第三十章 篝(前編)
けっこー居んじゃん、刺客。マジで将軍気づいてねぇの?そーゆー作戦なの?っつーコトは向こう、俺らの状況知ってんの?
意思疎通出来ねぇ挙げ句、コッチ全身ギットギトなんだけど。んなコトある?向こう今何してんの?
てな感じで進んでたら、パタタッて壁越しに軽い足音が聞こえた。
ぜってぇ武人じゃねぇな。マァ奇襲だし、さすがに逃げ遅れもするわな。っつーコトは侍女?
足音が向かってんのは回転扉の方。俺もソッチ行きつつ、五感総動員で周囲を探る。
屋敷裏門の兵舎方面からざっと二十人、距離二十丈。さすがにすぐ追いつかれやしねぇが、ちょっと危ねぇな。
助けるか?イヤでも平の侍女だったら、『五本槍』の存在バレちゃマズいワケで。
あークソ、答え決まってるくせ何やってんだ。
タラタラしてっと、あの娘が八つ裂きにされちまう。
腹括って開けた扉の先にいたのは、今一番会いたくねぇ女の子だった。
何でこの子外にいるん?状況的に考えて、あん時エリィが通路に逃してんだろ。
イヤアレか、刺客と血まみれで逆に危ねぇから出てきたんか。あ、んじゃ半分俺のせいか。
「チアラ───」
薄く開けた扉から手招きする。
平常心、平常心だ。右手だけならギリ大丈夫なハズ。
「えっ?『白刃』さん⁈」
「おー、そっち危ねぇよ」
右手の先しか見えてねぇハズなのに、チアラは何の疑いもなく走って来る。
この子マジ警戒心ねぇな。ココは君が育ったよーな平和な世界じゃねぇんだよ、危ねぇだろ。
「ひゃ───痛、っ・・・」
内心侘びながら引きずり込んだら、思ってたよりずっと軽いチアラは吹っ飛んで来た。
げ。
咄嗟に抱き止めはした。怪我しねぇようにいちおう。でもコレはコレで鎖帷子が痛ぇわ。
しかも血の匂いしてそう。
「や・・・手荒にしてゴメンな。やっといて何だけど大丈夫?」
イマイチ状況分かってねぇ顔で、チアラがかろうじて頷く。ケガしてねぇかとか色々聞きてぇけど、時間ねぇから全部カット。
「ゴメンな。顔上げねぇで何個か聞いててほしいんだけど」
首動かせねぇよーに、抱きしめてるみてぇな格好のまま押さえる。
さっきから可愛い子連れ込んで何やってんだ俺。奇跡的に生還しても後でエリアナに殺される。
「まず一コ目。疑いもせず寄って来ちゃダメでしょーが。俺が刺客だったらどーすんだ」
デコピンで叱る。
女の子に手ぇ上げたんも誰かに説教かましたんも、俺のくっだらねぇ人生で初だな。んで間違いなく人生最後。
「だって・・・、『白刃』さんの声だったから」
「ちょっと訓練したヤツなら、声マネぐれぇ出来るモンなの。ちゃんと気ぃつけねぇと殺されちまうぜ?」
「ご、ごめんなさい・・・」
「別に怒ってねぇよ。分かってくれたらいーの」
「・・・うん・・・あのね、エリィがどうなったか、知らない?・・・あの・・・チアラをね、逃がしてくれようとして。・・・・・・それで・・・・・・」
途中から涙声になって。俺の上着を掴んでくる手つきが、マジで縋りついてるみてぇな。
「助けて・・・ほし、くて」
華奢な肩が震えてる。
「あーね」
しゃくり上げながらチアラが頷く。見てらんなくて、頭ポンポンする。
なんか既に脳内エリィがブチ切れてっけど。
「だーいじょぶ。足挫いたらしーけど無事、ピンピンしてんぜ」
「ほ・・・んと?」
顔上げかけたチアラを引き戻す。
「おー、なんか知らねぇけどすっげキレられたぜ、助けたっつーのに理不尽過ぎねぇ?」
「───ふふっ」
チアラはまだ震えてる。けど、泣いてんじゃねぇのはすぐ分かる。
「ほんとに、大丈夫なのね」
「んなしょーもねぇウソつかねぇって」
「分かってるわ。ありがとうね」
「はいよ。コレで最後だし、ちゃちゃっと説明すっからさっさと行ってやんな」
プラン通り行くと、この先を刺客が占拠してること。かと言って出ちまうと裏門から来た連中にカチ合うこと。
早口気味に説明して、ちょい違う道を提示しとく。
エリアナの目的地はこーゆー時用の屋敷外シェルターだろうし、侍女はもともと皆バラけてその予定だった。やっぱソコが一番安全だろう。
刺客云々は過去形なんだが、「全部殺したから今血まみれ」とか言えるワケねぇし。
んな穢れたコト、まっさらなこの子は知らねぇでいい。




