って響くんだよ。いちおーガッチリ防音だけどさ、マズいかなーと・・・。なんでちょっとガマンしてて。マジで色々ゴメンな。体中痛ぇよな」
「・・・・・・はっ・・・はあっ・・・だ・・・じょ、ぶ・・・、へいき」
つきかけた膝立て直して、チアラがコッチに向き直る。
いつもと同じ、まっすぐな目。
改めてこの子すげぇな。さすがに息は荒いけど、とっくに頭はクールんなってる。
ぶっちゃけ今の俺、その辺の妖怪とか都市伝説なんざより断然怖ぇと思うんだけど。
揃った足音。もう五丈も離れてねぇ。
この壁すっげぇ向こうの音拾うから、この世の終わりみてぇに怖ぇだろう。
チアラが心臓強くて助かった。奇襲かけるトコまで来ちまってる。
「さっき言ったカンジでお願い。なる早で逃げて」
「わ、かった。ぜったい生きて、戻ってきて」
息もだいぶ整ってる。顔色も戻って、全部がほぼいつも通り。
「あいよ」
俺なんざいなくても、この子は全然平気だろう。
「またあとで!」
「おう、じゃあな」
ゴメンな、チアラ。コレが最後だからさ、嘘ぐれぇ吐かせてくれ。
チアラが角を曲がる瞬間、俺は回転扉ブン回して壁を破った。フェイントに引っかかったトロくせぇ雑魚とりま殺って、ついでにちょいと暴れる。
こーゆーのは時間勝負だ。連中が囲い込んで来る前に、マァ二割は減ったかねえ。
血で張り付いた前髪掻き上げる。
総大将らしきヤツと目が合った。
───面白い。
喋んねぇでも分かる。目がほくそ笑んでら。
「相手しろ」
「ふっ、はは。これは傑作。傷だらけでは無いか───」
鋒の先で嗤う留鸚が、わざわざ槍で両前腕を裂く。
止血もナシで血まみれのまま、構えもしねぇで相対。
「クソが。ナメたマネしてくれんじゃねぇか」
俺なんざ数でもねぇってか。
「口の減らぬ小僧であるな。まあよい、折角だ。一騎討ちゆえ手出しは無用」
「御意」
三下が納刀、一礼して一歩引く。留鸚は相変わらず地面スレスレの穂先を上げようともしねぇ。
どこまでもナメた野郎だ。
将軍サマってぇのがコレじゃ、おちおち死んでらんねぇな。余裕こいたツラぶった斬るまで終わってやらねぇ。
まだいける。どんだけでもやってやる。俺より丈夫な白刃は刃毀れひとつねぇ。
中段に構えて睨み付けたら、圧殺して来そーな視線とカチ合った。
どっちも動かねぇ。後の先狙って来てる以上、コッチも雑に動けねぇ。
痺れるような緊張感。
戦場で、嫌いなモンが三個ある。
一個は関係ねぇヤツが横ヤリ入れて来るコト。
二個目はこーゆー膠着状態。
先手必勝っつー言葉があんだろ。達人は頭ン中で仕掛けるとか言うけど、やってもねぇのに分かるワケねぇじゃん。
俺は大人しく中段とか下段とか、構えとけるタイプじゃねぇのよな。
じれってぇから、疲れたフリして数ミリだけ穂先落とす。
案の定、隙と取った留鸚が飛び込んで来た。
マァ裏の裏かいてワザと掛かったっつーコトだろーな。コイツもコイツで、駆け引きとか嫌いそーだし。
ノド元狙った突きを柄で逸らしつつ、ゴツい足首削いでやる。
指の先ぐれぇな肉片が落ちて、赤がバッと散る。踏み込みで崩された留鸚がフラッとたたらを踏んだ。
よし、とりま鈍くはなってんな。
隊長が身内で良かった。アイツ寝てばっかのクセ頭いいから、今もキレーにカウンター決まった。
稽古相手に感謝ってヤツよ。




