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神々のイデア  作者: 花都
クーデター編
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第二十五章 絆(後編)

マイの死から二、三日後のこと、未だ主人の帰らぬレオン邸の、麓に広がる城下町にて。


 婦女子は勿論、いわゆる「普通」の人間ならば決して寄り付かぬ裏路地に、その建物はある。


 国内を比べても圧倒的に治安の悪い場所ながら、その内装は外観とはかけ離れており、初めて訪れる者は驚くに違いない。


 玄関はなく、建物を回り込むように続く廊下には、如何な物音も吸い取ってしまいそうな厚手の絨毯が敷き詰められている。



 入り口を潜ってL字に折れ、幾つか扉を過ぎた先にある本部会議室には、秘密警察構成員が六人屯していた。



 基本的に無礼講な彼等に、武器を置いて入室する習慣など無い。


 ゆえに、集まると無駄に物々しい雰囲気を醸す羽目になるのだが、気にする者が居るかは不明。

 


 

「──ものは、相談だけれどね」


 招集に応じた構成員を一人ひとり見回し、カーボが微笑む。

 だが、真面目に聞いているのはライダンくらいだ。


「いま、五柱会議でクーデターが起こされて、めちゃくちゃになっているのはみんなも知っていると思う」

 


 若草色のスアラの両目が優雅に動き、そっとカーボを捉える。


 

「起こしたのはトラスだけれどね、セシルも既に父親──、ダリアンを攻めているんだ」


 表情を変えず、そして、と続ける。


「レインとアンから別々に、助太刀してくれと要請が来ていてね。みんなと相談して決めようと思ったんだよ」



 話を一度切って、もう一度ぐるりと見渡す。十の目は全てカーボを見ていた。

 


「遅くねえか?」


 作戦参謀のイムルが面倒そうに言った。


「クーデターって一週間前じゃねえか。そろそろ二、三人死んでるだろ」


「さすがに不謹慎ですわ、イムル様。わたくしたちは部下ですのよ?」


「誰が下につくか。思ってもねえ建前に拘んじゃねえよ」


「状況は変わっているだろうねぇ。馬鹿でないなら作戦行動か。まあ、どんな策を弄しようと、この僕には遠く及ばないがね!ハッ!今日の僕も美しい・・・全く何と罪な


「わざとにしたってェ、報連相(報告、連絡、相談のこと)が遅いわねェ」 


「美味いよなほうれん草。お浸し食いたくなった。遅かったってことはたぶん、眠かったんだろう!」


「帰れてめえ。帰って草食ってろバーカ」


「今日のイムルは怒りっぽいねえ。何か嫌なことでもあったのかい?悩み事なら美しいこの僕が


「あーハイハイてめえのそう言う所嫌い」


「イムル」


 首領が眉根を寄せる。


 流石に気まずいのか、イムルは舌打ちして外方を向いた。


「はーいよ」


「なるべく早く──」


 伏せていた目をカーボに向け、スアラが口を開く。


「医務室へ戻りたいのですが。セラが心配ですわ」


「そうだね。セラの容体はどうかな?」


「完治まで三週間から一月は掛かります。けれど、今は落ち着いていますわ」


「ありがとう。まだしばらくかかりそうだから、それなりに煮詰まってきたら呼ぶね。それでいいかな?」


「ええ。ありがとうございます」


 優雅に一礼すると、香水か石鹸か、えもいわれぬ華やかな匂いが漂う。


 品のよい所作に視線が集まるが、スアラは振り向きもせず歩み去った。

 


「にしてもォ」


 リアンがあからさまに溜息を吐く。


「セラは不参加多いわねェ。やる気ないンなら辞めれば良いじゃない」


「大怪我なんかするんじゃねえよ、酒場だっけか?治安悪いとか注意すりゃ済む話だろ」


「リアンもイムルも協調性がないな・・・。陰口は良くないぞ。言われた方の気持ちを考えるんだ」


「それは目つきの悪いイムルだから言えることさ。基本的にセラは普通の女の子だからねえ」


「てめえの口から女の子とか寒気しかしねえ」


 吐き捨てたイムルは、先程からしきりにこめかみの辺りを揉んでいる。


「目つきは否定しないのか」


「当たってるからねえ」


「黙れてめえらマジ黙れ」


「恐っ」


「目つきの悪さを発揮しないでくれないか」


 ズッコケ二人組が溜息を吐く。


「とは言え、セラが手も足も出ないのは変だと思わないかい?この僕が手合わせしても、ほとんど先制されるか、躱されてしまうのだよ?」


「ただの酔っ払いじゃないな。オレたちに暗殺されそうって思ってる誰かが仕組んだんだ」


「ほーぉ、珍しく冴えてるじゃねえか」


「誰よソイツゥ、アタシがボコボコにして海に捨てて来てやるわァ」


 チャイナドレスから伸びる長い脚を組み替え、面倒臭そうに髪を弄る。


「やめとけ、リアンが言ったらシャレならねえ。本気で地獄絵図だ」


「どこまで行く気なんだ?」


 ライダンが首を傾げた。


「この近くに海はないぞ?」


「そこ⁈確かにそうだがなんでそこ?もっとツッコむとこあるだろ山程!」


「どうでもいいわそんなことォ。そんなヤツはねェ、虫まみれの畑にでも埋めてやるの!地獄を見ればいいわァ、絶対助けてやらないからァ!」


「ふっ、助けなら美しく強いこの僕が


「もしやリアンは虫が嫌いなのか?」


「頭から草生やして虫に食われりゃいいのよォ!」


「なるほど‼︎よしオレ、チューリップ買って来る‼︎」


「何が!どこが!なるほどなんだよ‼︎」


 ゼェゼェと荒い息をするイムルだが、怒涛のボケは止まってはくれない。


 天然気味のライダンはお構いなしに花屋へ行こうとする。


「待てやコラァどこ行くライダン‼︎そいつの頭に花咲かせようとするな!これ以上ボケ増やすんじゃねえっ」


「バラにしなさいよォ、パッとして綺麗なのがいいわァ」


「ダメだ。今から植えるなら断然チューリップだぞ。ちょうど植え付けの時期だし、初心者にも育てやすいしな!バラは虫がつくからやめた方がいい‼︎」


「ドヤ顔で言うな!大体、ズレまくりなんだよてめえ、何で栽培詳しいんだよ⁈つか花育てるなら畑使えや!何でわざわざ人の頭に植えるんだよ!自慢げに反り返ってねえでそこツッコめやアホライダン‼︎」


「よく一息で言えるねえ。まあ、僕はもちろん余裕だけどね!」


「これ以上話ややこしくするな!とっとと帰れ馬鹿モンド!」


「会議中に外出したらだめだよ、ライダン」


「今は会議中だったのか。悪かった」


「うんうん、素直でいいね」


「どうせ買うなら朝顔が良いんじゃないかい?綺麗だし、育てるのも簡単だよ。まあ僕の美しさには敵わないけれど、珍しい品種を育てて売ったら資金の足しになるそうじゃないか」


「なるほど抜かりない、名案だな・・・っててめえも違うわ‼︎」


「素晴らしいノリツッコミだねイムル」


 いつものふにゃーんとした笑顔を向けるカーボ。


「うるせええええ‼︎」


「誰の情報なんだ?」


「以前セラが教えてくれたんだよ。手内職をしていた時もあったとかでね」


「あいつ遠隔でボケやがった・・・」


「よーし、そろそろ本題に戻ろうか。遊ぶのはまた後でにしようね」


「保育所か!」


「「はーい」」


「てめえらもか‼︎」


「せんせーい、次遊ぶのはいつですかー」


「お仕事が終わったら遊ぼうね」


「わかったー」


「うんうん、よく出来ました」


「突っ込めてめえらあああああああ」


「せんせー、イムルが壊れましたー」


「秘密警察は過酷だから、きっと疲れてしまったんだね。このところ忙しかったし、そっとしておこうね」


「病気か⁈オレ、スアラ呼んで紅天狗茸もらって来る!」


「そこは鳥兜でしょうよォ」


「みんな優しいね。きっとイムルもすぐに治るよ」


「アアアアアアアアクソがアアアアアア!!」


「何も治ってないよ、首領」


「そう言えば本題に戻るんだったよな?でも議題ってなんだ?小松菜の調理法か?」


「デッサンに僕をモデルにしたいと言う話だったよ?」


「それは絶対違うぞ。うちに絵描きはいないからな」


「鳥兜なんか色々調合したのォ、被験体はライダンねェ」


「いやいやいや毒草はナシだ!鳥兜は勘弁してくれ‼︎リアンが飲め!」


「ライダンだから面白いんじゃないのォ」


「そうかオレじゃなきゃダメか・・・って無理なものは無理だ!イムル‼︎助けてくれ‼︎」


「ふっ、助けなら美しい最強のこの僕が


「いい加減黙れてめえらァ#※+〃=÷・・・‼︎」


 

 ダーンッ・・・!



 槍が床を叩く。床が一寸近く凹む。


 

「会議に戻ろうって、言ったよね?ちょっと静かにしようか」


 首領がにっこり笑う。但し目は笑っていない。



 ──逆らえる筈も無い。



 冷や汗をだらだら流しながら、満場一致でそう思った。

 


    ***

 


「ならば出撃ということでいいね?」


 十五分そこそこで、クーデターに対する基本方針が決まった。


 結局すぐに呼び戻したスアラも頷いている。


「問題は時期だ。セラとスアラは留守で良いな?」


「構いませんわ。セラはわたくしが説得しておきます」


 さっさと終わらせたいイムルに、眉根を寄せたスアラが同意する。


 若草色の瞳は少し不安げだ。


「大人しくしてるか?あの殺し屋」


「だから説得するんだろ?スアラを信じるんだ」


「セラだ。ぼさっとしてるから怪我すんだよ」


「そんな事よりィ、さっさと決めましょォ」


「出撃ならすぐにでも向かうべきじゃないかい?頭に血の上った兵士たちが、一般人を虐殺しないとも限らないからね」


「モンドがまともに喋っている!明日は槍が降るな」


「物騒過ぎるだろ」


「真面目な話をするとね、私もモンドの言う通りだと思うよ。だから、リアンには簡易の救護所を作って欲しい。巻き込まれた人たちに罪はないからね」


「ハイハイ、アタシは後方支援ってワケねェ」


「後方支援が一番大事だよ。今回私たちは救助に行くんだからね。従軍医はリアンにしか頼めない」


 言葉に詰まったリアンが素っ気なく頷くと、カーボがにっこり笑った。


「決まりだね」


 ふわふわと笑っている首領が、すっと真顔になる。


 皆が自然と、下腹部に力を入れた。


「行くぞ!」


「応っ!」


 たんっと軽い足音を残し部屋が空になる。


「行ってらっしゃいませ」


 一人残されたスアラは丁重に頭を下げ、目を閉じる。



「──どうぞ、ご無事で」

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