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冷やし中華始めました的な感じで婚約破棄の話を書き上げました。
完結まで書きあがっておりますのでご安心を
「マーシャ、今日もそのドレスは君に似合っているね」
婚約者であるメルビン伯爵令息のアルフレド様がそう仰いました。私は嬉しくて頬を染めて微笑み返しました。
私はベルモンド伯爵家の娘でマーシャと申します。私とアルフレド様の婚約は良くある家同士の政略的なものです。もう直ぐ婚約して一年程になりますが、週一回位一緒にお茶をしたり、お出掛けをしたりして交流を深めておりました。それなりに良い関係を築けていると思っています。
アルフレド様からは折に触れて素敵な贈り物も下さいますし、こうして誉め言葉も惜しみなく頂けるので私は政略といいつつ恋心めいた愛情を感じていました。
そろそろ二人の結婚式の具体的な話も出てきてもおかしくないのですが、こういうことは男性から申してくださるものと私は心待ちにしておりました。
そんなある日、私は友人である公爵令嬢のお茶会に出席しておりました。学園に通っていた頃からの仲の良い令嬢方が参加されています。
「マーシャ様もそろそろ結婚披露かしら? 楽しみね」
「まあ、グレイシー様こそ、改めておめでとうございますわ」
私達はお年頃なので学園卒業と共に婚約や結婚のラッシュを迎えています。今が一番華やかで楽しい時だとお母様からも言われました。
実は最近、公爵令嬢のグレイシー様はこの国の第二王子様と婚約されました。
学園を卒業されるとき、元の婚約者であった第一王子様に卒業パーティの席で婚約破棄を言い渡されてしまったのでとても驚きました。
でも、幼馴染でもあった第二王子様がグレイシー様に直ぐその場で求婚をなさいましたの。それにはもっと驚きましたが、盛大な拍手と祝福をもって受け入れられました。
そもそも、第一王子様から婚約破棄を申されましたけれど、その理由として根拠のないものでどれも証拠もなく言いがかりとしか思えないものでした。
その上に、第一王子様は会場に婚約者であったグレイシー様ではなく、別の女性をエスコートされて現れたのです。その女性はグレイシー様から虐められていたと言いましたが、学園で普通クラスの方ですし、高位貴族のクラスとは接点がございませんでした。女性の言う時間にはグレイシー様がいないのにできる訳がありません。言いがかりとしか思えませんでした。それに怯えるように終始体をぴったりと第一王子様に寄せていて、とても見るに堪えないものでしたわ。
その後、お見えになった国王陛下が第一王子様の勝手な婚約破棄宣言にとてもお怒りになってしまいました。
――それはそうですよね。
王命による婚約だというのに第一王子様はご自分の独断で婚約破棄という勝手なことをなされたものですから、高位貴族は納得しないでしょう。
結局、第一王子様は廃嫡され、王族ですらなくなることになり、その平民の女性と一緒になって市井で生活するように言い渡されました。第一王子様は納得されず見苦しく騒ぎましたが、近衛兵達に女性と共に連れて行かれました。
その後、パーティはお開きになりました。とても後味の良くないものでしたわ。
でも、明るいこともありました。グレイシー様は第二王子様と正式に婚約なさり公式発表もされました。今後は第二王子様が王太子にもなられる予定です。結局グレイシー様が王太子妃になるのは変わりませんでしたの。
幸いなことに私はグレイシー様とは入学した頃からのお付き合いで、今でもこうして気安くさせていただいております。
今日はそんなグレイシー様主催のお茶会で面白い趣向を凝らしたものがございました。流れの民を招いて見たこともない異国のダンスや余興の数々が披露されましたの。その中に占星術のようなものもございました。
「さあ、マーシャ様もアルフレド様との相性占いでもどう? でも、あなた達は仲が良いので必要ないかしらね。うふふふ」
グレイシー様は第二王子様と相思相愛の仲になってとても幸せそうです。
「まあ、グレイシー様ったら、そんなに仰ると恥ずかしいですわ」
そんなやり取りをしながら私は水晶を置いたテーブルの前の椅子に座りました。向かいにはフードを目深に被った老女が座っていました。
「ではご令嬢は何を見て差し上げましょうか?」
「……そうね」
悩んでいると横からグレイシー様が、
「婚約者との相性を是非占って差し上げて!」
ご自分は政略からまさかの恋愛めいた結婚になったので、楽しそうに仰いました。だけど私は政略結婚です。それなりに仲が良いと思っておりますのでそのようなものは……。と思いつつ、相性は少し気にはなりますわね。
「それじゃあ。お相手の名前は?」
占い師の方から聞かれたので私は素直に話しました。その他にも誕生日や生まれた場所など答えました。
「相性はどれどれ……」
そのとき、大きな歓声が上がりました。道化師が大きな玉から滑稽な様子で落ちたみたいです。そちらに皆の意識が集まっています。グレイシー様達は興味深げにそちらに近寄っていかれました。私は内容が皆に聞かれないので少しほっとしました。
「あの、本当に相性とかは必要ありませんわ。政略ですけれど私たちは上手くいっていますもの」
「そうかい?」
老女はじっと水晶を見つめています。実は私も歓声が上がっている曲芸の方に気がそぞろになっていました。そっと立ち上がろうとすると、
「じゃあ、お嬢さんにはこれを差し上げましょうかね」
「まあ、そんな。知らない方から物をいただく訳にはまいりませんわ」
「いやいや。占いを知りたくないというのは素晴らしい心掛けじゃ。安易にそういうものに頼らないという心構えが気に入った。これはのう、特別な品じゃ。身に着けると他人の本心が聞けるという不思議なネックレスでな」
そうして出されたのは上品な細い金細工にルビーのような赤い石がある物でした。
「他人の本心が聞こえるなんて、まさか……、そんなものがあるはずないわ。それにそのようなものはもっといただけないわ」
その品はそれなりに上質で品の良い物のようでした。でも私が渋っていると掌にネックレスを無理やり渡されました。
私達のやり取りを見ている人は居ないようでした。次々と披露される曲芸に皆が夢中になっていたからです。私もそちらが気になって仕方が無いので渡されたネックレスをとりあえずドレスのポケットに仕舞い込むと観客の中に加わり一緒に曲芸に夢中になって、そのままそのことは忘れてしまっていたのです。
お読みいただきありがとうございます