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神々のイデア  作者: 花都
クーデター編
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第二十二章 波

「はー、おねえさまは退屈です。くだらないです。アンならもっと楽しくできます。なんで忍び、殺しちゃったんですか」

 

 椅子に腰掛け、口を尖らせて爪の手入れをする娘。歳の頃は十六、七ほど、翡翠の瞳に金色の巻毛をもち、黒いチュールのフリルスカートがよく似合う。


 

 彼女は『五柱』の一角、ルーアの腹違いの妹で、名をアンと言う。


 良家の娘との間に生まれたルーアと比べ、最高級妓女の娘である彼女は薔薇のように見目が良い。

 が、兎に角我儘がひどい。


 

 重厚な樫の扉をノッカーが叩く。

 案外と軽い、踊る音。

 

「はあい、アンです。だれですか」

 

「僕だよ。アンに会いたくなっちゃって」

 

「ジョシュアさま!」

 

 先程の不満顔はどこへやら、ロリータの裾を揺らして子猫のように戯れかかる。


 令嬢の婚約者ジョシュアは微笑み、レースのヘッドドレスに彩られたアンの金髪を愛おしそうに撫でる。


 その首に手を回し、甘えた声でアンが口づけをせがむ。


 

 唇を重ね、甘い蜜を啜り合う事しばし。

 

「ねえジョシュアさま、アンはがっかりなのです。おねえさまはつまらないのです」

 

 抱き合ったまま、真意の読めぬ笑顔でジョシュアが先を促す。

 

「おねえさまは大罪人を殺すために、秘密警察をうごかしました。

普通です。面白くないです。

それに秘密警察はリネラの忍びも殺しちゃったんです。おねえさまが使っていらした、だいじなだいじな忍びも!

おねえさまは才能がないのです。かわいそうなのです。アンならそんなつまらないことしません。

おねえさまなんかよりアンのほうが、ずっとずーっとじょうずにできます。アンだったら忍びを使って、リネラを中からこわしました!」


 

 宥めるように笑い、アンの唇にキスをする。

 

「僕の可愛い妻は、義姉上の代わりに『五柱』になるんだね」

 

 見つめ合って、笑う。

 

「はい!アンはおねえさまよりもずっと、ずーっと立派な『五柱』になります!そして、イデアをアンのものにするのです!

アンはおねえさまも、ほかの『五柱』もみーんなやっつけて王さまになります!

だってみんな、つまらないです。アンがもっともっと、おもしろくしてあげるのです!」

 


 婚約者の言葉に高揚したアンが捲し立て、ジョシュアは満足気に微笑む。

 

「じゃあルーア、殺しちゃおう?アン」

 

 小さく笑い、ジョシュアが勿体をつけて耳元で囁く。


 

 教唆するように。

 アンのため、婚約者の願いのため、彼女を洗脳するように。


 

「おねえさまを、ですか?」

 

「そう。ルーアを殺そう。殺して、アンが『五柱』になろう」

 

「ジョシュアさま、分かってくれるですか⁈」

 

 アンがぱあっと笑顔を浮かべる。


 瞳をきらきら輝かせ、ジョシュアに目線を合わせようと爪立つ。

 

「アンうれしいです!アンはおねえさまを殺します!ジョシュアさまも手伝ってくれるですか?」

 

「もちろん。可愛い妻の頼みだからね」

 

「じゃあ二人でやるです!アンとジョシュアさま、二人で『五柱』になるですよ!」

 

 ジョシュアは微笑み、はしゃぐアンの髪を撫でる。


 子猫のような婚約者を抱き抱え、天蓋のついたベッドに下ろした。

 

「ぜったい、ぜったいですよ」

 

「分かってるよ」

 

 熱い視線を向けて念を押すアン。

 ジョシュアは彼女に微笑みかける。


 金髪が白い胸元にかかる。

 

 

 蜜月に微睡む二人は知らない。


 ルーアの手腕、実力。


 近衛部隊が何人いるのか、たったそれさえ。


 

 知らない。


 

    ***

   

 

「───奥方様をリネラに売ったのは何故だ?答えろ!」


 

 居室の隣、『五本槍』詰所の中の医務室にて。滅多にキレねぇ隊長(リーダー)がドスの効いた声で怒鳴る。


 

 特殊部隊『五本槍』最強の男に怒鳴られりゃ、まず大人でも泣くだろう。


 だがコイツは剣を向けられても肩を竦めるだけで嗤ってる。


 

 何も分かってねぇガキでも諭すみてぇに。

 

 

「フリだよ。落ち着けって。売るわきゃねーぢゃん。どんだけ奥方様に世話になってるか、オレもちゃーんと分かってら」

 

「嘘をつけ!お前は奥方様を売り右腕を奪い、リエル様までも危険に晒した。逃れられない事実だ!」

 

「はー、うるせーなー、いちいち怒鳴らねーでも逃げねーよ。逆に考えろって」

 

 俺はいつでも斬りかかれるように短剣を握る。


 どー見てもコイツはクロだ。

 この状況でヘラヘラ笑ってる時点で異常だ、気色悪ぃ。

 

「オレが裏切ったんぢゃねー、忍びが裏切ったんだよ。リネラをな。

だからけっこー濃い情報取れたし奥方様を守れた。知ってるか?リネラ(アッチ)の毒使い、『雷』だけぢゃねーんだぜ」

 

「んじゃ何で黙ってたんだよ!俺らに共有すりゃ良かったんじゃねぇのか⁈」

 

 

 んな重い情報黙ってたんじゃ、結局そーゆーコトだろうが。ざけんな!


 

「待てって。出来ねー事情あったんだよ。ながーく見たら───」

 

「待てるか!」

 

 片膝立ちから跳ぶように鳩尾を突き喉笛を掻く。

 予想してたらしい『闇夜』が飛び退き、おー恐ぇ、と歯を剥いた。

 

「話聞けよ、獣ぢゃねーか」

 

「っせぇな!裏切り者(てめぇ)の話なんざ聞くまでもねぇんだよ!」

 

「止めとけ『白刃』。傷開くぞ」

 

「アァ⁈」

 

「ちょっと下がってろよ。言うだけ言え。最期ぐらい聞いてやる」

 

 隊長(リーダー)は納得いってねぇ俺をシカトして『闇夜』を睨む。

 

「うぇー、殺す気満々ぢゃん」

 

「返答次第な」

 

「嘘吐けよ『炎』。そーゆー政じみた嘘嫌いぢゃねーのかよ」

 

「さっさと言え」

 

 敵意を込めて睨まれ、まだ何か言いたそうな『闇夜』も流石に項垂れた。

 

「はー、わーったよ」

 

 頭を振って肩を竦め、大袈裟にため息もついて背を向ける。

 

 何の反応もねぇのにマジで観念したらしく、手持ち無沙汰なのかウロウロしながら喋り出した。

 

「オレが忍びと通じてたのは、一年近く前からだ。地下通路とか探ってる小姓がいたんだよ。

見っけたから脅してさ、寝返ったから使ってた。

さっすが、リネラの諜報員の元締めってなると情報戦つえーんだな。でまあリネラに不利なよーに情報統制かけてみたりもしてた訳よ。

んで、『雷』が最初に来るとか、狙撃手の間合いとか、エミリアが正式構成員ぢゃねーってのも聞いたわけ。でな───」

 

「作戦会議で『紅』置いたのてめぇだよな?忍びと『雷』が来るからっつって、てめぇは暗殺に回って見事にしくったよな?ワザとやったっつーコトだろ」

 

「るせーな、違げー。最後まで聞けや。

裏切ったっつったけど向こうは二重スパイなんだよ。騙し騙されが本業なもんで、オレまで騙されちまってな。狙撃手狩れねー、忍びが奥方様のとこまで行っちまった、あんだけの火薬仕込んでたってのはそーゆー訳。面目ねー。

屋敷に入って来んのはオレが黙認してた。けど爆弾準備してるとかはなー。

それはオレの責任だけど、アッチの頭領の剣、無毒化したのは忍びだぜ。じゃなきゃ奥方様生きてねーよ」

 

「何の毒だ」

 

「分かんね。多分頭領しか知らねー」

 

「毒だ何だっつーの差し引いてもミスり過ぎだろ。てめぇが何やったか、奥方様がどーなったか分かってんだろうな⁈」

 

 延々とヘラヘラして緊張感のカケラもねぇ『闇夜』がやたら神経逆撫でる。

 

「そー来ると思ったよなー。こーゆー時、『白刃』が一番めんどくせーし。

まーでも、奥方様もリエル様も生きてる。オレだってきっちり任務こなしてるぢゃねーか。オレに言えんのはそんだけだな」

 

「忍びの処刑はルーアか?奥方様は最近、秘密警察に連絡してない」

 

「うわ三重スパイぢゃんアイツ。どんだけ手玉に取る気なんだよ」

 

 『闇夜』を許すワケじゃねぇが、聞いてりゃ相手の全容っつーのも分かって来た。

 

 ルーアの方にも通じてて用済みになった、って考えりゃ、秘密警察が行ったっつー筋も通るわな。

 いらねぇヤツをボンボン消すなんざ、いくら何でもルーアぐれぇだ。

 

「何重間諜か知らんが、流石に『五柱』全部は無理だな。わざわざ奥方様にもルーアにも通じて何したかったんだ」

 

「ゼセロ全部探ってたっつーコトか?軍事派だったら容れてくれるとか思ったんじゃね?」

 

 とりあえず適当なコト言ってみる。マァ結局リネラを捨てた、って以外確証ねぇけどな。

 

「二人のどちらに持ち掛けようと大差無い待遇を受けられる情報、かつルーアにとって奥方様に知れては非常に不都合なもの。・・・思い当たる節はあるか?」

 

 しれっと入って来てた『紅』が『闇夜』に問いかける。

 

「てことはたぶん、奥方様にしたって都合わりーよな、ルーアに知れたら」

 

「となるとリネラの内情じゃないな。ゼセロの線が濃い」

 

「まさかとは思うが、誰か反逆すんじゃねぇだろうな」

 

 俺の発言に全員黙り込む。


 全然アリだと思うんだよな。逆にそれ以外何があんだよっつーか。

 さっきの『紅』の発言から考えりゃ、奥方様とルーア両方ひっくり返そーとしてるバカがいる。

 

「可能性大だな。ゼセロの統帥か?」

 

「そりゃねーだろ。暴れる意味ねーもん」

 


 一応形の上では、貴族達の私有戦力は禁止だ。

 

 下級兵とかは、ゼセロの統帥からの借りモンで勝手に動かせねぇ。


 私設部隊アウトなんざ守ってるヤツどこにもいねぇが、俺らの存在がこないだの襲撃でバレちまったから今頃奥方様はあとの四柱から散々ゴチャゴチャ言われてんだろう。


 ま、どーせイチャモン合戦だろ。あの人が押されるワケねぇし。

 


「ならば幹部それぞれの控え。ルーアの妹、ダリアンの息子、レオンの息子、奥方様を憎む者・・・恐らくはトラス」

 

 奥方様の後継、すなわち控えはリエル様だ。

 生後二ヶ月かそこらの子供は明らか対象外。

 

「うーわー、あり得る。自信に満ち溢れるお年頃のお子様ぢゃねーか」

 

「いや、歳変わんねぇだろ」

 


 名前上がった連中は十代後半から二十代前半。


 正確な生年月日わかんねぇけど、『五本槍』(俺ら)は隊長以外二十代前半。

 しかも『闇夜』は俺より二、三コ下だ。

 

 ってなりゃ、トラスなんかは『闇夜』より上。

 

 ま、精神年齢的にはガキかも知れねぇけどよ。

 


「推測でしかないとはいえ、可能性は高いな。相手が動く前に奥方様に報告して来る。引き続き情報を集めろ。裏を取る」

 

「応」

 

「あい」

 

 無口な『紅』も首肯する。

 

 奥方様はまだ五柱会議に出てる。


 トラスの外聞だの礼儀作法だのってのであと一月は続くはずだ。


 何だかんだで招集されたら二、三ヶ月は終わんねぇからな。


 その間、会議関係ねぇ控えどもが動いてても何もおかしくねぇ。

 

 気ぃ引き締めて――


 

「もちろん『白刃』は絶対安静な。破ったら叩き出すぞ。ついでにチアラとエリアナにも言いつけとく」


「・・・うぃー」


 うわーおっかねぇ。


 伝家の宝刀抜きまくらなくても暴れねぇよ。

 ゴメンって。

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