「やばい人にビビるアルティメットニート」(何こいつ)
皆さん本当にお待たせしました。
「おのれ凡俗が……ヒューマンの貴様など、サラマンダーさえいなければ!!」
「あぁそうさ……俺は凡俗。Fランクの冒険者さ」
全ての者が俺と魔王の一騎打ちを見守っている。
「この、落ちこぼれが! なんで貴様なんかが!」
「落ちこぼれ? そうさ、間違っちゃいない……」
そして俺は手元に赤い魔法陣を起こす。
「俺は落ちこぼれで……! 最強だ!!」
そしていつもの様にそう叫ぶ。
「ヒートLv1!!」
――ドッガァァァァァァァァァアン!!!
土煙を上げて、魔王が俺の炎の中で灰になっていった。
「ふぅ……終わった」
少しだけ疲れた。振り返ると、エリーちゃんが潤んだ瞳で俺に飛び付いて来た。
「うわっと……エリー、さん!?」
「すごいわ、すごいわケイン! あの魔王を倒したのよ! こんなに呆気なく! 貴方本当に世界最強のFランカーだわ!」
「ちょ、みんな見てるから……ッ」
民達もまた喜び、手を打って歓声を上げた。
「ありがとうケイン!! ありがとう! お前は本当に世界最強だよ!」
「助かったのよ私達! あなたのおかげで!」
たった一人のFランクの冒険者、そして落ちこぼれだった俺に。
皆が俺を認めて、感謝していた。
――あぁこれだ。これが山田拓郎が心から望み、そして叶わなかった世界だったんだ。
何だか俺の目頭も潤んで来た。すぐにレベルアップの方法を見つけなければ危ない(かもしれない)相手だったし。
「ケイン!」
「んっっ!! エリーさ……ッ!!」
俺の唇に暖かい物が触れていた。
この暖かい物はそう、夢にまで見た女の子の唇だ。しかも絶世のエルフ美少女と……。
「ひゅーひゅー! お熱いねー!!」
「お似合いだよお二人!」
「ちっ悔しいが、お前にゃ敵わねぇか……」
頬を赤らめたエリーちゃんは、めちゃくちゃ可愛かった。
「ケイン……私、ずっとずっと貴方の事が……」
そしてこの世の悪夢が終わったその時だけは彼女も大胆になって、みんなが見守る中で、もう一度俺と唇を合わせる。
「うへっw……くっく……」
「どうしたのケイン?」
「いや、何でもないよ? エリーちゃん……w」
――――チョッッッロwwwww!!
これは落ちたな、完璧にw
キザな台詞に加えて、熱い戦闘シーンまで演じた甲斐があったというものだw
山田拓郎の時には手も出せなかった美少女が、今の俺には簡単に手に入る。
――欲しい物はぜーんぶ俺の物になる……勝ち組の今の俺にならwww
ぷりぷりの若い体……良い匂い……柔らかい肌……
今夜この胸も、尻も唇も心も、ぜーんぶっwww♡
くふふ……美少女エルフいっただきぃwww
俺は告白の返事とばかりに、潤んだ瞳をする彼女を抱き寄せながら、唇を近付けていく。
「んちゅぅ〜〜〜ww」
――じゃり。
もう何も阻む者の無い筈だった俺達の元に、近寄って来る者がいた。
誓いのキッスを中断して、俺達は彼を見つめる。
全く良い所で邪魔しやがって……
――え? この人って確か……
真っ黒い神父服(こういうのは確かスータンって服だったと思う)に胸から銀の十字をぶら下げている。
その神父様が、いつもの様にニコニコと笑いながら、俺達の元に近寄って来る。
――なんか、とんでも無い物を引き摺って!
「えっと……神父様? その、今引き摺っている、人を貼り付けられる位に巨大な十字架は一体……」
神父は2メートル程もある巨大な銀の十字架を、音を立てて引き摺っている。
「あの……神父様? やっぱり貴方って黒幕だったり?」
「……」
神父は何も言わずに俺の前に歩み出ながら、スッと笑顔を消して細い瞳になる。
「あの、だから神父様? それは……なんなんですかねぇ?」
黙り込んでいた神父は急に冷たい表情に変わり、その巨大な十字架を逆さにして地に突き立てた。
そして勢い良く叫び始めた。
「エデンに入り込む不遜な輩ぁ……神の作りし庭園に、土足で踏み込む愚か者ぉ……。ゲスがぁ、ゲスがぁ……このッゲス野郎があ!! 今、主の御名の元に! 断罪執行! 楽園追放! 慈悲も無く!! たぁぁだロンギヌスの槍の様に!! 神の胸を貫いた!! ぁぁあの聖槍の様にィィ!!」
泣きまくった神父が、今度は獣の様に叫び出した。
「処刑を開始する――――チィツジョの為ニィィイイッッ!!!」
「うわわわ……」
「これは貴様の墓標だぁ……。きたねぇきたねぇクソ蛇がぁ――ッ!!」
そのおじさんがもの凄い巻き舌で叫ぶと、なんか空気がビリビリと震えた。
ただなんかヤバイ人が来たなって、俺は思った。
でも多分大丈夫だろう。
俺チートだしw。