05
そして、私は両親に再び話をいたしました。
「お父様、今日、アルフレド様がいらして……」
私は先ほど聞こえた心の声を伝えました。
それが真実の心の声かどうか分かりませんが、でも、それによって調べたらミーアさんは確かに存在したのです。そしてあのアクセサリーや贈り物の花束も間違いはなかったのです。
お父様もお母様も私の話を聞いて激怒されました。お父様は怒りのあまり壊れそうな勢いで机を叩きました。手が痛んでないか心配したほどです。
それから、お父様はアルフレド様のお父様と家同士で婚約解消について話し合うと仰って部屋を出ていかれました。残されたお母様は私に、
「話し合いが終わるまであなたは領地にでも行って療養していることにしてもいいのだけどあちらにアルフレドが押し掛けてくるようなことがあっても怖いわね。どうしようかしら? 暫くほとぼりが冷めるまで匿ってくれるところはないかしらねぇ」
そんなふうに仰ったので、
「グレイシー様にご相談いたしましょうか? このアクセサリーのこともありますから」
早速、私はグレイシー様に事情を書いた手紙を送ると快く私を預かってくださると返事をいただきました。
グレイシー様は王宮で王太子妃としての教育も終えられ、今は王宮で王妃の心得を学ばれているそうです。流石、グレイシー様ですわ。
私はグレイシー様のお宅へお礼のご挨拶と相談に向かいました。
「マーシャ様。あなたは私付きの侍女見習いとして一緒に王宮に参りましょう。婚約解消まであなたを我が公爵家で責任を持って預かりますわ」
王太子妃の侍女はそれなりの貴族階級から選ばれます。男爵家や子爵家からも選ばれますが、伯爵家のように王宮へ直接伺候できる階級の令嬢が必要なのです。勿論、グレイシー様の側付きの侍女はもう決まっています。
私は見習いということにして一緒に王宮へ連れて行ってくださるそうです。グレイシー様の側で一緒に教育を受けるようにとまで言ってくださいました。そして、王宮なら常に王家や公爵家の護衛が側に付き添っているので安心です。
確かにアルフレド様とのことが無くなったら、私が自ら領地経営も考えなければならないことになるかもしれないでしょう。伯爵家当主代理として王宮に向かうこともあるかもしれません。その為の予行と思えばいいのです。
「こんにちは。マーシャ様」
私達が話しているとグレイシー様の弟君がご挨拶にきてくださりました。グレイシー様と私より一つ年下です。私とは学園ではお会いすることはありませんでした。何故なら彼は高位貴族の子息でありながら、騎士学校の方へ入学されていたからです。そして優秀な成績を修められていると聞いています。年若いけれどすらりとした美少年です。本当に公爵家の姉弟は美人揃いですわ。
「こんにちは。今日はお帰りがお早いですのね。シザリオ様」
「もう直ぐテストがあるので早いのです」
「まあ、もうそんな時期なのね。頑張ってください」
「ええ、これで合格すれば騎士見習いから正式に騎士に成れます」
「まあ、そうですの。シザリオ様は優秀ですから心配ありませんわね」
そう私が言うと顔を真っ赤にされました。そんなシザリオ様を男性なのに可愛らしく感じられましたの。弟がいたらこんな感じかしらね。うふふふ。
(嬉しいな。マーシャ様に褒められて、社交辞令でも嬉しい。ああ、マーシャ様は姉様と仲が良いのでほっとするなあ。姉様はキツイ見た目で誤解されることがあるから真の友人が少ないんだよね。マーシャ様はこうして話していると益々可愛らしいので癒される。婚約者がいなければ僕が立候補したのに)
――え?
私は驚きのあまり声も出ませんでした。まさか、今のはシザリオ様のお声……。
その後、正直何を話したのか覚えて無いほどでしたが、私はグレイシー様とお話ししたことを家に戻り両親に伝えました。
それから、グレイシー様と一緒に王宮に参ることになりました。暫く、王宮に行くための準備で慌ただしく日々を過ごしておりました。殆どはグレイシー様が段取りをしてくださいましたけれどね。
そして、王宮での侍女見習いの日々が始まりました。今は一日の殆どを王宮で過ごしています。グレイシー様の身の回りのことをする侍女は沢山いますので、私はお側でお話し相手を務めるくらいでした。それでも様々な方とお会いするのはとても楽しく充実していました。
時折、王宮では騎士見習いとしてシザリオ様が宮殿内を見回っているのをお見かけします。シザリオ様は私を見かけると嬉しそうに微笑んでくださいます。私シザリオ様のお姿を拝見すると心臓がどきりとするのですが気のせいですわよね。あの赤い石のネックレスを見えないように身に着けていますけれどあれから他には声が聞こえることはありませんでした。
今のところ、お声が聞こえたのはアルフレド様と、……シザリオ様だけでした。