プロローグII
ここは、広いイデア国の中でも屈指の美しい街、シーラ。
活気にあふれ、緑したたる大森林と人々の営みが共存する奇跡の街だ。
温暖な気候と恵みの雨に支えられ、「シーラに足りないものはない」と謳われるほど贅沢で幸福な時が流れている。
すべて、雨のおかげ。沢山の水の、恩。
ある年、王都であるシーラ地方は干魃に見舞われた。
作物は枯れた。草木は黄色に染まり、白い地面が露わになった。
その年だけではない。次も、その次も、その次も・・・干魃は段々と拡大し、国中に広がった。
大地はひび割れ、泉は枯れ果て、森も田畑も砂漠に消えた。
飢饉は領主の蓄えすら潰し、もろともに物乞を始める貴族さえ出た。
みな、恵の雨を天に祈った。神に願った。
濁った川の水を啜り、草を食らうまでになった彼らは、藁にもすがる思いで王宮にまで雪崩込んだ。
だが。
誰も助けてはくれなかった。
天は冷酷に晴れ渡り、神には届かず、王さえ何も手を打たない。
人々は、何もしない国王──ナナァこそが悪だと信じた。
彼女が滅べば、彼女に納めた糧食を取り戻せば、この苦しみは終わるのだと。
彼女がいなくなれば、もとのシーラに戻る、幸せなイデア国が戻ってくると。
かくして内乱が起きた。
戦なれしない上に兵が集まらないナナァは、僅かな供回りと家族だけを連れて逃げた。
国中を敵に回し、大切にしていたものを全て失い、それでも恐怖の沼地を逃げ続けた。
彼女には責任があったから。
自分のせいで始まった、望まれない紛争を終わらせる責任。
もう、誰も何のために戦っているのか分からなかった。
生きたいが為に武器を持ち、親子でさえも殺し合う。
そんな、荒んだ世界を終わらせる責任が。
ナナァは、自分のもとに残った腕の立つ者達で組織をつくった。
望まれない紛争を終わらせるために。
この国を美しいイデアに戻すために。
その名は──