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神々のイデア  作者: 花都
クーデター編
38/70

第二十九章 毒を食むII(後編)

 ・・・殺されかけてたエリィを助けて、なぜかキレられること約五分。

 あーだのこーだの喚き続ける姉ちゃんを何とか逃がし、すげー疲れたんだけどこっからが仕事。

 

 俺、アイツになんかしたか?マジ永遠のミステリーなんだけど。

 

 めっちゃ気になるけど今さらどーにもなんねぇし、姉ちゃんたちの命が優先。アレか?正規軍の連中、搦手に気付いてねぇのか?それか待機命令?んなコトある?

 ダメだコレもどーにもならん。仕事しよ。

 

 槍を左手に控え、壁の向こうから漏れ聞こえてくる声を聞き流しながら歩く。一歩ごとに鳩尾のすぐ横が鈍く痛むが、マジそれどころじゃねぇんで全シカト。どうせすぐ、痛くも痒くもなくなるしな。

 

 今歩いてんのは客間あたりか。屋敷の正面入り口の方まで来たってのもあって、士気の高い奥方様の軍が善戦してる。混ざる必要もねぇし、ここまでのが全部オトリっつー可能性もあるからさっさと進もう。実際入り込んでたヤツいたしな。

 

 壁裏の秘密通路っつーと狭い印象だろうが、奥方様の屋敷のそれはかなり広い。元々『五本槍』(俺ら)のために整備されたヤツだし、槍ぐらい余裕でブン回せる。

 

 けど、ソレがありがてぇってのは敵も同じ。

 

「・・・ッ」

 咄嗟に槍を倒し、切っ先から頭を守る。

「・・・っぶねぇなコレ」

 刹那遅けりゃ、脳髄ぶち撒けて退場だったな。

 

 眉間目がけて来る突きが、吸い込まれてるみてぇに正確だ。

 

「エラく物騒な挨拶だなぁ、おい!」

 四、五、六・・・十二か。二段に分かれ、顔隠した刺客どもが中段に構える。槍襖ってのは初めてお目に掛かるし、俺だって別に才能とか能力とか溢れてねぇけど、ビビってるだけのハリネズミ共に異名ごとくれてやる気はねぇな。

 『五本槍』の名折れってヤツよ。

 

 肩の力をスッと抜く。片手を腰にもう片方を顔の横に、穂先は脛に下段の構え。

 戦い方だの勝ち方だの、ハナっから泥まみれの俺に気取るモンもねぇ。普通だの基本だのって、わざわざ中段で距離取る義務も。

 貴族でも何でもねぇ俺の、汚ねぇドブ底で得た強さ。ガキの頃から甘やかされて、図体ばっかデカくなったヤツらには負けねぇ。

 槍襖なんざ、一本崩しちまえば終わりだ。強そーに見えて強いが、実はケッコー脆かったりする。ちっと崩れりゃ、マトモに機能しやしねぇ。

 でもって、攻撃がおっかねぇってんなら、させなきゃいいってだけの話。先手必勝。

 

 こーゆー時、ワケわかんねぇ暗殺屋が仲間でよかったとか切実に思っちまう。基本ただのうるせぇヤツだけど。

 

 

 直槍の白い穂先が、穢れてくほど輝きを増す。白く長く穂垂れて、流れ星を掃き散らして牙を剥く。

 潔白とはほど遠い、血の赤すら喰い殺し否定する悍ましい純白。

 

 水に墨が広がるみてえに、手のひらと槍の境界線がとろける。どこもかしこもボロッボロのくせ、アドレナリンと脳内麻薬で体重なくて、槍の軌跡も全部見える。吸った空気がエンジン回して、ガンガン速度上がってく。

 あぁ、クソだせぇ異名つけられたんもこんな時だったな。ズタボロになりながら、本能通り敵軍連中殺しに殺して、やり損ねたヤツが広めやがったんだっけ。例えるものなき、流血に研ぎ磨かれた凶悪な白刃(はくじん)そのものだとさ。とっとと詩人にでもなれよバカ野郎。

 

    ***

 

「あー・・・痛ってぇ・・・・・・」

 コレ、醒めた時マジでキッツいんだよな・・・。飛んでた感覚全部が数割マシで来る。どーなるかって、猛烈にダルくて痛くて重い。関節ハメとくのって、こんなキツかったか?

 アイツら単体じゃそんな強くもなかったってのに、俺も老けたなー・・・って、違うか。はは。

 サビねぇように槍拭いて、来た道と逆に歩き出す。靴とかズボンの裾とか、ドッロドロでクソ重い。

 はー、めんどくせぇ。けど生きてっし何でもいっか。ウダウダ言ってねぇで進もう。搦手が本隊っぽいし、中隊か大将首ぐれぇ狩っときたい。

 

 俺は槍を握り直してまた歩く。

 

 行き先は地獄。

 地獄の化け物喰らい潰して、ココを天国にしてくれる。

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