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01

 お茶会が終わって家に戻ってから、ドレスのポケットに入っていたあのネックレスを侍女から渡されて、私はそのままにしていたことを思い出したのでした。


「気持ちが分かるなんて……、まさかね」


 私は思い切ってそれを身に着けてみましたが、目の前にいる侍女や他の使用人の気持ちなど全く分かりませんでした。


「ふふ。騙されたのね。でも、デザインは上品で石も小さいけれど良い物のようだわ」


 翌日、アルフレド様とのお出かけの約束がありました。私は侍女に着替えを手伝ってもらうと何となくそのネックレスを身に着けてアルフレド様の家まで迎えに参りました。今日は貴族向けの品を置いてある街のお店にショッピングに行く予定です。


「やあ、マーシャ。今日も楽しみだね。そのネックレスもよく似合ってる」


「アルフレド様も素て……」


(――相変わらず地味だな。ネックレスも小ぶりだしぱっとしない)


 いつものようにお礼を言おうとしたら何処からともなく声が聞こえました。どこ、と申すことは出来ませんが、強いて言えば頭の中と言うしかありませんでした。それも一瞬でしたが、アルフレド様のようなお声でした。


(あーあ、早く終わらないだろうか。女の買い物は長いし、興味がないものを見せられてもなあ)


「え?」


「ん? どうしたんだい?」


 私はアルフレド様をまじまじと見てしまいました。淑女としてあるまじきことですが、混乱していました。


「あの、今日のお出かけ先は……」


「ああ、マーシャの好きなところに行こう。楽しみだね」


(全く苦痛でしかない。だが、この女のご機嫌をとっておかないと両親からも煩く言われるしな。結婚披露は何時にするのだとせっつかれて辟易しているところなのに)


「……」


 私は驚きのあまり声も出せませんでした。目の前のアルフレド様は穏やかな微笑みを浮かべております。聞こえてくる声とは真逆です。


 私はどうしたらいいのか混乱しているうちにお店に着いてしまったので、馬車から降りました。アルフレド様がさっと手を差し伸ばしてくださいました。エスコートもばっちりです。


 アルフレド様はグレイシー様の婚約者であった第一王子のようにお一人でさっさと歩いて置いて行ったり、夜会でドレスを贈らずエスコートもしなかったりということなどありません。グレイシー様から今は第二王子様にとても大事にされていると惚気られておりました。そんなことは普通のことなのにと思って聞いておりました。


 ……一体どういうことなの。あのときこんなネックレスはさっさと返すか捨てておけば良かったかもしれない。


 お店の中にスマートにエスコートをしてくださるアルフレド様を見上げようとすると再びそれは聞こえたのです。


(あーあー。これからこの女がくだらない、あの品が良いとかこの品が良いとか迷いまくって、僕にどれが良いとか延々聞いてくるんだろうな。どれにしたって、変わらないのに。全く以て憂鬱だ)


 私は正直息を吸うのもやっとでした。今まで私が尋ねたらにこやかに答えてくださっていたのにこんなお考えだったとは……。いいえ、これは流れの占い師からもらった本当かどうかも分からない怪しげな品だもの。早くグレイシー様にこのことをお話ししてお返しするのが良いかもしれないわ。


(お、あのイヤリング、僕のミーアにピッタリじゃないか!)


 そのとき突然楽し気な口調が聞こえてきたのでアルフレド様を見上げるとアルフレド様はアクセサリーのコーナーに視線を向けていたところでした。


 ――ミーアって誰? 少なくとも私の知っている令嬢の中にはいません。それに僕のってどういうことなのでしょう。


「……アルフレド様。私もアクセサリーが見たいですわ」


「あ、ああ。良いよ。マーシャに似合うのがあれば買ってあげるよ」


(ミーアのついでだ。執事に支払いの説明するときマーシャへの贈り物だと言えば誤魔化せるので丁度良い)


 私は思わずアルフレド様を見上げました。彼は私が見上げた理由を分からないのか、口元には相変わらず貴族的な穏やかな笑みを浮かべて私に微笑んでいました。


 ――本当にどういうことなのでしょう?


 動揺しつつもアルフレド様がミーアさんにピッタリだと言っていたイヤリングはアルフレド様の青い瞳に似た青い石のついた物で、蠱惑的なデザインでした。それは私には似合いそうもなく、好みでもありません。


 私もいつもならアルフレド様の瞳の青い石のものを嬉しそうに選んでいたのですが、正直欲しくなくなってしまいました。


「これなんかどうかな?」


 そう言ってミーアさんに似合うと言ったイヤリングの色違いの物を勧めてきました。私の瞳の色と同じ緑の石の方でした。青い石の方は薦めないのね。それにそれは私にはあまり似合うとは思えないわ。


「まあ、素敵ですわね。でも……」


「じゃあ、これを」


 私が良いという言葉を待たずに彼はそれを買うように店の人に渡していました。そして、私が他の品を見ている間にそっとアルフレド様は青い石の方のイヤリングも買い上げたようでした。


 私が気が付いていないと思っている様子でした。事実、この変な声が聞こえるまでは彼のすることを疑っていませんでしたので気がつかなかったでしょう。


 それから私は気もそぞろで家に着くとアルフレド様から頂いたイヤリングを確認しました。するとやっぱり緑の石のものだけでした。同じデザインをその女にも贈るのね……。いいえ、その女の方が本命なのね。そもそもこのデザインは私の好みとは全然違うもの。そう言えば私の好みのものを贈られたことなどあったのかしら……。


 私はぼんやりとそれを眺めていました。今まで信じていたものは何だったのでしょうか? 仲良くしていると思っていました。傍から見れば今もそうでしょう。だけど……。

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