第二十九章 毒を食むII(後編)
・・・殺されかけてたエリィを助けて、なぜかキレられること約五分。
あーだのこーだの喚き続ける姉ちゃんを何とか逃がし、すげー疲れたんだけどこっからが仕事。
俺、アイツになんかしたか?マジ永遠のミステリーなんだけど。
めっちゃ気になるけど今さらどーにもなんねぇし、姉ちゃんたちの命が優先。アレか?正規軍の連中、搦手に気付いてねぇのか?それか待機命令?んなコトある?
ダメだコレもどーにもならん。仕事しよ。
槍を左手に控え、壁の向こうから漏れ聞こえてくる声を聞き流しながら歩く。一歩ごとに鳩尾のすぐ横が鈍く痛むが、マジそれどころじゃねぇんで全シカト。どうせすぐ、痛くも痒くもなくなるしな。
今歩いてんのは客間あたりか。屋敷の正面入り口の方まで来たってのもあって、士気の高い奥方様の軍が善戦してる。混ざる必要もねぇし、ここまでのが全部オトリっつー可能性もあるからさっさと進もう。実際入り込んでたヤツいたしな。
壁裏の秘密通路っつーと狭い印象だろうが、奥方様の屋敷のそれはかなり広い。元々『五本槍』のために整備されたヤツだし、槍ぐらい余裕でブン回せる。
けど、ソレがありがてぇってのは敵も同じ。
「・・・ッ」
咄嗟に槍を倒し、切っ先から頭を守る。
「・・・っぶねぇなコレ」
刹那遅けりゃ、脳髄ぶち撒けて退場だったな。
眉間目がけて来る突きが、吸い込まれてるみてぇに正確だ。
「エラく物騒な挨拶だなぁ、おい!」
四、五、六・・・十二か。二段に分かれ、顔隠した刺客どもが中段に構える。槍襖ってのは初めてお目に掛かるし、俺だって別に才能とか能力とか溢れてねぇけど、ビビってるだけのハリネズミ共に異名ごとくれてやる気はねぇな。
『五本槍』の名折れってヤツよ。
肩の力をスッと抜く。片手を腰にもう片方を顔の横に、穂先は脛に下段の構え。
戦い方だの勝ち方だの、ハナっから泥まみれの俺に気取るモンもねぇ。普通だの基本だのって、わざわざ中段で距離取る義務も。
貴族でも何でもねぇ俺の、汚ねぇドブ底で得た強さ。ガキの頃から甘やかされて、図体ばっかデカくなったヤツらには負けねぇ。
槍襖なんざ、一本崩しちまえば終わりだ。強そーに見えて強いが、実はケッコー脆かったりする。ちっと崩れりゃ、マトモに機能しやしねぇ。
でもって、攻撃がおっかねぇってんなら、させなきゃいいってだけの話。先手必勝。
こーゆー時、ワケわかんねぇ暗殺屋が仲間でよかったとか切実に思っちまう。基本ただのうるせぇヤツだけど。
直槍の白い穂先が、穢れてくほど輝きを増す。白く長く穂垂れて、流れ星を掃き散らして牙を剥く。
潔白とはほど遠い、血の赤すら喰い殺し否定する悍ましい純白。
水に墨が広がるみてえに、手のひらと槍の境界線がとろける。どこもかしこもボロッボロのくせ、アドレナリンと脳内麻薬で体重なくて、槍の軌跡も全部見える。吸った空気がエンジン回して、ガンガン速度上がってく。
あぁ、クソだせぇ異名つけられたんもこんな時だったな。ズタボロになりながら、本能通り敵軍連中殺しに殺して、やり損ねたヤツが広めやがったんだっけ。例えるものなき、流血に研ぎ磨かれた凶悪な白刃そのものだとさ。とっとと詩人にでもなれよバカ野郎。
***
「あー・・・痛ってぇ・・・・・・」
コレ、醒めた時マジでキッツいんだよな・・・。飛んでた感覚全部が数割マシで来る。どーなるかって、猛烈にダルくて痛くて重い。関節ハメとくのって、こんなキツかったか?
アイツら単体じゃそんな強くもなかったってのに、俺も老けたなー・・・って、違うか。はは。
サビねぇように槍拭いて、来た道と逆に歩き出す。靴とかズボンの裾とか、ドッロドロでクソ重い。
はー、めんどくせぇ。けど生きてっし何でもいっか。ウダウダ言ってねぇで進もう。搦手が本隊っぽいし、中隊か大将首ぐれぇ狩っときたい。
俺は槍を握り直してまた歩く。
行き先は地獄。
地獄の化け物喰らい潰して、ココを天国にしてくれる。




